エウリピデスは、マイナデスが持つテュルソスから蜂蜜が滴ったと表現している[3]。テュルソスは宗教的儀礼や祭儀のにおける、神聖な道具であった。テュルソスは葉の中に鉄の突起を隠しており、ディオニューソスやその信者達が持つとき、恐るべき武器に変わったともされる[4]。そのため、テュルソスは「ブドウの葉に包まれた槍」「木ヅタを巻いた槍」などと表現されることもあり[5][6]、その先端の突起が狂気を引き起こすと考えられた[7]。 テュルソスはディオニューソス(バッコス)と、その従者であるサテュロスやマイナデスに関連し、一般的に繁栄、繁殖力、快楽主義、悦楽/楽しみなどを象徴する[8]。特に、ウイキョウが男性器を、松かさが「種」を示しているとしてファルスの繁殖力に関連付けられてきた。テュルソスはバッコス信仰の踊りの際に掲げられる。 エウリーピデースの『バッカイ』では、ディオニューソスの信女に扮したペンテウスがディオニューソス[注 1]に、次のように尋ねるシーンがある[9]。ペンテウス「テュルソスを右手に持つほうがよいか、それともこの手か。どちらがいっそう、バッカイらしく見えるだろうか。」ディオニューソス「右手です。そして右足と同時に振り上げねばならない。」 テュルソスは時に、カンタロスと呼ばれる、ワインを飲むための陶器とも関連付けられる。カンタロスもディオニューソスの象徴とされ、テュルソスとカンタロスは、王笏と宝珠と同様に「男性性と女性性」の組み合わせであるとされる[10]。
象徴としてのテュルソス
ギャラリー
テュルソスを持つディオニューソスの信者。ブグロー作『マリス』(1899年)
テュルソスを持つマイナデスを描いたローマ時代のレリーフ。紀元後120-140年頃。プラド美術館(マドリッド)所蔵。
John Reinhard Weguelin
サテュロスを払い除けるためにテュルソスを使うマイナデス。赤絵式のキュリクス(杯)。紀元前480年頃。
ジョン・コリア作、『バッコスの信女』
脚注[脚注の使い方]
注釈^ バッカイを率いる人間としてペンテウスの前に登場しているため、ペンテウスは彼がディオニューソス自身であることを知らない。
出典^ a b c 『バッカイ』訳注、逸見訳、p.131。
^ 『ギリシア・ローマ神話辞典』p.168。
^ 『バッカイ』711行。
^ Diodorus. iii. 64, iv. 4; Macrobius. Sat. i. 19.
^ オウィディウス『変身物語』第3巻 667行
^ 『バッカイ』25行。
^ Hor. Carm. ii. 19. 8; Ovid. Amor. iii 1. 23, iii. 15. 17, Trist. iv. 1. 43.; Brunk, Anal. iii. 201; Orph. Hymn. xlv. 5, 1. 8.
^ Ioannis Kakridis, Ελληνικ? μυθολογ?α Εκδοτικ? Αθην?ν 1987 (in Greek)
^ 『バッカイ』941-943。逸見訳、p.93。
^ Vinum Nostrum. “ ⇒Red-figure bell krater”. Museo Galileo. 2016年12月27日閲覧。
関連項目
マイナデス
参考文献
Casadio, Giovanni; Johnston, Patricia A., Mystic Cults in Magna Graecia, University of Texas Press, 2009
Ferdinand Joseph M. de Waele, The magic staff or rod in Graco-Italian antiquity, Drukkerij Erasmus, 1927
エウリーピデース『バッカイ バッコスに憑かれた女たち』逸身喜一郎訳、岩波書店、2013年。ISBN 978-4-00-321063-5。