1928年、アメリカニューイングランド、ロードアイランド州プロヴィデンス近郊の精神病院からチャールズ・デクスター・ウォードなる26歳の患者が失踪した。この失踪事件の真相として物語が語られる。
少年時代から好古趣味があったチャールズ・ウォードは、母方の5代前の先祖ジョゼフ・カーウィンなる人物にただならぬ興味を抱き、16歳の頃から熱心に調べていた。カーウィンは、18世紀のプロヴィデンスにおいて貿易商として成功していたが、奇怪な噂のたえない人物で、いつまでも歳をとらず、墓場を徘徊し、自らの農場に何者かを飼い、黒魔術めいた実験を行っているといわれ、ついにはその実態を、恋人をカーウィンに奪われた船員の復讐によりつきとめられ、プロヴィデンス市民に私刑にされたという。
カーウィンの住んでいた家をつきとめたチャールズは、そこに発見した自分そっくりのカーウィンの肖像画を自宅の書斎に持ち帰って据えつけ、肖像画の背後にあったカーウィンの日記を読みふけるようになり、やがてカーウィンと同じく怪しげな実験、研究に熱をいれだしはじめる。成人してもチャールズはその研究を続け、欧州への長期研究旅行を経て、さらに謎めいた呪文や悪臭を発する実験に深入りしていく。
心配したチャールズの父は、ウォード家の主治医のウィレット医師に相談するが、ある日、ウォード邸に不可思議な異変がおこったとき、父が息子の書斎に見たものは、絵の具が落ちてしまったカーウィンの肖像画であった。
チャールズは、かつてカーウィンの農場のあった村の小別荘へ移り、アレン博士なる髭の人物と暮らし始める。しかしやがてウィレット医師のもとに、チャールズから「すべてを話す。アレン博士は見つけ次第射殺せよ」との手紙がとどいたので、ウィレット医師がチャールズのもとへとおもむいてみると、チャールズは、あの手紙はちょっとした気の迷いにすぎないと別人のように変質した声で語ったので、とうとうチャールズは精神病院に入れられてしまう。
欧州からサイモン・O、およびエドワード・Hなる人物がチャールズによこす手紙をみると、彼ら3人は共謀しあって何かよからぬ者をこの世に召喚しようとしているらしかった。OとHとは、カーウィンの仲間であったサイモン・オーンと、エドワード・ハッチンソンではないのかとウィレット医師は疑う。
やがて、チャールズの小別荘に潜入し、そこにすべての秘密を見つけたウィレット医師は、チャールズの父に、近いうちにチャールズは精神病院から永遠に失踪するが、チャールズが悪をなしたわけではないのだという手紙を送ったのち、精神病院でチャールズと対峙する。それはチャールズではなく、チャールズによってこの世によみがえったジョゼフ・カーウィンなのであった。アレン博士は生き返ったカーウィンの変装であり、自らが生き返らせたカーウィンの悪に恐れをなしたチャールズが、カーウィンを再び消滅させようとしたのだが、逆に殺されてしまい、それ以来カーウィンがチャールズになりすましていたのだ。カーウィンはすべてを看破したウィレット医師のとなえる呪文により、その場に灰となる。 『怪談呪いの霊魂』(原題:The Haunted Palace
日本における出版
小説
チャールズ・ウォードの奇怪な事件
訳:宇野利泰
『怪奇幻想の文学 III 戦慄の創造』(新人物往来社、1970年)に収録
『ラヴクラフト傑作集02』(創元推理文庫、1976年)に収録
『ラヴクラフト全集2』(上記『ラヴクラフト傑作集02』の改題)に収録 ISBN 978-4488523022
狂人狂騒曲 -チャールズ・デクスター・ウォードの怪事件-
訳:小林勇次 ⇒藤原編集室によると、この題は『世界恐怖小説全集』(東京創元社)の第6巻に予定されていた平井呈一の訳「狂人狂想曲 ?チャールズ・デクスターの病症?」へのオマージュであるとのことである。
『定本ラヴクラフト全集04 小説篇IV』(国書刊行会、1985年)に収録
チャールズ・デクスター・ウォード事件
訳:大瀧啓裕
『クトゥルー10』(青心社文庫、1997年)ISBN 978-4878921292
コミック
チャールズ・ウォードの奇怪な事件
画:原田雅史
『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』 (PHP研究所 クラシックCOMIC、2012年) ISBN 978-4569802534
メディア化
怪談呪いの霊魂
キャスト
ヴィンセント・プライス - 主人公
デブラ・バジェット - ウォードの妻
フランク・マクスウェル - ウィレット医師
スタッフ
監督: ロジャー・コーマン
1963年公開、AIP(アメリカン・インターナショナル・ピクチャーズ)作品
DVD
『怪談呪いの霊魂』 エスピーオー OPSD-S112
ヘルハザード・禁断の黙示録