タコ部屋_(日本の官僚)
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—— 緒方林太郎(政治家、元・外務官僚)、第174回国会 決算行政監視委員会第一分科会 第2号、2010年5月18日[19]

あるプロジェクトが発足してそのタコ部屋に人員がとられ人員不足で徹夜続きの部門が出たり[20]、注目されないプロジェクトで予定よりも少人数で(やりがいと興奮で熱くのめり込みつつも)作業を強いられるタコ部屋もある[21]。パブコメ案を完璧なものにと言われるとそれはちょっと事務局がかわいそうでございます。今、環境省ではわずか数名でこの仕事をやっておりまして、省の大部分のスタッフが別のタコ部屋にとられてしまって、非常に弱体の人数で、徹夜、徹夜で作業をやっておりますので、その辺の事情もぜひお酌み取りいただければと思います。

—— 浅野直人(法学者、環境省 中央環境審議会 委員)、第67回 中央環境審議会総合政策部会、2012年2月21日[20]
私が今の仕事に関わることになった原体験についていえば、通商産業省(現経済産業省)入省2年目に、ベンチャーファンドの根拠法になった「投資事業有限責任組合法」という法律の起草に携わったことでしょうね。通常、省庁で法律の策定作業をする際には、「タコ部屋」と呼ばれる部屋に、十数人の法律を作る人間が集まって共同作業をするんです。しかしその当時、私は外局の中小企業庁にいたのですが、あまりベンチャーファンドが注目されていなかったためか、当時の課長と課長補佐、そして係長である私の3人だけで作業しました。ベンチャーキャピタルや投資業界、起業家といったさまざまな業界の方や法律家、会計士の意見をとりまとめながら、他省庁や政治家とやりとりをしながら法律案を作っていくプロセスは、官僚的な意思決定というよりは、すごくやりがいがありましたし、興奮して熱くのめり込んでいました。

—— 郷治友孝(東京大学エッジキャピタル社長、元・通産官僚)、SanRen 対談 「ベンチャーを目指す学生たち」、2012年4月12日[21]

過重労働

法案作成・予算案作成・国会対応などにより深夜残業が常態化している霞が関は「不夜城」という異名を有し、深夜のビル街を照らす[* 2]

2004年から2012年まで経産官僚だった宇佐美典也は、最若年者としてタコ部屋要員に従事していた頃を回想して次のように語った。あるとき、1週間徹夜が続いてまとまった睡眠時間が取れなかった状況で、関係省庁まで資料を届けに行った帰りに廊下で転ぶとそのまま立ち上がれず、力尽きて寝てしまったことがありました。眠ってしまってからどれくらいの時間が経ったのかはわかりませんでしたが、目が覚めるとなぜか部屋の中にいて、簡易ベッドに横たわった自分に毛布がかけられていました。このときばかりは、チーム員の優しさに涙しそうになりました。

—— 宇佐美典也、『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』、第3章 キャリア官僚制度には意義がある: 「タコ部屋」の思い出(ダイヤモンド社、2012年)[8]

宇佐美は企業立地促進法に関わる当該プロジェクトで300時間を超える残業が数か月続き、私生活が全くないだけでなく、著しく健康を損ねたという[8]

さる経済官庁の課長級職員(出向中)によると、宇佐美のように体を壊す要員は少なくない[23]。しかしながら、いわゆるブラック企業等に立ち入り調査を行う労働基準監督署であっても、一般職(事務職)の国家公務員に対して労働基準法労働安全衛生法は拘束力がなく労働基準監督署は立ち入ることがない(同経済官庁・課長級職員)[23]。条文が示すことになる内容の方の関係省庁などとの文案調整も大変だ。法案を作成するために人員が一室にかき集められることが多い。霞が関では自虐的に「タコ部屋」と隠語で呼ぶが、少ない人数で過酷な激務をこなす。身体を壊す国家公務員も少なくない。一般職(事務職)の国家公務員には、労働基準法や労働安全衛生法の適用はなく、厳しい労働基準監督署の立ち入りもない。

—— 経済官庁B 課長級(出向中)、『霞ヶ関官僚が読む本』寄稿記事、(J-CASTニュース、2013年1月17日)[23]

国家公務員の一般職とは、特別職総理大臣国務大臣防衛省職員など)[* 3]以外の職員全てであり、官僚は基本的に国家公務員の一般職(公務員試験の区分である「一般職」とは異なる。公務員試験の区分の場合、官僚は「総合職」である)である。国家公務員の一般職は労働基準法の拘束力がないが、地方公務員の一般職(警察官消防官など公安職を除く)は原則として同法の拘束力がある[24]

国家公務員に労働基準法の拘束力がないことは、林雄介『霞ヶ関の掟 官僚の舞台裏』にもそれが不思議であると記述されている[25]。不思議なことに、国家公務員に労働基準法は適用されないのである。だから、過労死も存在しない。何百時間働かせても法律に触れないのである。

—— 林雄介(元・農水官僚)、『霞ヶ関の掟 官僚の舞台裏』(日本文芸社、2003年)[25]

2007年総理大臣官邸で行われた公務員制度に関する懇談会においては、労働基準法の拘束力がないことにより、法案作成チームに限らず、官僚の労働そのものがタコ部屋状態であると指摘されている[26]高木剛委員: このワーク・ライフ・バランスとか書いていただいておるんですが[* 4]、官僚の皆さんには労働基準法の適用がないんですよね。ワーク・ライフ・バランスで、あの仕事の仕方で時間管理、あんなことでみなし手当かなんかで、あれはちょっと直さないと。
岡村正座長: ええ、そうですね。
屋山太郎委員: タコ部屋だよな。

—— 第9回 公務員制度の総合的な改革に関する懇談会、2007年12月7日[26]

労働基準法(1947年4月7日公布)の拘束力がない要因の古くは1948年7月22日芦田均首相宛マッカーサー書簡というものがあり、その後GHQから国家公務員法改正案が提示されて法改正がなされたことによりマッカーサー書簡の法令上の明文化が行われ、労働基準法・労働組合法は国家公務員一般職に対する拘束力がないということになっている[27]。また、公務員の勤務に関する理論の特別権力関係論は、原則として公務員は人権の制限等を受けなければならないというものである[28]。この理論はプロイセンの行政法を模範とした大日本帝国憲法(明治憲法)下の行政法で取り入れられたものであるが[29]、一転して第二次世界大戦後の日本の公務員の勤務関係は特別権力関係論を排除する努力がなされ、日本国憲法と合致する行政法を目指した[30]。しかし戦後この理論は直ちに排除されたわけではなかった[30]1957年、公務員の勤務関係において特別権力関係を支持する最高裁判決が出たこともある(最判昭和325・10[* 5])。後の別の判決では特別権力関係が否定された(最判昭和497・19[* 6])。

タコ部屋勤務が決定すると「目の前が真っ暗」になる者もいる[31]。また、タコ部屋生活を経験したことのある元通産官僚は、大学教授に転身した後に赴任先の大学が「パラダイス」のように思えたという[32]。霞が関では“タコ部屋”などと呼ばれますが、法律制定や改正のための準備室が立ち上がります。ここに配属されることになる国家公務員は、法律が制定されるまでの間、ずっとタコ部屋に詰め込まれることになり、タコ部屋行きを告げられたときには、目の前が真っ暗になる人もいますね。

—— 齋藤雅一防衛省東北防衛局 局長、1987年 防衛庁入庁)、FMラジオ『自衛隊百科・自衛隊インビテーション』(2016年5月)[31]


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