セクションの書法
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2声のセクショナル・ハーモニーにおいて、不協和音程の適切な解決は何を置いても重要で、遅くとも後続和音で解決されなければならない[8]

不協和音程の処理方法は複数あるが、ここでは性格の異なる2種類の倚音 an appoggiatura、つまりメロディの表情を豊かにするための倚音 an expressive appoggiatura およびリズム効果を狙った倚音 a rhythmic appoggiatura の典型的な処理方法を示す(2声以外でも考え方は同じである)。

※ 強拍または拍の頭にある非和声音で、順次進行で和声音に解決するものを、本記事では便宜的にどれも「倚音」と表現する。

表情を豊かにするための倚音 an expressive appoggiatura(*印)は、不協和音をそのまま保持するか、不協和を強めるようにボイシングをするとよい[8] 再生[ヘルプ/ファイル]リズミックな効果を狙った倚音 a rhythmic appoggiatura(*印)は倚和音 an appoggiatura chord でサポートすると効果的である[8] 再生[ヘルプ/ファイル]

3声のセクショナル・ハーモニー

3本のブラスサックスによるセクショナル・ハーモニーは、吹奏楽や商業オーケストラでよく使われる。3声のハーモニーの下声部のそれぞれの旋律は2声より聴き取りにくく、ボイス・リーディングも2声の時ほど気を遣わなくてよい。
縦の積み重ね

クローズ・ボイシング close voicing(密集配分)は音の密度が濃くよく溶け合い、下声部の旋律は聴き取りにくい。速いテンポの曲やリズミカルなフレーズに適する。ストック・アレンジメント(編成が多少不完全でも演奏できる市販の楽譜)でよく使われる。

オープン・ボイシング open voicing(開離配分)では各声部が溶け合いにくく下声部それぞれの旋律は比較的聴き取りやすい。このためより自然なボイス・リーディングが求められる。演奏者にも技術が要求される。ゆっくりとしたテンポの曲や、リズムの激しくないフレーズに適している。

詳しくはボイシングを参照。

3声のセクショナル・ハーモニーでは、トライアド(三和音)、セブンス・コード(7の和音)、シックスス・コード(付加6の和音)も使用することができる。第9音 9th は根音 root の代理音としてしばしば用いられるが、メロディを阻害しないよう配慮して使用される。
横の動きと縦の積み方との関係

3声セクションの外声は、完全な2声体 a perfect duet であることが望ましい[2]。たとえば外声の平行5度は望ましくない。特にクローズ・ボイシングにおいては、速い動きの時はセクションの流れを滑らかにするために外声は並行6度で動かすのがよい。するとしばしば外声に和声外音 a non-chord tone(=非和声音)が現れることになるが、やむを得ないこともある。それでも速いパッセージでは6度を保った方がよい。しかし、動きのゆったりとした箇所では、横の動きの滑らかさより和音の垂直な構造が最優先される(長い音価の非和声音は和声機能〔響きの表情〕を曖昧にする)。並行6度がよいかどうかは、速さに依存するのである[2]

並行6度でなめらかに進行する3声のセクショナル・ハーモニー。外声に和声外音(非和声音 *印)を用いて並行6度を保っている。このようなボイシングはある程度の速さを持つフレーズに適し、ゆったりとしたフレーズには適さない。 再生[ヘルプ/ファイル]同じフレーズを和音の流れを重視してボイシングしたもの。和音の垂直な構造はより正確だが、横の流れがぎこちない。 再生[ヘルプ/ファイル]

横のライン

3声のセクショナル・ハーモニーでは、下声部のボイス・リーディングは2声の時ほど重要ではない。とはいえ、変則的なボイス・リーディングが必要なときは、できる限り内声で処理するように配慮される。セクションの書法では、下声部の旋律的な動きよりセクションとしての流れを重視する。不協和音程や限定進行音を同一声部で解決するとセクションの流れが犠牲になる場合は、別の声部で解決する。ある声部の不協和音程や限定進行音を別の声部で解決する過程をトランスファーランス transference と言う[2]3声のセクショナル・ハーモニー。青い矢印はトランスファーランスtransferenceを示す。 再生[ヘルプ/ファイル]

この例からもわかる通り、セクショナル・ハーモニーは伝統的な和声理論とは別の理論なのではない。従来の理論の延長線上に位置し、より自由に応用されているだけなのである。
4声のセクショナル・ハーモニー

4声のセクショナル・ハーモニーは音に厚みがあり、3声より充実した響きが得られる。不自然なテンションを使わずに音に厚みを出すことができる。音色の似た楽器を組み合わせた時に最も効果的である。スウィング・スタイルビッグバンド等でよく用いられる。
縦の積み重ね

4声のセクショナル・ハーモニーでは重複音のない4音を各声部が演奏する。トライアドに第7音 seventh や第6音 sixth を付加することで、4音の和音が作れる。付加音 an added note を使うとハーモニーの厚みが増す[7]。これらはそれぞれセブンス・コード(7の和音)およびシックスス・コード(付加6の和音)と呼ばれる。セブンス・コードやシックスス・コードを基調とする音楽では、第6音および第7音は基本的には和声音 a chord tone とみなされる。また、テンション a tension(和声音のようにも使える非和声音)もよく用いられる。4声のセクショナル・ハーモニゼーションで用いる基本的な和音は、トライアドに第7音または第6音を追加した和音である。
ボイシング

クローズ・ボイシングは音の厚みを最大限に活かせるためよく用いられる。4 way close[9] としても知られる。

オープン・ボイシングは緊張感が低く、豊かなサウンドが得られる。個々の声部が独立して聞こえやすいという特徴から、音色の異なる楽器による4声のセクションでは、そのぶんボイス・リーディングに注意を払う必要がある。

オープン・ボイシングはクローズ・ボイシングの:
第2声部を1オクターブ下げて作る。これを drop 2 と言う[7][9]

第3声部を1オクターブ下げて作る。これを drop 3 と言う[9]

第2および第4声部を1オクターブ下げて作る。これを drop 2 & 4 と言う[9]

どれも、単純に声部を1オクターブ下げただけではしばしば好ましくない響きとなるため、そのような場合はボイシングの修正がなされる。

それぞれのボイシングを譜例に示す。クローズ・ボイシング。4 way close としても知られる。 再生[ヘルプ/ファイル]Drop 2 によるオープン・ボイシング。新しい第2声は、テンションに変更できる音は変更される[9](青い音符)。 再生[ヘルプ/ファイル]
Drop 3 によるオープン・ボイシング。第3声をドロップし、第2声がリード・ラインと並行3度をなすように変更される[9](青い音符)。3度の連続が不可能な場合は、部分的にdrop 2でボイシングされたり(橙の音符)、リハーモナイズreharmonization(和声の付け直し)されたりする(トランペット・パートの青い音符)。トロンボーン・パートの青い音符は声部の流れをスムーズにするために変更されているが、リハーモナイズではない(根音の代理音でありGm7のテンションでもある第9音に転位しただけなので和音としては同じものである)。 再生[ヘルプ/ファイル]Drop 2 & 4 によるオープン・ボイシング。


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