セクションの書法
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このような実質的な声部のことを実声部 a real part と呼ぶ[6]

バスーンをセクショナルにハーモナイズすることもできる。このようにしても実質的な声部は3声であることに変わりはない。

バスーンのセクショナル・ハーモニーを含む声部書法 バスーンのセクショナル・ハーモニーを含む声部書法 この音声や映像がうまく視聴できない場合は、Help:音声・動画の再生をご覧ください。

実例

チャイコフスキー作曲「くるみ割り人形」を例に挙げると、「葦笛の踊り」第3小節から40小節にわたりフルートによる3声のセクショナル・ハーモニーが奏でられる。「花のワルツ」では第38小節からホルンによる3?4声のセクショナル・ハーモニーが演奏され、第69?88小節には弦楽器によるダブル・デュエット double duet[注釈 1]を聴くことができる。[注釈 2]
2声のセクショナル・ハーモニー(デュエット)

2声のセクショナル・ハーモニーは、セクショナル・ハーモニーの中で最も音に厚みがない。メロディ楽器が2つしかない時にセクショナルな効果を出したい時の唯一の選択肢である。もっと楽器がある場合でも、2声のハーモニーは薄くて軽いので、後に紹介する多声部で重厚なセクショナル・ハーモニーと対比させると効果的である。2声のハーモニーはその薄さのため、下声部のラインがよく聞こえてしまう。このため、自然な旋律に聞こえるような配慮が下声部のボイス・リーディング(声部連結)に必要となる。

あらゆる音程が使えるが、最も基本となるのは3度と6度のハーモニーである[8]。3度や6度は並行 similar motion させてもよいし、必要に応じて3度から6度へ、あるいはその逆へと入れ替えることもできる。連続3度や連続6度でハーモナイズすると、リード・ラインが和声音であっても、頻繁に下声部に非和声音が現れることになる。自然に聞こえれば3度と6度を入れ替えて回避することもできるし、下声部が付加音(第7音や第6音)やテンションに該当すれば滑らかに並行を続けることができる。ただし、こうした非和声音は、ハーモニーを曖昧にするため、長い音価では使えない。オリジナルのコード進行が2声のハーモニーに適さなければ、修正(リハーモナイズ reharmonization)されることもある。
完全協和音程「ユニゾン」、「完全8度」、「完全五度」、および「完全四度」も参照

完全ユニゾン perfect unison は音が薄いため、通常はフレーズの最初や最後のみに用いられる。

完全8度 perfect octave の使用は完全ユニゾンに準じるが、音はユニゾンほど薄くはならない。

陰伏8度 hidden octave(並達8度)は終止部分以外では避けられる。

完全5度 perfect fifth は独特な癖のある響きをもち、3度や6度を主とする和声とは相性が悪い。和音の根音を含む平行5度は使用できない。しかし、後続の5度音程の片方または両方が非和声音(第6音、第7音、その他)であれば許される。両声の反行 contrary motion の過程で生じる5度や、伝統的なホルンの5度 horn fifth は使用可能である。[8]

完全4度 perfect forth は2声の和声では不協和音程である。

不協和音程

2声のセクショナル・ハーモニーにおいて、不協和音程の適切な解決は何を置いても重要で、遅くとも後続和音で解決されなければならない[8]

不協和音程の処理方法は複数あるが、ここでは性格の異なる2種類の倚音 an appoggiatura、つまりメロディの表情を豊かにするための倚音 an expressive appoggiatura およびリズム効果を狙った倚音 a rhythmic appoggiatura の典型的な処理方法を示す(2声以外でも考え方は同じである)。

※ 強拍または拍の頭にある非和声音で、順次進行で和声音に解決するものを、本記事では便宜的にどれも「倚音」と表現する。

表情を豊かにするための倚音 an expressive appoggiatura(*印)は、不協和音をそのまま保持するか、不協和を強めるようにボイシングをするとよい[8] 再生[ヘルプ/ファイル]リズミックな効果を狙った倚音 a rhythmic appoggiatura(*印)は倚和音 an appoggiatura chord でサポートすると効果的である[8] 再生[ヘルプ/ファイル]

3声のセクショナル・ハーモニー

3本のブラスサックスによるセクショナル・ハーモニーは、吹奏楽や商業オーケストラでよく使われる。3声のハーモニーの下声部のそれぞれの旋律は2声より聴き取りにくく、ボイス・リーディングも2声の時ほど気を遣わなくてよい。
縦の積み重ね

クローズ・ボイシング close voicing(密集配分)は音の密度が濃くよく溶け合い、下声部の旋律は聴き取りにくい。速いテンポの曲やリズミカルなフレーズに適する。ストック・アレンジメント(編成が多少不完全でも演奏できる市販の楽譜)でよく使われる。

オープン・ボイシング open voicing(開離配分)では各声部が溶け合いにくく下声部それぞれの旋律は比較的聴き取りやすい。このためより自然なボイス・リーディングが求められる。演奏者にも技術が要求される。ゆっくりとしたテンポの曲や、リズムの激しくないフレーズに適している。

詳しくはボイシングを参照。

3声のセクショナル・ハーモニーでは、トライアド(三和音)、セブンス・コード(7の和音)、シックスス・コード(付加6の和音)も使用することができる。第9音 9th は根音 root の代理音としてしばしば用いられるが、メロディを阻害しないよう配慮して使用される。
横の動きと縦の積み方との関係

3声セクションの外声は、完全な2声体 a perfect duet であることが望ましい[2]。たとえば外声の平行5度は望ましくない。特にクローズ・ボイシングにおいては、速い動きの時はセクションの流れを滑らかにするために外声は並行6度で動かすのがよい。するとしばしば外声に和声外音 a non-chord tone(=非和声音)が現れることになるが、やむを得ないこともある。それでも速いパッセージでは6度を保った方がよい。しかし、動きのゆったりとした箇所では、横の動きの滑らかさより和音の垂直な構造が最優先される(長い音価の非和声音は和声機能〔響きの表情〕を曖昧にする)。並行6度がよいかどうかは、速さに依存するのである[2]

並行6度でなめらかに進行する3声のセクショナル・ハーモニー。外声に和声外音(非和声音 *印)を用いて並行6度を保っている。このようなボイシングはある程度の速さを持つフレーズに適し、ゆったりとしたフレーズには適さない。 再生[ヘルプ/ファイル]同じフレーズを和音の流れを重視してボイシングしたもの。和音の垂直な構造はより正確だが、横の流れがぎこちない。 再生[ヘルプ/ファイル]

横のライン

3声のセクショナル・ハーモニーでは、下声部のボイス・リーディングは2声の時ほど重要ではない。とはいえ、変則的なボイス・リーディングが必要なときは、できる限り内声で処理するように配慮される。セクションの書法では、下声部の旋律的な動きよりセクションとしての流れを重視する。不協和音程や限定進行音を同一声部で解決するとセクションの流れが犠牲になる場合は、別の声部で解決する。ある声部の不協和音程や限定進行音を別の声部で解決する過程をトランスファーランス transference と言う[2]3声のセクショナル・ハーモニー。青い矢印はトランスファーランスtransferenceを示す。 再生[ヘルプ/ファイル]

この例からもわかる通り、セクショナル・ハーモニーは伝統的な和声理論とは別の理論なのではない。従来の理論の延長線上に位置し、より自由に応用されているだけなのである。
4声のセクショナル・ハーモニー

4声のセクショナル・ハーモニーは音に厚みがあり、3声より充実した響きが得られる。不自然なテンションを使わずに音に厚みを出すことができる。音色の似た楽器を組み合わせた時に最も効果的である。スウィング・スタイルビッグバンド等でよく用いられる。


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