ソネット集
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William Hart - ウィリアム・ハート(William Hart)はシェイクスピアの甥で相続人。ハートは俳優で結婚はしなかった。

Who He - 2002年の『ソネット集』オックスフォード・シェイクスピア版で、コリン・バロウはこの献辞は意図的に不可解で曖昧であると主張して、当時のパンフレットで使われていた奇想「Who He(彼は誰)」という説をとっている。バロウは、献辞を書いたのはソープで、憶測と議論を呼び、それで売り上げを延ばすためだったとほのめかしている[6]

登場人物

『ソネット集』には、3人の人物のことが言及されている。「Fair Youth(美男子)」、「Rival Poet(ライバルの詩人)」、「Dark Lady(ダーク・レディ、黒い女)」である。語り手は美男子の美しさを賛美し、続いてダーク・レディとの関係を表明する。詩人とこの人物たちがフィクションなのか、それとも自伝的なものかはわからない。自伝的なものであるならば、その人物の特定が必要で、A・L・ローズ(A. L. Rowse)など何人もの研究者たちがそれを試みた。
美男子美男子ならびにW・H氏の候補の1人、3代目サウサンプトン伯ヘンリー・リズリー。21歳の時シェイクスピアのパトロン

「美男子(Fair Youth)」はソネット1番から126番までに登場する名前のない若者である。作者は美男子について、ロマンティックで愛情に満ちた言葉遣いをしている。そのことから、注釈者の中には作者と美男子の間の同性愛関係をほのめかしたり、プラトニック・ラブを読み取ったりする意見がある。

ソネット1番から17番は、作者と美男子の緊密な関係を示していない。作者は美男子に結婚と子作りを薦めている。ところがソネット18番で「Shall I compare thee to a summer's day(君を夏の日にたとえようか?)」と恋愛的な調子に劇的に変わる。とくにソネット20番では、美男子が女性でないことを嘆いている。以後のソネットのほとんどは関係の浮き沈みを歌い、作者とダーク・レディとの情事と共に絶頂に達する。そして美男子がダーク・レディの魅力に屈した時、関係は終わったように見える。

この美男子が誰かを特定する試みがなされてきて、有力な候補者として、「W・H氏」の候補者でもあった、3代目サウサンプトン伯ヘンリー・リズリーと3代目ペンブルック伯ウィリアム・ハーバートの名前が挙がっている[7]。確かにシェイクスピアの語り口は自分より高い社会的地位の人間に向けられたように見えるが、それは恋愛的に相手に服従していることを表すレトリックで、実はそうでない可能性もある。オスカー・ワイルドの『W・H氏の肖像』では美男子を少年の役者に仮定していた。一方、サミュエル・バトラーは美男子を水夫と考えた。
ダーク・レディ

ソネット127番から152番が向けられた女性は、黒髪で暗い肌と書かれていることから「ダーク・レディ(黒い女)」と呼ばれている。美男子のソネットとは対照的に、キャラクターとしてはっきりと性的である。ソネットの語り手とダーク・レディは情事の関係にあったが、ダーク・レディはおそらく美男子と浮気をしていた。作者は自分のことをはげで中年だと自虐的に書いている。メアリー・フィットン

歴史的人物の中にダーク・レディを探す試みがされてきた。候補に挙がったのは、メアリー・フィットン(Mary Fitton)、ローズが推す詩人のエミリア・ラニエ(Emilia Lanier)がいるが、どちらもソネットに描かれたレディとは符合しない。一方、肌が「dun(暗い=くすんだ、灰褐色、焦げ茶色)」で髪が「black wires(黒い針金)」と書かれていることから(ソネット130番)、アンソニー・バージェスの『その瞳は太陽に似ず(Nothing Like the Sun: A Story of Shakespeare's Love Life)』のように、ダーク・レディをアフリカ系とする説もある。

しかし多くの人々はダーク・レディは架空のキャラクターで実在しないと主張している。ダーク・レディの「ダーク」は文字通りの意味ではなく、美男子とのプラトニック・ラブと対照的な肉欲の「ダークな」力を表しているというのである。『夏の夜の夢』に出てくる黒髪のハーミアをダーク・レディだとする説もある。

ところでウィリアム・ワーズワースはダーク・レディに関するソネットに感銘を受けなかったようで、こんなことを書いている。「127番から始まる愛人についてのソネットはパズル・ペッグより悪い。ひどくどぎつく、晦渋で、価値がない。他のものはほとんどが素晴らしい、美しい詩行、とても美しい詩行にパッセージ。情熱で温かい場所もたくさんある。失敗の主な点は、それが耐え難いものなのだが、単調さ、退屈さ、風変わりさ、凝った分かり難さである」。
ライバルの詩人

「ライバルの詩人(Rival Poet)」はクリストファー・マーロウジョージ・チャップマン(George Chapman)だと言われることがある。しかし、このキャラクターに現実のモデルがいたという証拠はない。作者はこのライバルを名声とパトロネージュの競争相手と見ていた。なお、ソネット78番から86番のライバルの詩人は集団と見なされている[8]
テーマ

シェイクスピアの『ソネット集』の一部は3世紀にわたって続いたペトラルカ風の恋愛ソネットのパスティーシュあるいはパロディだとする解釈もある。その中で、シェイクスピアはペトラルカ風ソネットに描かれた慣習的な性(ジェンダー)の役割を意図的にひっくり返し、人間の恋の苦しみをより複雑に潜在的に描写したというのである[9]。シェイクスピアはさらに仲間の詩人たちが厳守した多くのソネットのルールを破ってもいる。

具体的に、『ソネット集』では次のようなことが歌われている(とされる)。

ジェンダーの役割についての遊び(ソネット20番)

愛を必要としない人間の邪悪さ(ソネット66番)

政治的事件についてのコメント(ソネット124番)

愛をからかう(ソネット128番)

セックスについてオープンに語ること(ソネット129番)

美のパロディ(ソネット130番)

ウィットなポルノグラフィ(ソネット151番)

影響

慣習的だったペトラルカ風ソネットの詩作が終焉を迎えた時、シェイクスピア風ソネットはプロトタイプになり、さらには新しい種類のモダンな恋愛詩が始まったと言える。しかし、18世紀にはイングランドでの評価は比較的低かった。1805年になっても、「The Critical Review」誌はなおも完璧な英語のソネットはミルトンのものだと信じていた。ロマン主義とともにシェイクスピアのソネットが再評価され、19世紀になってようやく確固とした評価を得るに至った[10]

英語圏でない国への影響を翻訳された数によって示すと、たとえばドイツ語圏では1784年以来70の完訳がされている。主要な他の言語への翻訳もされ、その中にはラテン語[11]トルコ語日本語スワヒリ語エスペラント[12]も含まれる。
参考文献
日本語訳テキスト
 完訳


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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