セウォル号沈没事故
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その際、最上階部分船体後方に客室を増設したり、船首右舷側の貨物用ランプウェイを取り外すなどの改造が施され、重心がマルエフェリー時代より高くなり、定員数は804人から921人に、総トン数は6,825トンにそれぞれ増加[98]、車両180台、20フィートコンテナ152個を積載可能な船舶として、清海鎮海運は「韓国最大のクルーズ船」と幅広く宣伝[6]2013年3月15日より「セウォル」として仁川-済州間週2往復の定期運行を開始、定員を活かして団体旅行にも利用されていた[102][103]

この改造は韓国船級協会の規定に合致しており違法ではないが[65]、船体下部に位置したランプウェイの取り外しや船体上後部への客室の増設などの改造は重心位置が高く後部に移動し、バランスを取るのが難しくなったために転覆した可能性が複数の有識者により指摘されている[95]。しかし、反対の意見もあり捜査当局はあらゆる可能性も含め捜査するとした[95]。4月22日に韓国船級協会が客室の増改築の結果、重心が51センチ上がって復原力が大幅に低下したが、積載できる重量の倍以上の貨物を載せていたというセウォルの復原性検査の結果を公開した[104]

なお、改造を行った全羅南道の会社は、2010年から船舶改装に参入した小規模企業であり、関係者によれば「大型旅客船の改装を行った実績がないとみられる」といい、また韓国船級協会も傾斜度検査などの改造後の十分な検証が行われなかったと指摘されている[105]。また、李明博政権の2009年に、企業コストを削減するために旅客船の船齢制限を20年から30年に延長するなど、船舶に関する規制緩和が成立しており、これが今回の事故に影響したのではないかと野党新政治民主連合の議員が主張している[106]

5月26日、沈没の原因の捜査を行っている合同捜査本部は、起訴状の中で『セウォル号は2012年に輸入された後、兪炳彦(当時、清海鎮海運の会長)の指示で、客室や貨物室の拡張、兪容疑者の展示室の増設などの工事が行われた』などと述べた。これらの船体の増改築工事により、セウォル号は重心が上昇し、復原性を確保する為には、改造前よりも積載量を1448トン減らし、バラスト水を1324トン増やさなければならなくなった。しかし、清海鎮海運は139回の過剰積載を続け、約29億ウォンもの不当な利益を得ていた。これらの沈没原因となった復原性や過積載の問題についても、兪炳彦は報告を受けていた[107]

6月9日、セウォル号の船会社である清海鎮海運が、セウォル号の安全基準よりも多く車両を載せるため、車の固縛装置(D?リング)785個を無断で取り付け、車両196台分多く載せられるように改造していたことが報じられる。昨年2月の韓国船級による安全検査を受けた後、設置した[108]
運航会社の問題

運航会社の
清海鎮海運は事件の数年前から故障や衝突などの事故を繰り返していることが分かっている。2011年4月にエンジン故障により622名の乗客を乗船させたまま約5時間航行不能となる漂流事故を起こし、2013年3月にも燃料フィルター欠陥によりまた約5時間の漂流事故を起こし、2014年4月には漁船との衝突事故を起こしている[109]。また、前述の韓国内での旅客船の船齢制限とも関係するが、同社の仁川-済州島間で運航されている僚船「オハマナ」は1989年9月の就航でありセウォルよりも船齢が約5年古く、2009年の規制緩和によって廃船を免れた船である。事故後の同船に対する捜査で救命ボートや脱出用シューターが正常に作動しなかったことが明らかになり、船員の一部は非常時の安全教育を受けていないと供述したことから、安全軽視の企業体質が指摘される状況となっている[110]

社員への緊急時避難教育をしていなかったことが指摘されている。清海鎮海運の監査報告書によると、昨年、船員への研修費が54万ウォン(約53,000円)しかなかった。対して、広告費は2億3000万ウォン、接待費は6060万ウォンであった。総合ニュースによると、他社の教育訓練費用も同じように低いことが指摘されている[111]

清海鎮海運が日常的に過積載を続けていたことが指摘されている。就航以来、検査機関が指定した積載可能量 約980トンの2 - 3倍を上回る貨物を載せることがあり、事故時には約3,600トンを積載していた。旅客収入が伸び悩む一方、貨物輸送収入は前年比36%増であった[112]。これらの過積載によって得られた不当な利益は、29億5000万ウォン(日本円でおよそ2億9000万円)に上る[113]

一部報道によると、事故当日、船の重量オーバーを指摘する船員がいたが、清海鎮海運側は取り合わなかった[114]

2009年から2013年の間、清海鎮海運で発生した事故が6件あった。2011年4月、セウォル号と同じ済州-仁川航路間で修学旅行生648人を乗せた船(セウォル号とは異なる)がエンジントラブルで5時間動けなくなる事故が起こったが、この船の一等航海士として乗船していたのも、今回の船長であった。このときも乗客には待機を指示しただけだった[115]

沈没事故より1か月ほど前の2月末、セウォル号を売却するため、清海鎮海運が国際中古船舶取り引きサイトに登録していたことが報道される。合同捜査本部の取り調べにより、セウォル号の船員全員が、船の復原性に問題があったと陳述をしているとされ、清海鎮海運側が、あらかじめセウォル号の船体に欠陥があったことを把握していた可能性がある[116]

セウォル号は、2013年11月にも改造による復原力の低下で航行中に貨物が崩れる事故を起こしていたことが分かっている。しかし、清海鎮海運は報告を受けながら、対策を取っていなかった[117]

船体検査制度の不備

セウォル号の改装を請け負った会社は、セウォル号を改装するまで、大型客船の改装を行った実績がなかったとする
海洋水産部関係者の証言もある。安全検査を受け持つ韓国船級協会関係者によると、船舶に無理が生じる可能性があるため、4度以上傾けて検査することができず、自社の安全検査基準を満たしていたので合格させた、としている[118]

増改築の検査制度自体にも欠陥があったことが指摘されている。韓国では船舶を改造する際、長さ・幅・深さ・用途の4項目を変更する場合は、海洋水産部長官の許可が必要であったが、セウォル号の改造(客室2階分を垂直方向に増設、乗客定員117人増、船体重心を51センチ引き上げる)は高さの変更であり、民間団体である韓国船級協会の検査のみで許可が下りた。また、セウォル号は船首右側にあった50トンのサイドランプ等が除去され、左右が不均等となっていたが、この改造も海洋水産部の許可を必要としなかった[119]

2014年2月、セウォル号の救命ボートの安全点検をおこなったはずの整備会社が、実は検査をしていなかった事が報道される。整備会社は救命ボートの検査をしていないにもかかわらず、韓国政府に管理を委託されている業界団体に、良好であるとする嘘の書類を提出した。合同捜査本部は、整備会社の次長を拘束、同団体の管理態勢も捜査する予定とした。セウォル号の救命ボートは、船が建造された20年前に取り付けられたままのもので、固定器具は錆びており、船体を塗り直した塗料により甲板にくっついて使えない状態であった[120]

セウォル号には水圧を感知して膨らむ救命ボートが46艘設置されていたが、実際に使われたのは1艘のみであった[121]。これは固定器具がさび付いて外せなくなり、ほぼ全てのボートが使用不能だったためとされ、救助活動を行った警察官も2つのボートを海に蹴落としたが、1つは開かなかった。2月時点での安全検査では「良好」と判定されており、検査機関が船の運航会社と癒着して検査を手抜きした疑いがあると捜査当局は見ている。また、使用不能であることが発覚するのを恐れたため、船員が待機指示をさせたとも指摘されている[122]

6月13日、沈没したセウォル号は、航路ごとの輸送需要予測を基準にした運航認可基準を満たしていなかったことが報じられる[123]。仁川-済州島航路を運航するには、セウォル号は船体が大きすぎて就航基準を満たしていなかった。このため清海鎮海運の幹部が、木浦海洋安全審判院のトップを務めているパク・ソンギュに、合計でおよそ5千万ウォン(約500万円)の賄賂を渡して便宜を依頼したとされ、パクらは偽造書類と知りつつも、2011年9月に認可を出した[124]。セウォル号が運航されていた仁川~済州島航路は、平均運送収入率(従来の船舶の平均収入÷既存・新規船舶の最大可能収入)が25%を超えなければならないが、実際には24.3%にとどまっており、本来は運航認可が下りない状態であった[125]

「セウォル号運航管理規定」が承認される以前、海洋警察署の職員3人が、セウォル号の船会社である清海鎮海運から食事・酒・観光などの接待や、無賃による交通の便宜を受けていたことが報じられる。承認のための審査委員会では未提出書類などの請求もされずに審査が進められたとされ、運航承認での不正疑惑が持ち上がっている[125]

韓国船級協会は、セウォル号船体の重さを100トン程少なく計算し、さらにコンテナの重さを減らした状態で復原性を検査し、そのまま承認していた[125]

船体の故障

安全の検査結果とその後の対策にも問題があった。2月に実施された特別安全点検では、5ヶ所に不具合があったと指摘されている。しかし、措置を取ったとする清海鎮海運側の報告を受けただけで、再点検を実施しなかった。その1つは二重水密扉
の作動不良であり、沈没後の生存を左右するエアポケットの発生条件にも影響すると考えられる[126]


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