ゼロの焦点
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著者は1978年の時点で、自作の推理長編で好きな作品の第一に本作を挙げている[10]

作品中において、主人公が断崖に立つシーンが描かれている[11]。小説では、断崖は志賀町の赤住にあるとされている[12]。しかし実際の赤住は平坦な地形で、海に転落するような断崖は存在しない。この件に関しては、現在「赤住」と同じ志賀町内(小説発表当時は旧志賀町と合併前の富来町)にあり、実際に断崖のある「赤崎」と、著者が勘違いをしていたとの推測もある[13]。なお、ヤセの断崖に関しては、1961年公開映画を参照。

小説家の宮部みゆきは、「『ゼロの焦点』は、ヒロイン禎子が、「ある夫」でしかない鵜原憲一という男を、「わたしの夫」として認識してゆくプロセスの話」と記している[14]

小説家・評論家の笠井潔は、本作を「清張の探偵小説作品の最高峰をなしている」と評している[15]

エッセイストの酒井順子は、本作の禎子は、清張がその後女性誌に連載した長編群に登場する「お嬢さん探偵」(精神がお嬢さんの「表」の女性が「裏」の世界を追っていく)の第一号と言うことができると述べている[16]

翻訳

Point zero (
英語、Bitter Lemon Press)

Le point zero (フランス語、Atelier Akatombo)

Agenzia A (イタリア語、Il Giallo Mondadori)

零的焦点(中国語、Apex Pressなど)

??? ??(韓国語、????など)

関連項目

高浜町 (石川県) - 小説の舞台のひとつ。1970年に合併し現在は志賀町の一部。

鶴来町 - 小説の舞台のひとつ。2005年に合併し現在は白山市の一部。

海中の都市・アナベル・リー - 主人公が断崖に立つ場面で想起する、いずれもエドガー・アラン・ポーによる詩。作中では元の詩句をそのまま引用するのでなく合成して使用されている[17]

その他

2008年改版以前における
新潮文庫版カバー裏表紙記載のあらすじに、物語の過半にいたって明かされる事実が書き込まれている(以降の版では改訂されている)。

作中人物が北陸鉄道各線を利用する場面があるが、作中に描かれるシーンのうち、石川線の一部区間は現在でも営業されているものの、同線の白菊町駅を含む区間や、能美線能登線はすでに廃止され、状況が変化している[注釈 5]

松竹版と同時期となる1960年頃、監督若杉光夫日活でも映画化の企画が上がり、吉田進脚本による準備稿が作成されるも諸事情により製作は実行されなかった。

映画
1961年

ゼロの焦点
Zero Focus
監督
野村芳太郎
脚本橋本忍
山田洋次
製作保住一之助
出演者久我美子
高千穂ひづる
有馬稲子
音楽芥川也寸志
撮影川又ミ
編集浜村義康
配給松竹
公開 1961年3月19日
上映時間95分
製作国 日本
言語日本語
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1961年3月19日公開。製作は松竹大船、配給は松竹。監督は野村芳太郎能登金剛ヤセの断崖をクライマックスの舞台とし、主人公と犯人が、直接相まみえる場面が設定される[注釈 6]などのアレンジが加えられ、松本清張原作映画の中でも著名な作品のひとつとなった。また、本作の本多は死なず、あまり禎子の力にもなれず引き下がるという影の薄い存在として描かれている。第12回ブルーリボン賞助演女優賞(高千穂ひづる)受賞。英語題名『Zero Focus』。現在はDVD化されている。
スタッフ

監督:
野村芳太郎

企画:若槻繁

製作:保住一之助

原作:松本清張光文社版)

脚本:橋本忍山田洋次

撮影:川又ミ

音楽:芥川也寸志

美術:宇野耕司

編集:浜村義康

録音:栗田周十郎

スチル:小尾健彦

照明:佐藤勇

監督助手:杉岡次郎

キャスト

鵜原禎子:
久我美子

室田佐知子:高千穂ひづる

田沼久子:有馬稲子

鵜原憲一:南原宏治

鵜原宗太郎:西村晃

室田儀作:加藤嘉

本多:穂積隆信

青木:野々浩介

佐伯(仲人):十朱久雄

禎子の母:高橋とよ

宗太郎の妻:沢村貞子

葉山警部補:磯野秋雄

金沢署捜査主任:織田政雄

北村警部補:永井達郎

立川の大隅のおばさん:桜むつ子

博報社の重役:北龍二 → 本編では佐々木孝丸がキャストされている。

鵜原の上司:稲川善一

その他:山田修吾、山本幸栄、高木信夫、今井健太郎、遠山文雄、武者愛子(現在は活動を休止中)ほか

エピソード

本作は『
張込み』以来の橋本忍と野村芳太郎のコンビによる作品となり、脚本には山田洋次も参加した。山田によれば、シナリオ作りは難航し、のちに映画『砂の器』のアイデアを生んだ橋本も音をあげたことがあったという。また山田は、当時の北陸地方に関して、「あのころは(現在に比べて)雪は多かったですね。あの作品はぼくも助監督につきましたからよく覚えてますけど、撮影は寒くて」「特に漁村は風をよけるためにずーっと板塀が並んでいて、何ともあれは切ないような、痛々しい風景でした」と回想している[18]。また橋本はこの時シナリオハンティングなしで書き上げたため、実際にはあり得ない描写[注釈 7]が映像化され、ラッシュでこれを知った橋本は以後、執筆の前に必ず現場を踏む癖をつけるようになったという。

映画のラストにおいて、ヤセの断崖(能登金剛の巌門から北へ約13キロ離れた場所に位置)を舞台に選んだ野村芳太郎は、当時を以下のように回想している。「シナリオの書かれている間、私は独りで冬の能登半島をロケハンした。(中略)清張さんの原作を片手に冬の能登半島を、殺人の舞台となる断崖を探して歩き廻った。十二月の能登の天候はまるで気違いの様で、横なぐりの突風や、パチンコ玉の様なアラレが降った。空が暗く、その一部がさけると、一条の光で、暗い海の一部が輝き、波が踊った。この時見た景色が「ゼロの焦点」を映画化する時の私のイメージの原点になった。清張作品の面白さの中には、その社会性や、するどい人間洞察の他に、この風土的要素が必ずひそんでいる。清張さんはその土地から感じたものを、その作品の出発点にしているに違いない」[19]。なお、ヤセの断崖に関しては、2007年3月の能登半島地震で、断崖の先端が崩落し、現在では状況が変化している[20]

本作の公開後、能登金剛周辺地域で投身自殺が急増し、多い年には18人の自殺者が確認されるにいたった[21]。当時19歳の女性が、「『ゼロの焦点』の舞台となった能登金剛で死ぬ」との遺書を残して自殺した事件を契機に、女性の霊を慰め、更なる自殺者が出ないようにと、能登金剛の巌門には、本作にちなんだ歌碑が立てられた。歌碑には「雲たれて ひとりたけれる 荒波を かなしと思へり 能登の初旅」と、原作者直筆の文字が刻まれている。

主人公と犯人が崖上で相対する演出は、のちに2時間ドラマなどで多用され定番となった。現在では、しばしば本作がこの演出の原型と位置づけられている[22]


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