スーパーチャージャー
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しかしながら、定常運転の時間が長い航空機用や産業用のエンジンではターボチャージャーのほうが主流となっていて、スーパーチャージャーは一部の自動車用ガソリンエンジンに採用されているのみである。
航空機での利用

航空機の技術が発展して大気密度の低い高高度を飛行するようになると、大気密度の低下によるレシプロエンジンの出力低下を補うために過給機が開発され、機械式のスーパーチャージャーが採用されるようになった。戦間期には飛行高度の上昇により、より密度の低下した吸気をさらに過給するため、過給機を二段とし一段目で過給した吸気を二段目でさらに過給する、二段式過給機が採用されるようになった。アメリカでターボチャージャーが実用化されると二段式の一段目にターボチャージャーを採用する機種が登場した。ジェットエンジンが実用化されるとレシプロエンジンを搭載する航空機は小型機に限られるようになり、過給機が搭載される場合もターボチャージャーが搭載されている。航空機のスーパーチャージャーでは遠心式が多く採用された。

航空機の場合は飛行高度による大気の密度変化が大きいため、同じエンジンであっても主用する高度により過給機の調整がなされる場合もある(低高度で活動する地上攻撃機向けは、翼車を小径に、高空用は翼車を大径にするなど)が、多くの場合、高度によって過給機の回転数を変える変速式が用いられる(増速比が二種類設定できるものは二速式と呼ばれる)。航空機に過給機を用いて地上1気圧下と同等の出力が得られる高度は臨界高度と呼ばれるが、臨界高度を高くするためには過給機の回転速度を速くするなどの方法で過給圧を高くする必要がある。しかし一方で、過給圧を高くすると機械損失(メカニカルロス)が大きくなり、低高度での出力に制限がかかる。このため航空機に採用されていたスーパーチャージャーは、高度によって回転速度を切り替えることができる機械式変速機や、流体継手を用いた流体継手を備えるようになった。

軍用機の場合、二速過給機とした場合でも、十分な出力が発揮できるのは通常6,000m程度とされ、例えばFw190やホーカータイフーン等の一段過給のエンジンの航空機は、これ以上の高度では急激に出力が低下するのが泣き所とされていた。高空での出力を維持するためには、複数のスーパーチャージャーを組み込み、一段目で圧縮された空気をさらに二段目で圧縮する二段過給と呼ばれる方式が必要になる。ターボチャージャー(排気タービン)を搭載した航空機でもこれは同様で、1段目過給をターボチャージャー、二段目過給をエンジンに装備されている機械式スーパーチャージャーで行う二段過給を行う例が多い。

闇雲に加給圧を上げても、圧縮によって高温になった空気により異常燃焼を起こすため、吸入気を冷やすために、水メタノール噴射装置を追加したり、一段目と二段目の間に中間冷却器(インタークーラー)を組み込むことも行われた。
自動車での利用

スーパーチャージャーは小排気量の4気筒エンジン特有の細い低速トルクを補う目的で一時期各メーカーが採用車種をラインナップしていた。コストを抑えやすいためルーツ式が主流である。イートン・コーポレーションでは四葉のものも開発・製造しており量産車への採用例もある。また、ルーツ式スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合せ、低回転域ではスーパーチャージャーが働き、高回転域ではターボチャージャーが働くツインチャージャーを採用する例もあった[10]レース用エンジンには二段過給式も採用された例がある[11]。しかし、ルーツ式は過給圧を高めるほど効率は低くなり[5]、騒音を生じやすい[12]ほか、装置が大きく重い欠点があることから、後付けで搭載されるアフターマーケット製品のスーパーチャージャーを中心に遠心式を採用する例もある[7]。また、スーパーチャージャーが組み合わせられるエンジンは基本的にガソリンであり、ディーゼルエンジンの場合元々低速トルクが太いため採用するメリットが乏しく、さらにディーゼル車特有の高圧縮比との両立に問題があり、2ストロークユニフロー掃気ディーゼルエンジンを除き、日本車においてディーゼルエンジン車のスーパーチャージャー搭載例はない(プレッシャーウェーブ・スーパーチャージャーの搭載車は存在する)。

1921年(大正10年)に、世界で初めてスーパーチャージャー付きエンジンを搭載した量販車「メルセデス6/25/40ps」と「メルセデス10/40/65ps」が、ベルリンモーターショーで公開されている。
日本車

過去において日本の自動車税の税額は車体寸法とエンジンの排気量により決定され、過給機の追加は課税に影響しなかったことから、小型乗用車の枠内に納めたシャシに排気量2,000 ccのエンジンと過給機を搭載して最高出力を争うように訴求力を高めていた。その場合においても、小排気量で高回転域の出力を重視する場合はターボチャージャーと比較するとメカニカルロス及び騒音が大きく[注釈 1]。またコストパフォーマンスが悪いことから採用例が少なかった。一方、ターボチャージャーの欠点は技術が進歩すると共に解消され、スーパーチャージャーの採用例が増えることはなかった。最高出力を向上する目的で過給機の採用例が増えた日本の自動車業界であったが、自動車による環境負荷を低減することが注目されるようになると最高出力競争が下火になり、過給器を搭載する乗用車は一時的に少なくなった。2010年代から、小排気量のエンジンに過給機を搭載するダウンサイジングコンセプトが世界的に認知され始めたが、ターボチャージャーが主流であり、機械式スーパーチャージャーの採用は一部[注釈 2]に留まっている。2023年現在国内外で市販されている日本メーカーの乗用車でスーパーチャージャーを搭載しているのは、MAZDA3のみとなっている。(ただし、マツダは高応答エアサプライと呼んでおり、スーパーチャージャーの扱いではないとしている)
民生デイゼル工業(現:UDトラックス
米国ゼネラルモーターズ (GM) が1938年に実用化したユニフロー スカベンジング ディーゼルエンジンライセンスを、戦後民生デイゼル工業(現:UDトラックス)が取得し、1955年昭和30年)から「UDエンジン」の名前で生産をはじめた。そのエンジンの掃気に二葉式ルーツブロアーを利用し、日本初の量産スーパーチャージドエンジンであった。エンジンはモジュラー設計で、直列3、4、5気筒とV型8、12気筒をラインナップしていたが、2サイクルエンジンの廃止に伴って掃気用のスーパーチャージャーは採用されなくなった。
トヨタ自動車
AW11型後期のMR2、AE92と101型のMT車のみカローラレビンスプリンタートレノ4A-GE型、GS121と131型クラウン、GX81型前期のみマークIIチェイサークレスタ1G-GE型、TCR20型エスティマ2TZ型の各エンジンにスーパーチャージャー付きの設定があった。それぞれ、自然吸気の仕様から圧縮比を下げ、エンジンルーム内の部品配置を変更し、ルーツ式が組み合わされた。スーパーチャージャーへの動力伝達は電磁クラッチを介して行われ、車速やスロットル開度、エンジン回転数を検知して、スーパーチャージャーが抵抗になるような条件下ではクラッチを切り、出力損失を抑える制御とされていた。アイドリング時にはスーパーチャージャーが駆動されず、スロットル開と車速信号を検出するとクラッチが接続されて駆動する。2017年(平成29年)に限定生産されたヴィッツGRMNにもスーパーチャージャーが搭載された。
日産自動車
日産では、スーパーチャージャーとターボチャージャーを組み合わせた、ツインチャージャーエンジンのMA09ERT型マーチRマーチスーパーターボに搭載された。2012年(平成24年)9月、ダウンサイジングコンセプトによる小型車向けの燃費向上策として、直列3気筒の1.2リットルHR12DDR型では直噴ミラーサイクル化とスーパーチャージャーとを組み合わせ、同社のE12型ノートに搭載された。ミラーサイクルにより高効率化を図るとともに、その欠点であるトルクの低下に対して1.5リットル相当の動力性能も得るために、必要により機械式スーパーチャージャーを作動させて過給している[13]
富士重工業(現:SUBARU
1988年(昭和63年)式レックスで、それまでのターボに代わってスーパーチャージャーが採用された。[注釈 3]吸気管内圧力を利用して開閉する過給気バイパスバルブにより走行負荷状態に応じて過給をオン・オフする方式とを採用した。


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