タヌキ
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上記のように1928年に毛皮をとる目的でソ連(現・ロシア)に移入されたビンエツタヌキが野生化し、ポーランド、東ドイツ(当時)を経て、現在はフィンランドやドイツにも生息している。1990年代頃からフランスやイタリアでも目撃例があり、分布を確実に広げている[10]。ヨーロッパの外来種については、カリーニンタヌキ N. p. kalininensis Sorokin, 1958 の亜種名が与えられているが、後述分類のとおりビンエツタヌキのシノニムとみなされている。
形態

頭胴長(体長)50 - 68センチメートル[6][11][12]。尾長12.5 - 25センチメートル[4][11]。体重4 - 6キログラム[6][11]。秋季には体重6 - 10キログラムに達することもある[4]。冬場に向けてのタヌキは長短の密生した体毛で、ずんぐりとした体つきに見えるが、見かけよりは足も尾も長く、毛がなければ顔つきも犬に似ている。そのため、生まれたばかりで毛が短い幼少期は、犬の子供と間違われて拾われて飼われることもある。

体色は全体的には灰褐色あるいは茶褐色で、目の周りや足先、耳の縁が黒く、部分的に白い毛の交じる個体が多いが、まれに全身が真っ白な白変種も存在するし、全身真っ黒の個体が存在したという記録もある[13][14]など、個体差が大きい。幼獣は肩から前足にかけて焦げ茶の体毛で覆われており、有効な保護色となっているが、成熟すると目立たなくなる。陰嚢は、俗に「狸の金玉八畳敷き」と言われるが、それほど大きいわけではない。

食肉目の共通の先祖は森林で樹上生活を送っていたが、その中から獲物を求めて森林から草原へ活動の場を移し、追跡型の形態と生態を身につけていったのが、イヌ科のグループである。タヌキは湿地・森林での生活に適応したイヌの仲間であり、@media screen{.mw-parser-output .fix-domain{border-bottom:dashed 1px}}追跡形の肉食獣に較べて水辺の生活にも適した体型である[要出典]。胴長短足の体形など、原始的なイヌ科動物の特徴をよく残している。
分類もう一種の説とされるN. viverrinusこと、ホンドタヌキ

学名Nyctereutes procyonoidesの日本語の表記の例としてはニュクテレウテス・プロキオニデス[15]、ニクテレウテス・プロキオノイデス[16][17]などがある。

以下の日本個体群を除く亜種の分類は、Ward & Wurstar-Hill (1990)・MSW3 (Wozencraft, 2005) に従う。これらの分類では日本個体群を含めている。和名・英名は今泉 (1993) に従う[18]
Nyctereutes procyonoides procyonoides (Gray, 1834) タイリクタヌキ(ビンエツタヌキ)
染色体数は2n=54+B[2]。N. p. kalininensis や N. p. sinensis・N. p. stegmanniはシノニムとされる[3]
Nyctereutes procyonoides koreensis Mori, 1922 コウライタヌキ Korean raccoon dog
タイプ産地はソウル近郊の議政府[2]大韓民国)。
Nyctereutes procyonoides orestes Thomas, 1923 ウンナンタヌキ Yunnan raccoon dog
タイプ産地は雲南省[2](中国南部)。
Nyctereutes procyonoides ussuriensis Matschie, 1907 ウスリータヌキ Ussuri raccoon dog
タイプ産地はウスリー川河口[2]。N. p. amurensis はシノニムとされる[2]

日本の個体群を本種の1亜種ニホンタヌキN. p. viverrinusとする説や[2][3]北海道産をエゾタヌキN. p. albusとする説もあった[4][11][19]。エゾタヌキはホンドタヌキN. p. viverrinusよりやや被毛が長く、四肢もやや長めである[4]

2015年に大陸産と比べて頭骨が長いこと・染色体数から日本産の個体群を独立種N. viverrinusとする説も提唱されている。この説では下位分類として亜種N. v. albusも認めている[8]。この説に従うとタヌキ属の模式種は N. viverrinus となる[3]。研究論文ではないが、日高敏隆の『ぼくの世界博物誌』[20]には、フィンランドで毛皮用に養殖されているシベリアから来たタヌキと、日本のホンドタヌキの掛け合わせがうまく行っておらず、その原因を「日本タヌキとシベリアタヌキ染色体の数が少し違う」からだと述べられている。

以下の日本個体群の分類は、Kim et al. (2015) に従う[8]。学名の著者はWard & Wurstar-Hill (1990) に従って補足した[2]
Nyctereutes viverrinus viverrinus (Temmink, 1838) ホンドタヌキ
本州四国九州[8]。タイプ産地は本州と考えられている[21]。染色体数は2n=38+B[2]
Nyctereutes viverrinus albus Hornaday, 1904 エゾタヌキ
北海道[8]。タイプ産地は購入地である長崎や捕獲地とされる北海道とする説もあるが、記載論文では正確に示されておらず不明とされ、ニューヨークで飼育されていた毛皮の白い個体(タイプ標本)の所在も確認されていない[21]。染色体数は本州以南の個体群と同様に2n=38+B[22]
生態

森林のほか、農業地帯や都市部にも生息する[23]。湖などの水辺で、下生えの深い環境を好む[2][4]シベリアの例では河川や小さい湖の周辺にある沼地や草原・藪地・広葉樹林などを好み、タイガは避ける[2]夜行性だが、人間の影響がない環境では昼間でも活動する[4]。属名Nyctereutesは、古代ギリシャ語で「夜」の意があるnyctosと「探す」の意があるereunaに由来する[2]。交尾時期から子育てを終えるまでの間は、ペアを形成して行動する[19]

行動圏は地域・季節などによって非常に変異が大きい[2]。巣穴は自分で掘らず[19]、自然に開いた穴やアナグマ類キツネ類の穴を利用し、積み廃屋などの人工物を利用することもある[4]

本種には複数の個体が特定の場所にをする「ため糞(ふん)」という習性がある[24]。1頭のタヌキの行動範囲の中には、約10か所のため糞場があり、1晩の餌場巡回で、そのうちの2、3か所を使う。ため糞場には、大きいところになると、直径50cm、高さ20cmもの糞が積もっているという。ため糞は、そのにおいによって、地域の個体同士の情報交換に役立っていると思われる。

死んだふり、寝たふりをするという意味の「たぬき寝入り」は、猟師猟銃を撃った時、その銃声が刺激となってタヌキは「擬死」の状態に入り、猟師が獲物をしとめたと思って持ち去ろうと油断すると、その間に擬死が解けて逃げ去る状況を表す[11]。同様の習性を持つことから、擬死を指す表現として英語圏では fox sleep(キツネ寝入り)、それよりさらに一般的なものとして playing possum(ポッサムのまねをする)という言いまわしがある[25]


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