ラサ・チベット語の母音は、母音調和の観点から「高段母音 (high)」と「非高段母音 (non-high)」に分類できる[41]。
高段i??yu?
非高段e?aoo?
一定の形態論的単位において、非高段母音は対応する高段母音へと変化する。高段母音を含む単音節形式と、非高段母音を含む単音節形式が組み合わさって、二音節語が形成される場合がそうである[41]。以下の語形成プロセス[42]における[o]と[y]の交替は、こうした母音調和の規則から説明することができる。
??? (bod) [p?o??] 「チベット」+ ??? (skad) [k???]「言語」
→ ??????? (bod.skad) [p?o??????]「チベット語」
??? (bod) [p?o??] + ???? (gzhung) [????]「政府」
→ ???????? (bod.gzhung) [p???????]「チベット政府」
????? (dbyin) [j???]「英」 + ??? (bod) [p?o??]
→ ????????? (dbyin.bod) [j??mby?]「英国とチベット」
ところが、これとは逆に高段母音が非高段母音に変化する場合もある。高段化と非高段化のどちらが生じるかは音韻論的条件からは予測できない[41]。
?? (bu) [p?u]「息子」 + ?? (mo) [mo]
→ ????? (bu.mo) [p?omo]「娘」
動詞に時制・アスペクト・モダリティ・証拠性の標識が接続した際にも、母音調和が発生しうる。この場合は一貫して高段化のみが見られる[41]。
???? ('gro) [?o]「行く」
→ ??????????? ('gro.gi.yin) [?ugij??]]「行く (未来:自称)」 ラサ・チベット語の声調は、2種類(高声調・低声調)のみを認める二声調説のほか、ピッチの下降に弁別性を認める四声調説(高平調・低昇調 + 高降調・低降調)が主流な見解となっている[43]。二声調説において、ピッチの下降は音節末子音[k, ?]の異音として分析される[44]。 ラサ・チベット語の音韻語 高声調と低声調が対立するのは、音韻語の第一音節のみである[44]。語形成の際、第二音節に来る語 (または接辞) が低声調の場合は、高声調へと連続声調する[46]。音韻語内の連続声調のパターンは以下のようにまとめられる。 四声調説では、高平調から高降調、低昇調から低降調がさらに区別される。もっとも、下降調 (高降調・低降調) が現れるのは、音韻語の最終音節のみである[47][48]。二音節語の第一音節において、高降調・低降調はそれぞれ高平調・低昇調として実現される。 チベット語は能格言語であり、絶対格と能格の区別がある。文語では名詞にこれを含めて9つの格があり、これらは絶対格(無標)を除き、接語で示される。これらは日本語の助詞と同じく、名詞句のあとにまとめてつける。複数は必要な場合にのみ接尾辞で示される。 文語の動詞には、形態的に最高で4つの基本形式(活用)があり、それぞれ現在形・過去形・未来形・命令形と呼ばれる。活用は母音交替や接頭辞・接尾辞によるが、あまり規則的ではない。ただしこのような活用ができる動詞は限られており、口語では助動詞を用いてアスペクトや証拠性などを標示する。動詞の大多数は2種に分けられ、1つは動作主(助辞 kyis などで示される)の関与を表現し、もう1つは動作主の関与しない動作を表現する(それぞれ意志動詞と非意志動詞と呼ばれることが多い)。非意志的動詞のほとんどには命令形がない。動詞を否定する接頭的小辞には、mi と ma の2つがある。mi は現在形と未来形に、ma は過去形(文語体では命令形にも)に用いられる。現代語では禁止にはma+現在形が使われる。有無は存在動詞の「ある」yod と「ない」med で表す。 また、チベット語においては、日本語と同様に敬語組織が発達している。基本的動詞には別の敬語形があり、その他は一般的な敬語形と組み合わせて表現する。
声調
音韻語と文法語
連続声調
高声調 + 高声調 → 高声調 + 高声調 (変化なし)
低声調 + 高声調 → 低声調 + 高声調 (変化なし)
高声調 + 低声調 → 高声調 + 高声調
低声調 + 低声調 → 高声調 + 高声調
高降調 + 高平調 → 高平調 + 高平調
高平調 + 高降調 → 高平調 + 高降調 (変化なし)
文法詳細は「現代ラサ・チベット語の文法」を参照
方言詳細は「チベット諸語」を参照