1989年(平成元年)8月、福岡県の出版社に勤務していた晴野まゆみが上司を相手取り、セクシャルハラスメントを理由とした民事裁判を起こした。のちに日本初のセクハラ訴訟として福岡セクシュアルハラスメント事件と呼ばれることになるこの裁判[24]は、職場を舞台に上司と部下との間で起きた事案ということで普遍性があり、これまで日本の職場でセクハラと意識されず、何気なく行われてきた女性に対する行為や発言がセクハラに該当するのかといった身近な話題となり、テレビや雑誌で盛んに扱われた[25]。こうして、1989年の新語・流行語大賞の新語部門・金賞を「セクシャル・ハラスメント」が受賞[26]。同年12月の授賞式で表彰されたのは、2年前の1987年9月に裁判を終えていた西船橋駅ホーム転落死事件の弁護士だった[27]。これは1989年の流行語のきっかけとなった福岡県のセクハラ訴訟が係争中で決着していなかったためとされる[28](民事裁判は1992年〈平成4年〉4月に原告である晴野側の全面勝訴判決によって決着した[29])。
その後、セクハラ(セクシャルハラスメント)は一過性の流行語で終わらずに、
1990年(平成2年)、部下に強制猥褻行為をした上司への慰謝料支払命令、福岡事件[要出典][30][31]
1992年(平成4年)、虚偽の異性関係について噂を流布した上司と会社への慰謝料支払い命令(福岡セクシュアルハラスメント事件)。
1994年(平成6年)に問題化した就職氷河期の新卒女子へのセクハラ面接[32]。
1996年(平成8年)、巨額の慰謝料で話題になった米国三菱自動車セクハラ事件[33]。
1997年(平成9年)4月からAIU保険会社日本支社が発売開始したセクハラ保険。
など、1990年代を通じて日本語として浸透、定着していった。1992年(平成4年)に晴野まゆみが日本初のセクハラ裁判(1989年提訴)で全面勝訴したことは、雇用主へのセクシュアルハラスメント防止措置の義務化を盛り込んだ1997年(平成9年)の男女雇用機会均等法の改正、今日のセクハラ防止ガイドラインが生まれる起爆剤にもなった[34]。
国際労働機関(ILO)が80ヵ国の現状を調査した結果、仕事に関する暴力やハラスメントの規制を持つ国は60ヵ国で、日本は規制の無い国とされた[35]。2018年(平成30年)5月18日、日本政府は野党議員の質問主意書に対して「現行法令でセクハラ罪は存在しない」とする答弁書を閣議決定した[36][37][38]。 厚生労働省の分類では、対価型セクハラと環境型セクハラの2つのタイプに分類される[2]。 職場や学校などにおける立場・同調圧力・階級の上下関係と自身の権限を利用して、下位にある者に対し性的な言動や行為を行い(強要し)、相手が拒否などを示したことによって、降格・解雇、減給や更新拒否などの不利益を与えるセクハラのことである。「パワー・ハラスメント」も参照 職場で働いたり、学校で学んだりする環境を害するような性的嫌がらせのことである。 厚労省の2つの分類に加え、チャットやSNSや電子メールなどでの連絡が原因で起こる「妄想型セクハラ」も増加している[1]。妄想型セクハラは「思い込み型セクハラ」や「疑似恋愛型セクハラ」とも言われており、主にチャットやSNSで連絡を取っているうちに関係性が深まったと思い込みセクハラ発言に至ることである。妄想型セクハラの場合は、セクハラ加害者にはセクハラの自覚が全くなく、セクハラ被害者の拒否や周囲の仲裁が全く聞こえていないことがある。また、類型に「腹いせセクハラ」と呼ばれるものもあり、両者の区別は難しいという[44]。 労働局に寄せられたセクハラ相談件数は、2014年度(平成26年度)で11,289件であった[45]。このうち相談者の内訳は、女性労働者からが59.6%、男性労働者からが5.5%、事業主からが16.4%、その他からが18.6%である[46]。セクハラ相談件数は、男女雇用機会均等法に関する相談のうち45.4%にあたる[2]。 しかし、一般に性犯罪の被害申告率は低く、盗難や強盗の申告率がおおむね6割以上であるのに対し、性犯罪の被害申告率は1割強にすぎない[47]。そのため性犯罪と地続きになっているセクシャルハラスメントの暗数も相当数存在すると考えられ、実際に労働政策研究・研修機構の実態調査によると正社員のセクハラ経験率は34.7%に達するとの結果も出ている[48][49]。 2019年(令和元年)12月2日、厚生労働省の審議会が2019年11月にまとめたハラスメント防止指針[50]では就活生へのセクハラ・パワハラ防止に実効性を欠くとして、慶應義塾大学・上智大学・早稲田大学・国際基督教大学・創価大学・東京大学の学生らでつくる有志団体「セーフ・キャンパス・ユース・ネットワーク(SAY (Safe Campus Youth Network))」が都内で記者会見を開き、指針案の修正と就活セクハラの根絶を訴えるとともに大学を管轄する文部科学省に対して声明文を提出した[51]。厚労省の防止指針では就活生の保護は義務付けておらず、社員に対するのと同様に就職活動をする学生たちへのセクハラ、パワハラも禁止し、相談窓口の設置も義務付けるよう求めている[52]。大学に対しても就活生へのハラスメントの実態調査と相談窓口の設置を求めた[53][54]。 2019年(令和元年)12月11日、セクハラやパワハラの対策を進める厚生労働省は、被害を相談した労働者に不利益な取り扱いをした企業が女性活躍・ハラスメント規制法で社名を公表された場合、ハローワークや職業紹介事業者は一定期間その企業の求人を受理しないことを認めると決めた。不利益な取り扱いを禁じる女性活躍・ハラスメント規制法の施行に合わせ政令を改正。2020年6月から実施する[55]。 2016年度(平成28年度)にわいせつ行為及びセクハラで懲戒処分を受けた教育職員は226人で過去最大であった[3]。
類型
対価型セクハラ
酒席で、酌を強要すること。
学校で、教師としての立場を利用して、教師が学生(または学生側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。
就職活動で、利害関係を利用して、求人側の担当者(または求人側の関係者)が求職者(または求職者の関係者)に、性行為や猥褻行為を強要すること。
職場で、職務上の立場を利用して、上司(または上司側の関係者)が部下(または部下側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約
商取引で、利害関係を利用して、買い手側の関係者が売り手側の関係者に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。
環境型セクハラ
上司が部下に仕事の域を超えて個人的に親密な関係になることを誘うこと[11]。
ソープランドなどの性風俗店にむりやり誘うこと[41]。
裸踊りを強要すること[42]。
恋愛、結婚、出産のことを尋ねること[注 1]
「(性別)のくせに・・・」「(性別)なら・・・」と発言すること[43]。
妄想型セクハラ
休日にも関わらず業務連絡と見せかけて「休日は何をしているんだ」などプライベートに踏み込んで詮索する
セクハラ発言を拒絶しているのに「自分のことが好きに違いない」と勘違いして、セクハラを継続して行う
日本での実態
職場
学校「スクール・セクシュアル・ハラスメント」も参照
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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