スパイ小説
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こうした事実を踏まえ、末國善己は「日本におけるスパイ小説≠フ源流は、西南戦争の新聞報道あたりまで遡れるかもしれない」という見方を示している[1]

しかし、日本でスパイ小説が盛んに書かれ、ブームと言えるような状況となるのは1930年代に入ってからで、そのムーブメントを代表する作家に山中峯太郎がいる。「少年倶楽部」に発表された『亜細亜の曙』(1932年)をはじめとする陸軍少佐・本郷義昭シリーズは1941年まで続いた。山中の作品の多くは「少年倶楽部」「少女倶楽部」「幼年倶楽部」といった少年少女向け雑誌に掲載された。満州中国を舞台に、日本の軍事探偵、時には読者と同年代の少年(『見えない飛行機』1936年)が、ソビエト連邦やアメリカ合衆国のスパイ、あるいは抗日秘密結社相手に戦うという内容が多かった。中には、帝政ロシアの公爵令嬢(『空襲機密島』1939年)や中国人女性(『亜細亜中断戦』1940年)が日本のために戦うというものもあった。

山中峯太郎以外には、以下に挙げる作家たちがスパイ小説を書いた。

山本周五郎『少年間諜X13号』(1932年、少年少女譚海)[注 4]

海野十三『青い兵隊蜂』(1936年)

佐藤紅緑『黒将軍快々譚』(1937年、少年倶楽部)

大下宇陀児『金色のレッテル』(1937年)

野村胡堂『スパイの女王』(1938年、少女倶楽部)

海野十三や大下宇陀児といった探偵小説の作家たちがスパイ小説を書いた理由について、江戸川乱歩は「文学はひたすら忠君愛国、正義人道の宣伝機関たるべく、遊戯の分子は全く排除せらるるに至り、世の読物凡て新体制一色、殆ど面白味を失うに至る。探偵小説は犯罪を取扱う遊戯小説なるため、最も旧体制なれば、防諜のスパイ小説のほかは、諸雑誌よりその影をひそめ、探偵作家は夫々得意とする所に従い、別の小説分野、例えば科学小説、戦争小説、スパイ小説、冒険小説などに転じるものが大部分であった」と戦時体制下の特殊な状況を挙げている[2]
戦後

戦後、スパイ小説はグレアム・グリーン、エリック・アンブラーらの諸作が歓迎されながら、日本人作家による定着には時間がかかった。そんな中、1961年になって中薗英助の『密書』、海渡英祐の『極東特派員』が相次いで刊行。大井廣介は『エラリー・クイーンズ・ミステリ・マガジン』の月評「紙上殺人現場」で両作を取り上げ、「アンブラーに刺激され、アンブラーとはりあう作家が、期せずして、同時に登場した」とその意義を強調している[3]。また新保博久も中薗の『密書』と『密航定期便』(1963年)を挙げて「この分野にいち早く鍬を入れた」とそのパイオニアとしての功績を評価している[4]

その他、日本人作家による主なスパイ小説には次のようなものがある。

結城昌治『ゴメスの名はゴメス』(1962年)

三好徹『風は故郷に向う』(1963年)

都筑道夫『三重露出』(1964年)

志水辰夫飢えて狼』(1981年)、『あっちが上海』(1984年)、『こっちは渤海』(1988年)

伴野朗『ゾルゲの遺言』(1981年)

これ以外にも戦前から少年少女向けにスパイ小説を書いていた山本周五郎の『樅ノ木は残った』(1958年)にも伊達騒動を対立する2陣営の諜報合戦と見立てたスパイ小説の趣がある[注 5]。同じく時代小説ながら村山知義の『忍びの者』五部作(1962年 - 1971年)もリアリズムで忍者を描き、やはりスパイ小説の趣がある。現代小説では、梶山季之は「トップ屋」としての経験を活かし『黒の試走車』(1962年)などで産業スパイを扱った。また五木寛之直木賞受賞作『蒼ざめた馬を見よ』(1967年)は(必ずしもそう評価はされていないものの[注 6])世界を舞台にしたスケールの大きなスパイ小説と言っていい。さらに生島治郎の『もっとも安易なスパイ』(1985年)や大沢在昌の「アルバイト探偵(アイ)」シリーズ(1995年 - 2006年)のようなコメディタッチのスパイ小説も書かれている。

冷戦中の日本のスパイ小説は、CIAを善玉として描くものがほとんどだが、田中芳樹は、KGBを善玉として、ソ連反体制派と対峙する『白夜の弔鐘』(1981年)を発表している
主なスパイ小説作家
欧米

エリック・アンブラー

ジェラール・ド・ヴィリエ

エドワード・オッペンハイム

マニング・オブライン(英語版)

バロネス・オルツィ

アリー・カーター(英語版)

ジョン・ガードナー

チャールズ・カミング

ヤン・ギィユー

マイケル・ギルバート

トム・クランシー

ブライアン・クリーヴ(英語版)

グレアム・グリーン

ビル・グレンジャー(英語版)

デズモンド・コーリイ(英語版)

マニング・コールス(英語版)

ダニエル・シルヴァ

デズモンド・スキロー(英語版)

ロバート・アースキン・チルダーズ(英語版)


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