現在のSUBARUが謳う「シンメトリカルAWD」の始祖(ルーツ)といえる、この水平対向エンジンを核とした、左右対称レイアウトの採用は、3,900 mmの全長に2,400 mmというロングホイールベースを採用することによる広い室内空間の確保と、フロントエンジン・前輪駆動(FF)方式の採用のためにエンジン全長を短くする必然から生まれた。
フロントエンジン・後輪駆動 (FR) 方式について百瀬は以下のように述べている。
P-1でFRをやったが、そのときに感じたのはいかにも非合理的なパワートレーンだということだ。駆動力をフロントのエンジンからプロペラシャフトでリアデフに持っていき、さらにドライブシャフトを経てタイヤに伝えるという駆動経路の長さ。しかも長いプロペラシャフトはやっかいな振動源にほかならない。人を乗せるための乗用車に採用する合理性はない。それに対してRRやFFは、部品点数が少なく、乗員のためのスペースを圧迫することのない、合理的な駆動方式だ[3]。
スバル・360でリアエンジン・後輪駆動 (RR) 方式の採用により、わずか3.0 mという全長の制約の中で大人4人が無理なく移動できる革新的なパッケージングを構築した当時の富士重工業の技術陣は、スバル・1000の開発にあたり、一転して当時まだ世界的にも採用例が少なかったFF方式の採用を決定した。もちろん、FF方式の採用には、当時の乗用車・軽自動車の一般的な駆動方式だったFRおよびRR方式では、1964年東京オリンピック以来の、大規模な全国的高速道路網の拡大の「高速時代」に、直進性、横風安定性などの操縦安定性で十分な性能が得られないという判断もあったといわれている。
こうして先に決定された室内空間・駆動方式のために、スバル・360に引き続き、エンジンに割り当てられる空間は非常に限られたものとなった。しかし、当時の富士重工業の技術陣は、1959年発売のミニのように、狭い空間の中に横置き直列エンジンの下にトランスミッションを詰め込む[注釈 2]メカニカル・パッケージではなく、より機械的損失が少なく、より小型なエンジン・トランスミッション構成を目指した。そのため、本質的に低重心で全長が短く、直列エンジンと比較して優れた回転バランスを有し、なおかつ「A-5」以来の技術的蓄積のある水平対向エンジンの採用につながった。