ダニ目
[Wikipedia|▼Menu]
ダニ類は熱帯から極域まで世界中に分布し、高山から低地・乾燥地から湿地・土壌中・水中・家屋内や貯蔵食品内等の人工的な環境、さらには植物や動物の体組織中まで様々な環境に適応して生息する。一般に体が微小であることから、様々な微環境に応じてそれぞれ異なる種が棲み分けており、分布が局在している種もあるがコスモポリタン種も多い。また、一部の水生ダニ類では成体が陸上で生活する等、成長段階により生息環境が変化する種もいる。

食性もそれぞれの種の生息する微環境に適応し、菌食性・腐食性・捕食性・植食性・寄生性等クモ形類としては非常に多様である。注目されることの多い寄生性の種についても、寄生生物として高度に適応しているものから、宿主に対する捕食に近いもの、宿主の体組織を一種の微環境として生息しているものまで段階は様々である。また寄生性のツツガムシ類やタカラダニ類等幼体時と成体とで食性が変化するものもある。

繁殖は通常、オス個体がメス個体に精包を直接または間接的に渡して受精させる両性生殖だが、通常時はメスのみで単為生殖を行う種も多い。産卵は土壌動物のイレコダニ類の様に一回に1個しか産まないものから複数個産むもの、体内で孵化して幼体を産むものまで種により異なる。

幼体は脱皮を繰り返し複数の令期を経て成体となるが、種により特定の段階ないし環境の変化により、付属肢や口器を退化させたシストと呼ばれる繭状の形態になるものがある。単に蛹状の休眠状態をとるものから寒冷や乾燥等の環境悪化に高度な耐性を持つものまで様々である。

ダニ類は形態が多様であるため、歩脚を発達させて活発に歩行したり、遊泳するものや跳躍能力をもつもの、歩脚を退化させて蠕動を行うものや固着生活を行うもの等様々であるが、いずれの種においても身体が微小であるため、個体としての運動能力は非常に限定的である。しかし生態も多様であることから、哺乳類等の大型動物や飛翔能力のある昆虫に寄生あるいは体表に付着することにより長距離を移動するものなど、種によっては大きな移動能力を獲得している。特に、ハダニ類等糸を出してバルーニングによる移動を行う種やシスト形態時に風に飛ばされて分散する種などでは非常に広い分布域を持つものがあり、1つの種が汎世界的に分布しているものもある。

通常ダニ類は医療上、農業上等の有害生物として捉えられることが多いが、その様な種はダニ類全体としてはごく一部であり、大半は人間の活動に無関係で、ササラダニ類等土壌生活性のダニ類などの分解者捕食寄生により特定の種に対する天敵として機能しているもの等、生態系を支える重要な役割を担っている。

アダクチリディウムやアカロフェナックス・トリボリイ等、兄妹・姉弟で近親交配を日常的に行う種がいる[16]
人間との関わり

ダニ類は種数・個体数ともに膨大であるため、人間の活動に関わりのある種は、ダニ類全体に対してはごく僅かな割合でしかないが、保健衛生上また農業上有害な生物として、その影響は無視できない。

ダニという場合、有害な吸血生物のイメージが一般的だが、外部寄生により吸血を行う代表的なものとしてマダニ類とイエダニ類が挙げられる。これらのダニ類は通常はマダニがシカなどの野生動物を、イエダニが住家性のネズミ類を寄生対象としており、ワクモツツガムシ等人間以外の生物を宿主としている種でも、状況により人間を吸血し被害を与えるものがいる。現代では日常生活でこれらのダニの寄生を受ける機会はほとんどないが、アウトドアでのレジャー等野外活動時にマダニ類やツツガムシ類の被害を受ける例が増えている。これらの被害を受けると、吸血時のダニの唾液物質によるアレルギー性の咬症の他、マダニ類の口器により傷口が化膿したり、場合によってはリケッチアやウィルス等による重篤な感染症を発症することがある。

直接吸血はしないが、人体の組織に寄生するダニとして、ヒゼンダニニキビダニ類が挙げられる。ヒゼンダニは皮下に穿孔して寄生し疥癬という皮膚病を発症させる。ニキビダニ類は主に顔面の毛包に寄生しており、通常無症状であることが多いが体質や状況によりアレルギー性皮膚炎の原因となる。

また人体に寄生はしないが、住家中のハウスダスト)の中も数種のダニが生息しており、これらは埃中の有機物を食べているので人体への直接の加害はないが、糞や脱皮殻、個体の死骸等が皮膚炎や気管支炎等のアレルギー性疾患を引き起こす元(アレルゲン)になることがある。さらにこのダニ類を捕食するツメダニ類が繁殖し、偶発的に人体を刺す皮膚炎も発生している。

人体に被害を与えるもの以外では、台所や食品倉庫でコナダニの仲間が小麦粉や乾物等の貯蔵食品などに繁殖し、食品工場等で大きな損害を与えることがある。

農業害虫として、植物に寄生するダニのうちでもハダニ類には産業上重要なものが多い。この仲間は植物の表面にクモのように糸を張り巡らして巣をつくり集団で生活する。植物組織内に口器を挿入し細胞の原形質を吸い取って摂食するが、刺咬時に有害な成分を分泌するため葉が変色し、寄生数が多い場合株ごと枯死することもある。殺ダニ剤等の農薬に抵抗性を持ち、防除が困難なケースも多い。

ダニ類が人間の活動に有用に関与している例として、間接的には分解者としての土壌動物のダニ類等生態系を支えている重要なメンバーとしての働きなどを挙げることができるが、直接的な利用はあまり多くない。産業上重要な例として、農業害虫のハダニ類防除に、カブリダニ類等これらの植物寄生性ダニ類の天敵である捕食性のダニ類が生物農薬として用いられている。

また、ヨーロッパではミモレットエダムチーズ等伝統的なチーズの熟成法としてチーズダニが利用される[17]
ダニが媒介する感染症例

ツツガムシ病 - ツツガムシリケッチアの感染によって引き起こされる、人獣共通感染症のひとつであり、野ネズミなどに寄生するダニの一群であるツツガムシが媒介する[18]

ライム病 - ノネズミやシカ、野鳥などを保菌動物とし、マダニ科マダニ属のシュルツェマダニ(日本以外では、Ixodes ricinus(ユーラシア大陸)、Ixodes scapularis、Ixodes pacificus(北アメリカ大陸)群のマダニ)に媒介されるスピロヘータの一種、「ボレリア」 の感染によって引き起こされる人獣共通感染症のひとつ。感染症法における四類感染症[19]

日本紅斑熱 - ダニに刺されて日本紅斑熱リケッチアに感染することで高熱や赤い斑点、刺し傷が体にできる。1984年に徳島県で発見された新興感染症であり、2009年までの5年間に470人が発症、2006年と2008年には死者が出た[20]。1999年から感染症法4類感染症。

ロッキー山紅斑熱 - 1906年リケッツにより発見された初めてのリケッチア。マダニにより感染する。世界中に分布する。

2007年から中国でブニヤウイルス科のウイルスをダニが媒介した病気により、30人以上死亡したと言われる(中国での血小板減少症候群の流行)。

重症熱性血小板減少症候群(SFTS) - マダニ

クリミア・コンゴ出血熱 - ウイルス性出血熱のひとつ。

分類

ダニ類は種類数も多く、極めて多様なメンバーを含み科の数も非常に多い。分類階級について、かつては目階級(ダニ目)であったが、のちに亜綱階級(ダニ亜綱)へ昇格されるようになった。この場合、ダニ類の下位分類は大まかに胸穴ダニ類(胸穴ダニ上目、マダニ目・アシナガダニ目・カタダニ目・トゲダニ目を含む)と胸板ダニ類(胸板ダニ上目、汎ササラダニ目・汎ケダニ目を含む)の2群としてまとめられる[21][22]

従来は単系統群と考えられてきたが、分子系統解析によって諸説に分かれる。胸穴ダニ類と胸板ダニ類はそれぞれ別系統で、ダニ類の多系統性を示唆する結果[3]があれば、両者は姉妹群でダニ類の単系統性を支持する結果もある[4]

以下はダニ類を従来のダニ目とし、代表的な科のみを拾い上げる。また、この中に諸説もあるので、注意して頂きたい。

ダニ目 (Acari)

アシナガダニ亜目

アシナガダニ科


トゲダニ亜目 (Mesostigmata)

ユメダニ科

イトダニ科

ヤドリダニ科

カブリダニ科

ワクモ科 - イエダニなど




カタダニ亜目

カタダニ科


マダニ亜目 (Ixodida)

ヒメダニ科

マダニ科 - 大型で脊椎動物に寄生


ケダニ亜目 (Prostigmata)

テングダニ科

ハシリダニ科

ウシオダニ科 - 海中性

ハモリダニ科

タカラダニ科 (Erythraeidae)

ツツガムシ科 (Trombiculidae) - ネズミなどから吸血・ツツガムシ病を媒介

ナミケダニ科 (Trombidiidae)

ヒヤミズダニ科 - 水中性:以下、いわゆるミズダニ類。

オオミズダニ科

オヨギダニ科

ツメダニ科 - 他のダニなどを捕食

ニキビダニ科 - 汗腺の中に寄生

ハダニ科 - 植物の組織を食う・農業害虫

シラミダニ科 - 昆虫に外部寄生

ホコリダニ科



次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:44 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef