セクハラ
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

このような性質から、行為者が自己の行為をセクシャルハラスメントに当たるものと意識していないこともあり、その認識の相違によって人間関係の悪化が長期化、深刻化する例も見られる[6][7]

対象者の性別については、加害者が男性、被害者が女性となる場合がほとんどである。ただ、用語の本来の意味では身体的な性別は無関係であり、たとえば2007年(平成19年)4月1日施行の改正男女雇用機会均等法では、男性から女性、女性から男性、男性から男性、女性から女性の全ての場合で禁止されている[8][9][10]。また、雇用管理上必要な「措置」をとるよう事業主に義務付けられ、従来の「配慮義務」より厳しくなり、是正指導に応じない場合は企業名が公表される。しかし、まだ日が浅いこともあり、十分な対策を講じていない企業もある(具体的事例は後述)。そのためセクハラ被害を訴え出ることが恥ずかしい、相談しにくいと感じ、内在化しやすい[11]。またセクハラ被害を訴えるとセクシュアリティを侮辱されるなど、二次被害や二重の性差別に遭う事もある[12][13][14]

自認する性別と異なる振る舞いや性役割を他者から要求されて精神的な苦痛を覚える性同一性障害者の問題や、同性愛者に対する差別的言動の問題もセクシャルハラスメントを論ずる際に欠かすことができない視点となりつつある(SOGIハラ)。2014年7月からは同性愛やトランスジェンダーなどLGBTに対する差別的言動もセクハラであるとし、雇用主は措置義務を負うこととなった[15]。2022年5月、女性として生活しているトランスジェンダーの会社員は、SOGIハラやセクシャルハラスメントにより精神的な被害を受けたとして、勤め先のピクシブ株式会社と元上司に合わせて550万円余りの賠償を請求した[16]。会社員は「なぜ女装しているんだ」などと言われたり、興味本位で体を触ったり猥褻な話をされたりするハラスメントを継続的に受けていた[17]
歴史

「セクシャルハラスメント」は1970年代初めにアメリカの女性雑誌『Ms』の編集主幹でラディカル・フェミニストグロリア・スタイネムらが作り出した造語とされる(裁判所による法律との整理は、1845年代から始まっていると主張する学者もいる[18])。2018年6月8日、国連の国際労働機関(ILO)は年次総会で、職場でのセクハラを含むハラスメントをなくすための条約を制定すべきだとする委員会報告を採択、2019年総会でハラスメント対策として初の国際基準となる条約制定を目指すことになり[19]、2019年に「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」が採択された[20][21]
日本における歴史

日本では、1986年(昭和61年)1月に起きた西船橋駅ホーム転落死事件で、傷害致死罪で起訴された被告女性を支援する女性団体「働くことと性差別を考える三多摩の会」が英語の「sexual harassment」の訳語として「性的いやがらせ」という言葉を使い出した[22]。この時点では、泥酔した男性と絡まれた女性との間で起きた偶発的な事件という性格もあり、セクハラという概念も言葉もそれほど広がらなかった[23]

1989年(平成元年)8月、福岡県の出版社に勤務していた晴野まゆみが上司を相手取り、セクシャルハラスメントを理由とした民事裁判を起こした。のちに日本初のセクハラ訴訟として福岡セクシュアルハラスメント事件と呼ばれることになるこの裁判[24]は、職場を舞台に上司と部下との間で起きた事案ということで普遍性があり、これまで日本の職場でセクハラと意識されず、何気なく行われてきた女性に対する行為や発言がセクハラに該当するのかといった身近な話題となり、テレビや雑誌で盛んに扱われた[25]。こうして、1989年の新語・流行語大賞の新語部門・金賞を「セクシャル・ハラスメント」が受賞[26]。同年12月の授賞式で表彰されたのは、2年前の1987年9月に裁判を終えていた西船橋駅ホーム転落死事件の弁護士だった[27]。これは1989年の流行語のきっかけとなった福岡県のセクハラ訴訟が係争中で決着していなかったためとされる[28](民事裁判は1992年〈平成4年〉4月に原告である晴野側の全面勝訴判決によって決着した[29])。

その後、セクハラ(セクシャルハラスメント)は一過性の流行語で終わらずに、

1990年(平成2年)、部下に強制猥褻行為をした上司への慰謝料支払命令、福岡事件[要出典][30][31]

1992年(平成4年)、虚偽の異性関係について噂を流布した上司と会社への慰謝料支払い命令(福岡セクシュアルハラスメント事件)。

1994年(平成6年)に問題化した就職氷河期の新卒女子へのセクハラ面接[32]

1996年(平成8年)、巨額の慰謝料で話題になった米国三菱自動車セクハラ事件[33]

1997年(平成9年)4月からAIU保険会社日本支社が発売開始したセクハラ保険。

など、1990年代を通じて日本語として浸透、定着していった。1992年(平成4年)に晴野まゆみが日本初のセクハラ裁判(1989年提訴)で全面勝訴したことは、雇用主へのセクシュアルハラスメント防止措置の義務化を盛り込んだ1997年(平成9年)の男女雇用機会均等法の改正、今日のセクハラ防止ガイドラインが生まれる起爆剤にもなった[34]

国際労働機関(ILO)が80ヵ国の現状を調査した結果、仕事に関する暴力やハラスメントの規制を持つ国は60ヵ国で、日本は規制の無い国とされた[35]。2018年(平成30年)5月18日、日本政府は野党議員の質問主意書に対して「現行法令でセクハラ罪は存在しない」とする答弁書を閣議決定した[36][37][38]
類型

厚生労働省の分類では、対価型セクハラと環境型セクハラの2つのタイプに分類される[2]
対価型セクハラ

職場や学校などにおける立場・同調圧力・階級の上下関係と自身の権限を利用して、下位にある者に対し性的な言動や行為を行い(強要し)、相手が拒否などを示したことによって、降格・解雇、減給や更新拒否などの不利益を与えるセクハラのことである。「パワー・ハラスメント」も参照

酒席で、酌を強要すること。

学校で、教師としての立場を利用して、教師が学生(または学生側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。

就職活動で、利害関係を利用して、求人側の担当者(または求人側の関係者)が求職者(または求職者の関係者)に、性行為や猥褻行為を強要すること。

職場で、職務上の立場を利用して、上司(または上司側の関係者)が部下(または部下側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること[39][40]

商取引で、利害関係を利用して、買い手側の関係者が売り手側の関係者に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。



環境型セクハラ

職場で働いたり、学校で学んだりする環境を害するような性的嫌がらせのことである。

上司が部下に仕事の域を超えて個人的に親密な関係になることを誘うこと
[11]

ソープランドなどの性風俗店にむりやり誘うこと[41]

裸踊りを強要すること[42]

恋愛結婚出産のことを尋ねること[注 1]

「(性別)のくせに・・・」「(性別)なら・・・」と発言すること[43]

妄想型セクハラ

厚労省の2つの分類に加え、チャットやSNSや電子メールなどでの連絡が原因で起こる「妄想型セクハラ」も増加している[1]。妄想型セクハラは「思い込み型セクハラ」や「疑似恋愛型セクハラ」とも言われており、主にチャットやSNSで連絡を取っているうちに関係性が深まったと思い込みセクハラ発言に至ることである。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:189 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef