共に極めて沿岸性であるコククジラとの関係が如何なるものかは不明である[注釈 9]。これらの種間交流は複数確認されており、興味深い事例として1998年にカリフォルニア沖で2頭のコククジラがセミクジラに対する攻撃行動を取り、過去から現在に至るまでヒゲクジラ間で観察された唯一の攻撃行動例とされている[42]。一方で、この1998年の観察例では件の2頭以外のコククジラはセミクジラに対して攻撃行動を見せず[注釈 10]、2012年にはサハリン沿岸で絶滅危惧のニシコククジラの群れに混じるセミクジラ1頭も観察されており[44][45]、1998年の記録が異例的であったことがうかがえる。
ホッキョククジラとの種間交流については、下記の生存への脅威と課題を参照。
分布と回遊ブリストル湾とコディアック島周辺の特別保護海域[注釈 11]
北太平洋の温帯から亜寒帯の沿岸などに生息する。かつては、オホーツク海・ベーリング海・日本海・黄海・渤海・フィリピン海・東シナ海・南シナ海を含む北太平洋とその付属海(縁海)に普遍的に分布していた[注釈 12]。
本種の学術的研究は歴史が浅く、目撃される度に科学論文が書かれてきたほどに観察する機会も少なく[48][49]、現在はおろか過去の厳密な回遊経路も大部分が判明おらず、越冬・育児海域にいたっては過去も現在も一切が特定されていない。
セミクジラ属[注釈 13]・コククジラ・ザトウクジラは季節的な回遊を行う種類では沿岸性が顕著で浅瀬を好み、日本列島だけでなく世界各地の沿岸捕鯨で主対象とされていたことから、本来は(来遊数の差こそあれど)東京湾[50][51]や伊勢湾[52]や大阪湾(瀬戸内海)[53]、有明海[54][55]なども含めた日本列島のほぼ全域の海岸がこれらの種類の生息域であった可能性がある[注釈 14]。
近年の日本では、知床半島や三陸沖、房総半島内外、東京湾南部から相模湾や駿河湾など伊豆半島周辺[61][62]から伊豆諸島・小笠原諸島に至る海域や熊野灘、奄美大島などでセミクジラが冬から初夏にかけてごく稀に確認されている。
日本海側での過去50年内の確認は非常に少なく[63][64]、ストランディングと捕獲記録も数件である。過去の記録からすると北西太平洋での南限は中国南部や台湾であり、東部北太平洋ではオレゴン州やカリフォルニア半島、ハワイ諸島などで近年の記録がある。
採餌場については、東部北太平洋では南東部ベーリング海(ブリストル湾)に集中が見られ、アラスカ湾のコディアック島周辺でも確認されていることから、これらの海域が東部のセミクジラの重要な生息域とされる。現在、定期的な集中が確認されているのはブリストル湾のみであり、この海域に回遊する個体群は31頭が写真判別されているが、これらを含めても東太平洋での総個体数は50頭を超えないと言われる。
西部北太平洋において近年の目撃が目立つのは、カムチャッカ半島から幌筵島を中心とした北部千島列島などの沿岸域[65]やカムチャッカ半島の南東沖に集中しており、ベーリング海からカムチャッカ半島、千島列島や樺太などのオホーツク海周辺が西部個体群の採餌分布域であると推測されている。