自認する性別と異なる振る舞いや性役割を他者から要求されて精神的な苦痛を覚える性同一性障害者の問題や、同性愛者に対する差別的言動の問題もセクシャルハラスメントを論ずる際に欠かすことができない視点となりつつある(SOGIハラ)。2014年7月からは同性愛やトランスジェンダーなどLGBTに対する差別的言動もセクハラであるとし、雇用主は措置義務を負うこととなった[15]。2022年5月、女性として生活しているトランスジェンダーの会社員は、SOGIハラやセクシャルハラスメントにより精神的な被害を受けたとして、勤め先のピクシブ株式会社と元上司に合わせて550万円余りの賠償を請求した[16]。会社員は「なぜ女装しているんだ」などと言われたり、興味本位で体を触ったり猥褻な話をされたりするハラスメントを継続的に受けていた[17]。 「セクシャルハラスメント」は1970年代初めにアメリカの女性雑誌『Ms』の編集主幹でラディカル・フェミニストのグロリア・スタイネムらが作り出した造語とされる(裁判所による法律との整理は、1845年代から始まっていると主張する学者もいる[18])。2018年6月8日、国連の国際労働機関(ILO)は年次総会で、職場でのセクハラを含むハラスメントをなくすための条約を制定すべきだとする委員会報告を採択、2019年総会でハラスメント対策として初の国際基準となる条約制定を目指すことになり[19]、2019年に「2019年の暴力及びハラスメント条約(第190号)」が採択された[20][21]。 日本では、1986年(昭和61年)1月に起きた西船橋駅ホーム転落死事件で、傷害致死罪で起訴された被告女性を支援する女性団体「働くことと性差別を考える三多摩の会 1989年(平成元年)8月、福岡県の出版社に勤務していた晴野まゆみが上司を相手取り、セクシャルハラスメントを理由とした民事裁判を起こした。のちに日本初のセクハラ訴訟として福岡セクシュアルハラスメント事件
歴史
日本における歴史
その後、セクハラ(セクシャルハラスメント)は一過性の流行語で終わらずに、
1990年(平成2年)、部下に強制猥褻行為をした上司への慰謝料支払命令、福岡事件[要出典][30][31]
1992年(平成4年)、虚偽の異性関係について噂を流布した上司と会社への慰謝料支払い命令(福岡セクシュアルハラスメント事件)。
1994年(平成6年)に問題化した就職氷河期の新卒女子へのセクハラ面接[32]。
1996年(平成8年)、巨額の慰謝料で話題になった米国三菱自動車セクハラ事件[33]。
1997年(平成9年)4月からAIU保険会社日本支社が発売開始したセクハラ保険。
など、1990年代を通じて日本語として浸透、定着していった。1992年(平成4年)に晴野まゆみが日本初のセクハラ裁判(1989年提訴)で全面勝訴したことは、雇用主へのセクシュアルハラスメント防止措置の義務化を盛り込んだ1997年(平成9年)の男女雇用機会均等法の改正、今日のセクハラ防止ガイドラインが生まれる起爆剤にもなった[34]。
国際労働機関(ILO)が80ヵ国の現状を調査した結果、仕事に関する暴力やハラスメントの規制を持つ国は60ヵ国で、日本は規制の無い国とされた[35]。2018年(平成30年)5月18日、日本政府は野党議員の質問主意書に対して「現行法令でセクハラ罪は存在しない」とする答弁書を閣議決定した[36][37][38]。 厚生労働省の分類では、対価型セクハラと環境型セクハラの2つのタイプに分類される[2]。 職場や学校などにおける立場・同調圧力・階級の上下関係と自身の権限を利用して、下位にある者に対し性的な言動や行為を行い(強要し)、相手が拒否などを示したことによって、降格・解雇、減給や更新拒否などの不利益を与えるセクハラのことである。「パワー・ハラスメント」も参照 職場で働いたり、学校で学んだりする環境を害するような性的嫌がらせのことである。 厚労省の2つの分類に加え、チャットやSNSや電子メールなどでの連絡が原因で起こる「妄想型セクハラ」も増加している[1]。妄想型セクハラは「思い込み型セクハラ」や「疑似恋愛型セクハラ」とも言われており、主にチャットやSNSで連絡を取っているうちに関係性が深まったと思い込みセクハラ発言に至ることである。妄想型セクハラの場合は、セクハラ加害者にはセクハラの自覚が全くなく、セクハラ被害者の拒否や周囲の仲裁が全く聞こえていないことがある。また、類型に「腹いせセクハラ」と呼ばれるものもあり、両者の区別は難しいという[44]。 労働局に寄せられたセクハラ相談件数は、2014年度(平成26年度)で11,289件であった[45]。このうち相談者の内訳は、女性労働者からが59.6%、男性労働者からが5.5%、事業主からが16.4%、その他からが18.6%である[46]。セクハラ相談件数は、男女雇用機会均等法に関する相談のうち45.4%にあたる[2]。 しかし、一般に性犯罪の被害申告率は低く、盗難や強盗の申告率がおおむね6割以上であるのに対し、性犯罪の被害申告率は1割強にすぎない[47]。
類型
対価型セクハラ
酒席で、酌を強要すること。
学校で、教師としての立場を利用して、教師が学生(または学生側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。
就職活動で、利害関係を利用して、求人側の担当者(または求人側の関係者)が求職者(または求職者の関係者)に、性行為や猥褻行為を強要すること。
職場で、職務上の立場を利用して、上司(または上司側の関係者)が部下(または部下側の者)に、猥褻行為・性行為・愛人契約
商取引で、利害関係を利用して、買い手側の関係者が売り手側の関係者に、猥褻行為・性行為・愛人契約を強要すること。
環境型セクハラ
上司が部下に仕事の域を超えて個人的に親密な関係になることを誘うこと[11]。
ソープランドなどの性風俗店にむりやり誘うこと[41]。
裸踊りを強要すること[42]。
恋愛、結婚、出産のことを尋ねること[注 1]
「(性別)のくせに・・・」「(性別)なら・・・」と発言すること[43]。
妄想型セクハラ
休日にも関わらず業務連絡と見せかけて「休日は何をしているんだ」などプライベートに踏み込んで詮索する
セクハラ発言を拒絶しているのに「自分のことが好きに違いない」と勘違いして、セクハラを継続して行う
日本での実態
職場
Size:189 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
担当:undef