繁殖についても、ほとんど何も生態情報が得られていない。一世紀以上もの間、東太平洋で仔鯨は確認されてこなかった。他のセミクジラ科と同様に、平均で3 - 5年に1頭を出産するという非常に遅い繁殖頻度の可能性があり、回復を妨げる一因にもなっている。
過去の捕鯨記録および現在の状況においても、本種が繁殖や出産、子育てを行った海域は一切判明していない。北大西洋と南半球の種類は、冬 - 春期にかけて低緯度の温暖で波の静かな沿岸海域に集まることが知られており、湾や半島、海岸沿い等の地形を好んで利用する。また、自分が育った湾や海岸や海域に数年の一定周期で戻ってくるという習性も確認されている。
しかし本種の場合は、その生息数自体の少なさに加え、近年の沿岸での確認例が非常に稀であり、過去の捕鯨記録などの解析でも冬・春季の発見が非常に少なく、沿岸での発見・捕獲自体が少ないこと、それに反して沖合での発見が非常に多い、などから、本種は他の2種よりも沖合性が強かった可能性も示唆されている[67]。回遊経路はおろか、本来は沿岸性が非常に強いはずのセミクジラ科において、本種のみ越冬海域および出産/育児海域が過去の捕獲記録上でも一切判明していない[68]。
しかし、本種も水深が数メートルの浅瀬に頻繁に現れたり、狭い湾[69]やフィヨルド[70]や港湾[71]に入り込むなど他のセミクジラ属に匹敵するほどに強い沿岸性を持っており[34]、日本列島における古式捕鯨の主対象であっただけでなく、主に親子連れを含めて多数が冬から春にかけて捕獲されていたことからも、本種がかつては浅瀬に頻繁に出現していたり、親子連れが沿岸を頻繁に利用していたことがうかがえる。上記の通り沖合性が強かった可能性が指摘される一方で、人間活動の影響で沿岸の個体群が統計が取られる以前の早い段階で壊滅したり、沿岸の生息域を放棄した可能性[注釈 15]が示唆されている[注釈 16][67]。
米国による冬季の捕獲が複数存在するのは日本海の南部、上海および舟山群島から東に伸びる東シナ海、台湾海峡、北西ハワイ諸島など。その他、日本列島の沿岸や朝鮮半島、黄海・長海県の海洋島(中国語版)[注釈 17]、海南島などでも捕獲されていた[72][34]。南西諸島が出産海域として示唆された例もある[73]が、証明するのに十分な資料は得られていない。
ハワイ諸島が本種の通常の越冬分布に含まれていたのかは不明である。本種が激減したことによりザトウクジラがハワイ諸島に押し寄せてこの海域における優占種になり、ザトウクジラの鳴き声に圧迫されるためにセミクジラの好む環境ではなくなったという説が提唱されたこともある[43]が、この説はミナミセミクジラの状況[注釈 18]と乖離しているため、ザトウクジラがセミクジラ属を圧迫するという証拠は存在しない。セミクジラ属は過去には現在よりも広範囲で繁殖や越冬を行っており、ザトウクジラと分布を共有する事も現在よりも多かったと思われる[76][77]。
なお、本種の越冬海域のありかをタイセイヨウセミクジラの生息環境と照らし合わせて予測し作成されたマップデータが存在する[72]。本調査はあくまでもタイセイヨウセミクジラのデータに限定していて、亜南極でも繁殖するミナミセミクジラのデータは用いられておらず、また、取得できた海底地形や海流や水温などのデータが限定されているため、分布の可能性を狭めているとされる[72]。本調査では、アジア[注釈 19]、北西ハワイ諸島、北米の西海岸[注釈 20]が適正地と判断された。
なお、タイセイヨウセミクジラでも陸より63キロメートルもの沖合での出産が確認されたケースも存在する[78]ほか、ミナミセミクジラも沖合での捕鯨記録が多数存在することは、現在の北太平洋のセミクジラが沖合でも越冬(あるいは出産も)する可能性を示唆している。また、現在のタイセイヨウセミクジラとミナミセミクジラにおいても、出産雌と子供、比較的若い世代、成熟個体の一部は沿岸を重点的に利用するが、他の個体の一部または大部分は沖合を中心に回遊していることが判明している。
現在の回遊東伊豆町の北川の定置網に混獲され、翌日に放流された個体(2020年4月)。漁業との軋轢は、船舶との衝突と共に、現代において海獣の回復を妨げる最大の要因の一つである[8]。