古典時代では26インチの楽器はBb2-F3、29インチの楽器はF2-C3の範囲で調律できたが、主音を26インチ、属音を29インチにして4度間隔で前者をD3、後者をA2に調律することが多く、最も良い音が出た。したがってバッハのトランペットとともにニ長調周辺の音程の調性で活躍することが多かった。なお、牛皮の手締め式だったので調律に15分程度はかかったという。
ベートーヴェンの交響曲第9番では楽章ごとに異なる調律を求めた。
また、主音と属音のみを調律していた時代には、曲が転調によってそれらの音から離れても、ロッシーニのオペラの序曲のように第3音や第7音に相当する箇所でティンパニを叩くことが多く用いられた。これは、ティンパニの音質は均等な倍音が出るものの管楽器や弦楽器と比べると不明瞭なため、音程の充実よりは大太鼓のように打楽器的な噪音効果を優先させて用いたことによる。ベルリオーズ/リヒャルト・シュトラウス補筆「管弦楽法」では、リヒャルト・シュトラウスの補筆としてヴェルディの『仮面舞踏会』など初期作品におけるこれらの「無頓着な」用法について「私の趣味ではない」と否定的な意見を寄せているが、これはティンパニの調律が容易になったシュトラウスの時代の反映もあるだろう。
バルトークの「弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽」や『管弦楽のための協奏曲』では、演奏の最中に調律を変更することが求められる。特に第5楽章205小節ではトレモロを奏しながらのグリッサンドが指定され、ペダルティンパニでなければ演奏することができない。他にストラヴィンスキーの『狐』にも同様の奏法指定がある。(例示:伊福部昭「管絃楽法」より)
現代では、このようなペダルを用いた奏法や頻繁な調律の変更も普通に用いられる。現代のティンパニのペダルは段階的なグリッサンドだけでなく、つま先と踵で踏み替えることによって瞬時に半音下がるようにも作られており、ストラヴィンスキー『火の鳥』終盤などで効果的に用いられる。 中国には、「定音缸鼓」Dingyin Gangguと呼ばれるティンパニの構造を取り入れて従来のゴウ鼓(花盆鼓)を改良して作った楽器がある(打楽器辞典 音楽之友社 より)。
その他
主なティンパニのメーカー
ギュンター・リンガー : ギア式のドレスデン・モデルでは、最高峰と言われる楽器。世界の一流オーケストラで使われていてドイツ物のレパートリーの代名詞。
ラディック : アメリカのメーカーで、バランス・アクションを開発したメーカー。かつてギュンター・リンガーからアポイントメントを受けリンガー・ティンパニを製造している。ハンドル式も製造。
ウォルフガング・チュスター : いわゆる19世紀当時のままのウィーン式手締めパウケン。
プレミア : イギリスのメーカーで、クラッチ式。フランス物に威力を発揮する。
⇒アダムス : オランダのメーカーで、最上位機種はクラッチ式とギア式のドレスデンモデル。バランス・アクション、手締めバロックティンパニも製造。
コールベルク : 南ドイツの新規の打楽器の総合メーカーで、主にギア式だが、どんな注文にも応じている。
ヤマハ : 日本のメーカーで、バランスアクション式、シングルスクリュー式、手締め式、最上位機種はギア式とクラッチ式がある。
パール : 日本のメーカーで、バランスアクション式、シングルスクリュー式、手締め式がある。
レフィーマ/エーネルト : ドイツのメーカーで、ギア方式。バロックティンパニも製造。
ウォルフガング・ハルトケ : ギュンター・リンガーの流れを汲むティンパニを製作。
デルフラー : ギュンター・リンガーの流れを汲むティンパニを製作。
ヴィンケルマン : ギュンター・リンガーの流れを汲むティンパニを製作。
アメリカン・ドラム : ワルター・ライトで有名な、ギア式ティンパニを製造。
ヒンガー・タッチトーン : 元メトロポリタン歌劇場ティンパニストが製作した楽器。
ソウル・グッドマン : 元ニューヨークフィル首席ティンパニストが製作した楽器。ペダルとチェーンがある。
スリンガーランド : 現在は製造していない。
ニッカン : 現在は存在しないメーカーだが、白いFRP製の釜で知られ後にヤマハに組み入れられた。
シュペンケ・メッツルl : ドレスデンを代表するティンパニメーカー。
クリーヴランダー
マジェスティック
譜面上の略記
timpani Timp.(イタリア語)
timbales timb.(フランス語)
Pauken Pauk., Pk(ドイツ語)
kettle drum(英語)
特殊奏法
ティンパニのみを用いるもの
鼓面の中心を叩く
通常ティンパニ奏者は中心から離れた部分を叩くが、鼓面の中心を叩くことにより明確な音程感のない響きが詰まった音が出る。コダーイ・ゾルターンの「ガランタ舞曲」。
手でティンパニを叩く
鈍った野生的な音が出る。
スーパーボールでティンパニの鼓面をこする
スーパーボールは小さなものや半分に切ったものを用い、串やピンを刺しておき、その串の部分を持って擦る。うなり声のような低い連続的な音が鳴る。このスーパーボールによる特殊奏法は、ティンパニに限らず大太鼓やタムタムでも可能。それぞれの楽器の共鳴による特殊な音色が得られる。
ペダルを動かしながら叩く
ペダルを締めるほうに動かしながら叩くと、音が少しずつ高くなり、緩めるほうに動かしながら叩くと、少しずつ低くなる。現代音楽においてはそう珍しくない奏法。参考曲 バルトーク「2台のピアノと打楽器のためのソナタ」
ミュートを用いる
主に布製のミュートを装着して叩くと、音が伸びずに若干こもったような音がする。イタリア語でコペルト coperto (テーブルクロスの意味)。ミュートは、日本では主にプレイウッド社[6]が製造している。
他の打楽器と組み合わせるもの
マラカスでティンパニを叩く
1人の奏者の演奏によりマラカスとティンパニの両方の音が得られる。ティンパニの音は若干鈍くなるが、効果的に使えば有効な奏法である。西村朗の『ティンパニ協奏曲』、『ファゴット協奏曲《タパス(熱)》』、『ケチャ』など。また、バーンスタインの『ウェストサイド物語』では、マンボの後半でティンパニ4台をマラカスで叩く間に音程を変える、視覚的にもアクロバティックな演奏が登場する。
タンブリンをティンパニの上に乗せてティンパニを叩く
1人の奏者の演奏によりタンブリンとティンパニの両方の音が得られる。タンブリンには「脚」と呼ばれる突起がついている必要があり、なければテープまたは絆創膏などで代用する。西村朗の『秘儀III ?旋回舞踊のためのヘテロフォニー』など。
テンプルベル(鈴)やアンティークシンバルをペダル式ティンパニの上に置き、テンプルベルやアンティークシンバルを鳴らしながらティンパニのペダルを踏み替える
ベルがティンパニの胴に共鳴し、ペダルを踏み替えることにより倍音のフォルマントが変化し非常に澄んだ神秘的な音が鳴る。アンティークシンバルよりもテンプルベルのほうが効果的であり、またどちらも低い音のほうがより豊かな共鳴が得られる。1台のティンパニの上にベルを複数載せることも可能。武満徹の『ウィンター』[注釈 2]、湯浅譲二の『相即相入 第二番』、細川俊夫の音楽などで効果的に使われている。
シンバルをティンパニの上に乗せてティンパニもしくはシンバルを叩く
風の音や海の音を表現するときに使用される。
打楽器以外の楽器と組み合わせるもの
共鳴の手段として用いる
声や金管楽器などをティンパニに向けて発音し共鳴させる。きちんとチューニングが合っていないと共鳴しない。
奏者がティンパニの中に上半身の一部を突っ込む
マウリシオ・カーゲルの『ティンパニとオーケストラのための協奏曲』で用いられる奏法。ティンパニのうちひとつの鼓面(ヘッド)を外して替わりに紙を張り、そのティンパニは置くだけで叩かず、曲の最後に奏者がマレットで叩き割って頭・肩・腕・上胸部(=上半身)を突っ込む(打面替わりに張った紙を破ってケトルに飛び込む)。
代表的作品
主なティンパニのための作品
協奏曲
テレマン:3つのトランペット、ティンパニと管弦楽のための協奏曲 ニ長調
ドルシェツキー
マルタン:7つの管楽器、弦楽とティンパニのための協奏曲
マルティヌー:2群の弦楽合奏とピアノ、ティンパニのための協奏曲
ジェイコブ:ティンパニと吹奏楽のための協奏曲
プーランク:オルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲 ト短調