スパイ小説
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もちろんスパイ小説への関心も急落した。ゲームは終わったと判断され、ニューヨーク・タイムズも長く続けてきたスパイ・スリラーの書評を打ち切った。

しかし、出版者は読者層が見捨てないことを願って、冷戦時代に人気のあった作家たちの新作を出し続けた。その願いは叶った。冷戦時代の項目で名前を挙げた作家以外では、ネルソン・デミル(Nelson DeMille)、W・E・B・グリフィン(W. E. B. Griffin)、デイヴィッド・マレル(David Morrell)らがこのスパイ小説受難の時代に成功を収めた。

一方で編集者は新人作家に賭けることには及び腰だった。ハードカバーで出版するほどの筆力・独創性を持っていると見なされた作家はほんの一握りで、その中には、『モスコウ・クラブ』(1995年)のジョゼフ・ファインダー(Joseph Finder)、『マスカレード』(1996年)のゲイル・リンズ(Gayle Lynds)、『マルベリー作戦』(1996年)のダニエル・シルヴァ(Daniel Silva)、イギリスの作家では、『A Spy By Nature』(2001年)のチャールズ・カミング(Charles Cumming)、『Remembrance Day』(2000年)のヘンリー・ポーター(Henry Porter)らがいて、彼らの冷戦後の世界を扱った小説は、スパイ小説が生き延びる助けをした。
アメリカ同時多発テロ事件後

2001年9月11日アメリカ同時多発テロ事件の余波と、それに続くテロ攻撃は、読者にもっと良く世界を知りたいという要求をかき立てた。小説は読者を楽しませるだけでなく、何かを学ぶレンズでもあった。一般読者は自国だけでなく世界の現実の情報活動に関心を向け、その結果としてスパイ・スリラーの需要が増した。

ル・カレとフォーサイスが新作をひっさげてスパイ小説に復帰し、編集者たちも積極的にスパイ小説を探し求めた。ヨーロッパでアメリカ合衆国で新しいスパイ小説家がデビューした。ニューヨーク・タイムスのベストセラー・リストがスリラーで占領されることも多かった。

2004年になって、初のプロ・スリラー作家たちの国際組織、国際スリラー作家協会 (ITW)が設立され、2006年6月に最初の国際会議「ThrillerFest」が開かれた。

若年層向けのスパイ・スリラー小説などが出現した。映画『エージェント・コーディ』(2003年)のようなばかばかしい10代向けスパイ・コメディから、アンソニー・ホロヴィッツ(Anthony Horowitz)の「女王陛下の少年スパイ!アレックス」シリーズのようなシリアスなもの、アリー・カーターの『スパイガール(I'd Tell You I Love You, But Then I'd Have to Kill You)』のような若い女性向け小説(チック・リット)と、その幅は広かった。イギリスの若手作家ベン・アルソップ(Ben Allsop)も『Sharp』(2005年)、『The Perfect Kill』(2007年)といったスパイ小説を書いた。ロバート・マカモア(Robert Muchamore)の、孤児が学校のようなところに送られ、大人の組織に潜入するための訓練を受ける『英国情報局秘密組織チェラブ』シリーズもスパイ小説のリストに加わった。
スパイを題材とする映画・テレビ・ゲーム
冷戦

1960年代はスパイ映画(Spy film)が豊作で、多くは小説の映画化だった。奇想天外な007シリーズ(1962年 - )から、白黒・リアリズムの『寒い国から帰ったスパイ』(1965年。原作ル・カレ)、クールな商業映画『さらばベルリンの灯(The Quiller Memorandum)』(1966年。原作アダム・ホール、脚本ハロルド・ピンター)と、その幅は広かった。

テレビでは、1954年にジェームズ・ボンド・シリーズの『カジノ・ロワイヤル』が『Climax!』の1編として製作された。1960年代には、『Danger Man』(『秘密指令』1960年 - 1962年、『秘密諜報員ジョン・ドレイク』1964年 - 1968年)、『0011ナポレオン・ソロ』(1964年 - 1968年)、『アイ・スパイ(I Spy)』(1965年 - 1968年)といったテレビシリーズが作られた。『それ行けスマート(Get Smart)』(1965年 - 1970年)といったパロディ・シリーズもある。『The Sandbaggers』(1978年 - 1980年)はスパイ作戦のざらざらした官僚的視点から描かれたものである。1980年になると、『冒険野郎マクガイバー』(1885年 - 1992年)や『超音速攻撃ヘリ エアーウルフ』(1984年 - 1987年)が作られたが、冷戦のスパイ活動でなく、ウォーターゲート事件ベトナム戦争後の時代の政府への疑惑に根付いていた。そのためヒーローは自立して働いているように見え(マクガイバーは非営利のシンクタンクのため、エアーウルフのホークは2人の親友と一緒に)、情報部(マクガイバーのDSX、エアーウルフのFIRM)はヒーローたちの同盟である同時に敵対者として描かれた。
冷戦後

テレビでは、『ニキータ』(1997年 - 2001年)、『エイリアス』(2001年 - 2006年)、『24 -TWENTY FOUR-』(2001年 - )、『MI-5 英国機密諜報部』(イギリスでの題名は『Spooks』。アメリカ合衆国とカナダでは『MI-5』。2002年 - )がヒットし、いくつかの作品はカルト的な人気を得た。

映画では、『ボーン・アイデンティティー』をはじめとしたジェイソン・ボーン3部作(ロバート・ラドラム原作)、トム・クルーズの『ミッション:インポッシブル』シリーズ、007シリーズの『007 カジノ・ロワイヤル』などがヒットした。興味深いことに、以前は「厳密にポップコーン(strictly-popcorn)」と評されたスパイものが、現在では批評家の賞賛を受けていることである。たとえば、スティーヴン・スピルバーグの『ミュンヘン』(2005年)はアカデミー賞5部門、ゴールデングローブ賞2部門にノミネートされ、『シリアナ』(2005年)ではジョージ・クルーニーアカデミー助演男優賞ゴールデングローブ賞 助演男優賞を受賞、ル・カレ原作の『ナイロビの蜂』ではレイチェル・ワイズアカデミー助演女優賞を受賞した。


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