セミクジラ属においては、本種とホッキョククジラが「歌」を歌うことが判明している一方で、他のセミクジラ科には歌うという習性が確認されていない[35][36]。 ヒゲクジラ類は互いに平和的な交流をする事が知られ、全てのセミクジラ属は特にザトウクジラとの交流が確認されている。ミナミセミクジラは、モザンビークやブラジルの沿岸でザトウクジラとの交尾行動またはその練習と思わしき行動の観察事例が存在する[37][38]。また、セミクジラ属は他のヒゲクジラ類や魚類[注釈 8]とは餌の競合関係にあるが観察上では問題なく共存しており[39][40]、北太平洋でもセミクジラがザトウクジラの繁殖グループと思わしき集団に混じっていたり、ザトウクジラとナガスクジラに混じって回遊している観察例が報告されている[41][42][43]。 共に極めて沿岸性であるコククジラとの関係が如何なるものかは不明である[注釈 9]。これらの種間交流は複数確認されており、興味深い事例として1998年にカリフォルニア沖で2頭のコククジラがセミクジラに対する攻撃行動を取り、過去から現在に至るまでヒゲクジラ間で観察された唯一の攻撃行動例とされている[42]。一方で、この1998年の観察例では件の2頭以外のコククジラはセミクジラに対して攻撃行動を見せず[注釈 10]、2012年にはサハリン沿岸で絶滅危惧のニシコククジラの群れに混じるセミクジラ1頭も観察されており[44][45]、1998年の記録が異例的であったことがうかがえる。
種間交流
北太平洋の温帯から亜寒帯の沿岸などに生息する。かつては、オホーツク海・ベーリング海・日本海・黄海・渤海・フィリピン海・東シナ海・南シナ海を含む北太平洋とその付属海(縁海)に普遍的に分布していた[注釈 12]。
本種の学術的研究は歴史が浅く、目撃される度に科学論文が書かれてきたほどに観察する機会も少なく[48][49]、現在はおろか過去の厳密な回遊経路も大部分が判明おらず、越冬・育児海域にいたっては過去も現在も一切が特定されていない。
セミクジラ属[注釈 13]・コククジラ・ザトウクジラは季節的な回遊を行う種類では沿岸性が顕著で浅瀬を好み、日本列島だけでなく世界各地の沿岸捕鯨で主対象とされていたことから、本来は(来遊数の差こそあれど)東京湾[50][51]や伊勢湾[52]や大阪湾(瀬戸内海)[53]、有明海[54][55]なども含めた日本列島のほぼ全域の海岸がこれらの種類の生息域であった可能性がある[注釈 14]。
近年の日本では、知床半島や三陸沖、房総半島内外、東京湾南部から相模湾や駿河湾など伊豆半島周辺[61][62]から伊豆諸島・小笠原諸島に至る海域や熊野灘、奄美大島などでセミクジラが冬から初夏にかけてごく稀に確認されている。
日本海側での過去50年内の確認は非常に少なく[63][64]、ストランディングと捕獲記録も数件である。