セラム
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ただ、いずれにしても、舌骨が残っていることは、セラムの保存状態の良さを示す傍証といえる[26]
上半身

上半身の骨格は比較的良好に保存されており、肋骨脊柱に沿っており、生前のままのようだった[2]。それらは全体的に類人猿との共通性が認められる。

残っていた部位で特筆すべきは完全な肩甲骨が残っていたことで、これはアウストラロピテクス属としては初めてだった。それはゴリラのものに似ており[2][4]、指の長さはチンパンジーに似ていた。これらの特色からは、まだ樹上で枝をつかむことに適していたと判断された[2]

ただし、この事実をどう評価するかについては、二通りに分かれる。一つは、発見者やジョハンソンの立場で、それらの骨格的特長を樹上での生活も行なっていたことの証拠と見るものである。もうひとつはオーウェン・ラヴジョイ (Owen Lovejoy) らのように、直立二足歩行と関係のない原始的特質が残り続けていただけで、それをもって樹上で生活していたとはいえないとするものである[29]

後者の論者の中には、肩甲骨がゴリラに似ているとする解釈自体に異論を唱えるものもいる。それによれば、肩甲棘(肩甲骨の突起部分)の両側にある筋肉がつく窪み部分の面積比は、ゴリラよりもヒトに近いのだという[24]

なお、これに関連する点として2011年には、土踏まずの発見を基に、アファール猿人は地上生活に完全に移行していたとする研究も発表された[30]
下半身

骨盤股関節のあたりは残っていない。ただし、大腿骨脛骨などは大部分保存されており、エンドウ豆マカデミアナッツに喩えられるような小さなものではあるが膝蓋骨も見られる[31]。ほかにも、の部分の幅広さや[24]、膝から腰にかけての大腿骨の傾き[32]など、ほかにもヒトに近いとされる特徴は指摘されている。このように下半身は、類人猿に近い上半身と対照的に、現代人のものに近い特徴を示している[2][18]。そのため、直立二足歩行が可能だった。
評価

残りにくい幼児人骨のうち、突出して古く保存状態も良かった。前述のように、この点を評価する論者は存在しており、日本の新聞で最初に報じられたときにも注目に値する点として、幼児人骨の残りにくさとセラムの完全さを対比する指摘がなされた[13]

発見者であるアレムゼゲド自身は、『ナショナルジオグラフィック』において、「一生に一度の大発見です」とコメントしている[33]。また、1974年に最も有名なアファール猿人「ルーシー」を発見したドナルド・ジョハンソン (Donald Johanson) は、2006年の公表直後に「ルーシーを20世紀最大の発見とすると」「この子はこれまでのところ、21世紀で最大の発見だ」と評した[34]

身体的特質を進化の段階とどう結びつけるのかは、上述の通り論者によって差異がある。しかし、どう評価するにせよ、キメラ的ともモザイク的とも評される上半身の原始性と下半身の先進性のギャップによって、身体部位ごとに進化の時期が違っていたことが顕著に確認できるという点では、専門家たちも一致している[35]

ただし、唯一の幼児全身骨格ということは、比較が不可能ということでもある。そのため、新たな個体の発見を待たねば、それがアファール猿人の典型的幼児か分からないという指摘も存在する[36]
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 「アレムゼゲド」は河合 (2010) での表記。スローン (2006) では「ゼラセナイ・アレムサゲド」、ウォン (2007) では「アレムサゲド」となっている。
^ ジョハンソンらは、類似の愛称として Lucy's Child, Lucy's Daughter, Little Lucy なども挙げている (Johanson & Wong (2010) p.139)。
^ この記事は翌年2月にフランスの科学誌『プール・ラ・シヤンス』 (Pour la Science) でも訳出された。
^ 頭骨だけならば、いわゆるタウング・チャイルド (Taung Child) も3歳くらいと推測されている(河合 (2010) p.98)。また、少年の骨格ならばトゥルカナ・ボーイ(9歳くらい、153万年前)など、複数の例がある。
^ 「最初の家族」は、1975年に少なくとも13個体分がまとまって見付かったアファール猿人の化石群の通称(河合 (2010) p.44)。

出典^ a b 河合 (2010) p.53
^ a b c d e f g h i j k l m n o p特集 : 初期人類の少女の化石発見(ナショナルジオグラフィック日本版)(2011年8月25日閲覧)
^ a b c Johanson & Wong (2010) p.140
^ a b c Wong (2006). この記事で使ったのはウェブ上で公開されているもの。
^ ex. ⇒BBC NEWS 。Science/Nature 。'Lucy's baby' found in Ethiopia (20 September 2006), ⇒猿人ルーシーの子ども 。日経サイエンス(ともに2011年8月25日閲覧)
^ a b 河合 (2010) p.58
^ a b Johanson & Wong (2010) pp.130-131
^ a b c d e f g h i Alemseged, Zeresenay, et al. (2006). ⇒“A juvenile early hominin skeleton from Dikika, Ethiopia” (PDF). Nature 443 (7109): 296-301. doi:10.1038/nature05047. ⇒http://forumamislo.net/uploads/post-19-1158785396._afarensis.pdf 2015年12月22日閲覧。. 
^ ウォン (2007) p.54
^ Wynn, Jonathan G., et al. (2006). ⇒“Geological and palaeontological context of a Pliocene juvenile hominin at Dikika, Ethiopia” (PDF). Nature 443 (7109): 332-336. doi:10.1038/nature05048. ⇒http://www.eva.mpg.de/evolution/pdf/wynn-et-al-06.pdf 2015年12月22日閲覧。. 
^BBC NEWS 。Science/Nature 。'Lucy's baby' found in Ethiopia(20 September 2006)
^Lucy's Baby - An extraordinary new human fossil comes to light.
^ a b人類学関連新聞記事紹介 2000年-2009年日本人類学会)の2006年9月21日の項(2011年9月19日閲覧)
^ a b c d e Johanson & Wong (2010) p.139


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