スーパーコンピュータ
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1990年代後半に入るとパソコンの普及とパソコン用CPUの処理能力の向上が背景となり、パソコン用で安価なx86POWERなどのプロセッサを数百?数千個搭載して計算能力を実現するスカラー型のスーパーコンピュータが台頭し、スーパーコンピュータのコンテストであるTOP500でも上位を占めるようになった。また、スカラー型はCPUの搭載数に応じてスケーラビリティがあるため、中規模の企業や研究所などでも小型のスーパーコンピュータを導入して、費用対効果を保ちながら科学技術計算を行うことができるようになった。

2010年代に入りスーパーコンピュータの開発において中国の台頭が著しく、ランキングに占める数でアメリカを超え[6]、処理性能の世界最高をめぐり日米と争うようになり、米中貿易戦争の対象にもなった[7]

2010年代後半からは既に大量生産されているGPU[注 1]で汎用計算を行うGPGPUの導入が進んでおり、従来のようにカスタムCPUを新規設計する場合と比べてコストパフォーマンスを向上させる事が可能になってきている。究極の例としては2022年に単一マシンとして世界初のエクサスケールコンピュータとなった米HPEの「フロンティア」が挙げられ、GPGPUは世界の最先端を競う分野でもかなり信頼されていると見ることができる。
主な用途

初期段階では主に軍事用に用いられた。現在のスーパーコンピュータは、高速演算、大量演算を必要とする分野に広く利用されており、たとえば次のような分野である。

機械・土木・建築分野での構造力学。機械の設計、橋梁の設計など。

電気工学・物理学分野での電磁界解析。アンテナの設計、高周波回路の設計、無線通信の伝播設計など。

機械、化学、地球物理学(大気・海洋)分野での
流体力学。輸送機器の機体設計、エンジン、タービンなどの原動機の設計、気象予報、気候変動予測、環境汚染物質の増減の予測、農業など。

化学、物性分野の化学反応、固体物理学。計算化学構造体化合物、生物学上の高分子ポリマー)、結晶の物性、第一原理計算など。

原子力利用分野の核反応。原子炉内の核分裂反応、核融合の研究、核兵器の研究など。

なお、「計算能力によるコンピューティング」[注 2]と、「計算容量によるコンピューティング」[注 3]は、関連はあるものの異なるものである。一方の「計算能力によるコンピューティング」は、典型的には「大きな問題を最大のコンピューティングパワーを使用して最短時間で解決する」考え方であり、あるシステムで解決できるサイズや複雑さの問題が、他のコンピュータでは解決できない。他方、「計算容量によるコンピューティング」はそれとは対照的に、大小の問題を解決したりシステムの稼動準備をするために、コンピューティングパワーを効率的な費用対効果で使用する考え方である。
構成要素

スーパーコンピュータといえども、プロセッサメモリストレージネットワークなどのハードウェアと、その上で動くオペレーティングシステム(OS)やアプリケーションなどのソフトウェアから構成される点では一般的なコンピュータと同じである。ただし、スーパーコンピュータのユーザは、本体とは別に用意された端末で操作したり、あるいはSSHtelnet経由で(遠隔で)操作を行う。
プロセッサ

スーパーコンピュータに搭載されるプロセッサの役割も、(普通のコンピュータ同様に)計算処理を行うことである。

一般的なコンピュータと(最近の)スーパーコンピュータの大きな違いは、処理を並列に実行する点にある。通常の単純なプロセッサは、一命令あたり一つの演算だけを行うスカラープロセッサで、一般的なパーソナルコンピュータ(PC)に搭載されるプロセッサ数も1つかごく少数である。スーパーコンピュータでは、1クロックで複数の演算を一度に行うベクトルプロセッサを採用し、システムの中に数十個から数十万のプロセッサを搭載し計算を同時に実行することで高いスループットを実現する構造となっている。

ベクトル演算が1970年代に実装されたあとも、1980年代には並列処理パイプライン処理投機的実行対称型マルチプロセッシング1990年代にはVLIWSIMDなどがスーパーコンピュータに導入され、並列度の向上を実現した。

スーパーコンピュータで最初に採用された技術の多くは、その後にサーバやPCにフィードバックされて、それらの性能向上に寄与した。またその逆に、それまでPC向けであったx86プロセッサが21世紀に入ってから、価格性能比の向上と超並列技術の向上により、スーパーコンピュータの構成に広く採用されるようになった。
採用プロセッサの変化TOP500ランキングにおける1993年から2015年までのCPUアーキテクチャのシェアの推移。2008年以降はx86-64 (Intel, AMD)POWERが大半を占める。

1980年代から90年代までは、高性能計算に特化した専用のベクトルプロセッサを各スーパーコンピュータメーカーが独自に開発し、システムに採用していた。

1990年代前半から、i860AlphaPOWERMIPSSPARCIA-64などのワークステーションやサーバ向けの汎用プロセッサが、組み合わされるメモリーが安価なこととあいまって徐々にスーパーコンピュータにも導入され始め、1990年代後半では一部のハイエンドなものを除いて汎用プロセッサベースのシステムが主流となった。そのようなシステムはコンピュータ・クラスターとも呼ばれ、プロセッサを多数搭載することで高いスループットを狙っている。

さらに、21世紀からのx86プロセッサの価格性能比の向上に合わせ、インテルAMDのCPUを採用するメーカーが増加している。x86の流れをくむx86-64アーキテクチャを含めると2010年6月に発表された第35回TOP500ランキングでは500台中450台がx86プロセッサを採用しており[8]PowerPCを含むPOWERベースのシステムとともに市場を二分しつつある。

汎用プロセッサが主流となった90年代後半以降になっても、特に高性能なシステムではベクトルプロセッサによるものが多かったが、それも21世紀に入り変化した。2002年に運用が開始され以降2年半にわたってTOP500の首位を占めた地球シミュレータのような例外はあるものの、ハイエンドな分野でも置き換えが進行し、2010年6月のランキングにおけるベクトル計算機は500台のうち1台のみ[9]となっている。
特定用途向けプロセッサの活用

特定の計算を支援するコプロセッサや本来画像処理のために開発されたGraphics Processing Unit(グラフィックス プロセッシング ユニット)(GPU)を汎用的な計算に利用するGPGPU: general purpose computing on GPU)など、ある用途に特化したプロセッサをスーパーコンピュータに活用する動きがある。汎用プロセッサに比べ、価格性能比が非常に高くまた消費電力が小さいという利点によって、特に2005年以降動きが活発になってきている。

GRAPEプロジェクトでは、1989年から多体問題に特化したプロセッサを製作し、天文学分子動力学シミュレーションにおいて非常に価格性能比の良い専用計算機を開発している。東京工業大学TSUBAMEにはOpteronによる約1万個のCPUコアの他に、ClearSpeed[10]による高性能計算専用アクセラレータCSX600が搭載されている。2006年11月のランキングでCSX600を利用することで、2006年6月に発表されたCPUのみの結果に比べ約10TFLOPSも性能が向上した[11]。また、高性能GPUを手がけるAMD、NVIDIAは両社とも2007年に汎用計算を念頭に置いたGPUベースのアクセラレータを発表している[12][13]。「ストリーム・プロセッシング」も参照


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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