本種はタイセイヨウセミクジラとは互いに違う大洋に生息するが、北極の氷が溶けると互いの大洋への行き来が可能となる[注釈 37]。大西洋では、ホッキョククジラがタイセイヨウセミクジラの繁殖行動に参加していた観察記録も存在する[182]。一方で、オホーツク海北西部、シャンタル諸島とその周辺では温暖化が提唱される以前よりもセミクジラとホッキョククジラの共存が確認されており、現在でも観察例がある[183]。
なお、北西航路に氷が無くなると船舶が航海できるようになるため、その航路が北太平洋のセミクジラの回遊ルートを横切り、船との衝突による死亡数が増加する可能性を示唆する研究者もある[184]。また、気候変動により海水の酸性化や変動、海流や水温、餌生物の発生範囲の変化が懸念されており、大西洋の亜種では回遊の変化がすでに確認されている。環境汚染や騒音が与える影響も依然として無視できない状況である。
また、個体数が大幅に低下しただけでなく、繁殖速度が低く、人間の影響を受けやすいセミクジラ科にとってはシャチの存在も脅威であり[注釈 38]、気候変動によってシャチの分布が拡大しているためにセミクジラ科や他の北方性の鯨類にとって危険性が増加した可能性も指摘されている[9][186]。
関連項目
鯨神
雲見くじら館
利田神社 - 東京湾で発生した「寛政の鯨」事件にまつわる神社であり、該当事件の種類はセミクジラであるとされる場合が目立つ[187]が、シロナガスクジラ等のナガスクジラ科の可能性も指摘されている[188]。
脚注[脚注の使い方]
注釈^ 後述の通り、本来は北太平洋のほぼ全域に分布した可能性があるが、近年ではオホーツク海やカムチャッカ半島やコマンドルスキー諸島やアラスカ州以外での確認はごく稀である。
^ セミクジラ属自体が繁殖速度が遅いだけでなく、北米側の個体群は判明している限りは雄の個体数が雌の個体数よりも大幅に多い[5]。タイセイヨウセミクジラの場合は、気候変動などもふくめて生息環境の悪化によって健康状態が悪化し、小型化や繁殖率の低下が確認されている[6]。ミナミセミクジラでも繁殖率の低下が各地で報告されている[7]。
^ 混獲および混獲を利用した意図的な捕獲、密猟、船舶との衝突、環境汚染や気候変動などによる生息環境の悪化、シャチによる襲撃など[8][9]。
^ ここでは、たとえばチリやペルーのミナミセミクジラ、アジア系のコククジラ、アラビア海のザトウクジラなど、危機的状況に置かれている「個体群」ではなくて「種」そのものを指す。
^ コルセットや文楽人形や釣り道具の材料など様々な用途が存在した。
^ フラミンゴとの収斂進化である可能性も指摘されている[21]。
^ 雌が複数の雄と交代で交配する繁殖形態はコククジラにも見られるが、コククジラの場合は雌雄合わせて3頭の場合が多いとされる[22]。
^ ホッキョククジラ、ナガスクジラ、イワシクジラ、ミンククジラ、ウバザメ。