ストラディバリウス
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1703年のもの。

ストラディバリウスの音色の秘密については、長い間科学的調査の対象とされていた。過去に様々な調査結果があり、それぞれ賛否両論である。現代人にどのヴァイオリンを使ったか知らせずに演奏を聴かせると、ストラディバリウスより現代製ヴァイオリンを好むという回答が多かったとの研究結果もある[14]。ストラディバリウスの音色を再現したという現代の弦楽器製作者は自称・他称、複数存在するが評価は定まっていない[15]。下記にこれまでに報告されている主な知見を記載する。
ニスの秘密

かつては楽器の表面につかわれたニスがストラディバリウスの音色の鍵だとされていたが[1]、21世紀に入ってこれを否定する意見が出された[16]。複数のストラディバリウスを赤外線で分析した結果、ニスに使用されていたのは松ヤニと油だけであった。一部で推測されていたプロポリスなどの特殊な成分の配合は認められなかった。これらは18世紀の弦楽器製作者ではごく普通に使用されていたものであった。ガルネリやサロも同じ製法のニスを使っていたが、その製法は、欧州カラマツの松ヤニを煮詰めてコールタール状にし、それを常温に冷まして固化させたのちに、必要量を適時に粉砕して亜麻仁油で溶解して使用されていたとされる[1]。顔料なども使用せず、亜麻仁油の添加量と重ね塗りの回数で楽器の色合いを調節した[1]。度重なる修復により、補修者によって追加で塗られたニスが、楽器の音色を妨げているケースも多いとされ、後年になって塗られたニスを剥離してオリジナルの状態にすると、生まれ変わったように鳴り響く楽器もある[1]。ストラディバリウスの後期の作品には、松ヤニが炭化するまで煮詰めて製造した黒っぽいニスを使用した楽器も存在する[1]。一方、そのニスの使い方に工夫があるという意見もある。2021年の研究でも、ニスは当時一般的なものであり、特に特徴は無いとされている[17]
板の厚みの秘密

現代の弦楽器製作の技術は、楽器そのものに対する科学的な研究や技術開発が進んだこともあり、ストラディバリの時代の木工製作技術より優れている[18]。例えばストラディバリウスをCTスキャンにかけて、その板の厚みをデジタルデータとして三次元的に数値化し、NC制御の多軸加工機で削り出すという事まで行われた[1]。また、板を厚みではなく共鳴する周波数で各部分で均一化して、どこを叩いても同じ音で響くようにしているというのが鍵であるという意見もあり、その方法で作られた弦楽器も最近では流通している[1]。なお、ストラディバリウスより前の時代の製作者のガスパロ・ダ・サロが作った楽器も、同じように音程に従って表板と裏板を削っており、この製作概念はストラディバリウスのオリジナルではないとされる[1]
経年変化

ストラディバリウスが作られた当時の音色は再現できても、作られたあと200年経過して木質が変化したストラディバリウスの音は再現が出来ないという意見もある。その音を再現しようとすると、弦楽器製作者がストックしているような伐採後数十年程度の木材では板厚が薄くなり過ぎて、楽器としての強度が保てないというのがその理由であるが[1]、ストラディバリウスは新作楽器だった200年前でも名器とされていた事は説明できず、また制作後200年経過した楽器は、ストラディバリウス以外にも数多く存在することもストラディバリウスにおける経年変化を特別視する理由とはならない。2021年の研究でも、モダン楽器と変わらない強度でありセルロースの再結晶化も認められないとされている[17]
防腐処理

かつて王侯貴族に楽器の秘密は何かと尋ねられると、ストラディバリは「新鮮な木材をそのまま使っているからです」と答えたとされる。これを疑問に思った後世の研究者は、楽器に使用されている木材について調査を行った。その結果、木材から灰汁の成分が検出されたと報告し、木材の下処理によって硬くしているのが音色の秘密であるという報告を行っている。

2021年、ストラディヴァリウスを含むオールド楽器の木材についての研究でいくつかの化学物質が検出されたことが報告された[19][17]。この調査では、ホウ素亜鉛アルミニウムカルシウムカリウム硫黄が検出された。これらの化学物質はガルネリやアマティの楽器でも検出された[17]。またストラディバリ制作の楽器であっても検出される楽器や全く検出されない楽器もあり[17]、また検出される元素はまちまちであった[17]。テストに使用されたアマティ2本からは共にホウ酸と鉄が検出されたが、用意されたストラディバリウス(チェロやビオラを含む)にホウ酸と鉄が両方とも検出された楽器は8本中2本のみであった[17]。またガルネリからはストラディバリウスやアマティから検出されないカルシウムが強く検出された[17]。当時は虫食い被害が深刻であり、これらの薬剤は殺菌や防腐のために使用された食塩・石灰・ミョウバンに由来すると考えられている[19]。この研究者はその処理によって木材の音響的特性が影響を受けている可能性があり、これらのクレモナ製作者がそれに気が付いていたかもしれないと推論した[19]。使用された木材についても検討が行われ、今日使用されている同じ木材であることが確認された[17]。経年変化によるセルロースの結晶化が音質向上の要因であるという仮説を唱える人もいるが、この研究のX線回折ピーク解析では新作楽器の木材とストラディバリウスの木材でのセルロースの結晶化度に明らかな違いは認められなかった[17]
音色に関する実験と問題点

ブラインドテストを行うと、ストラディバリウスは1/100の値段で取引されている現代の新作楽器に劣っているという実験結果が報告されている[20][21][22]。フランス・ソルボンヌ大学の音響物理学のClaudia Fritzや弦楽器制作家のジョセフ・カーティン、ダダリオの技術開発ディレクターのファン・タオらを中心とする国際研究グループによって論文が作成されている[21][23]
インディアナポリスでの実験

最初の実験はインディアナポリスで2010年9月に開催された第8回ヴァイオリンコンクールで実施され米国科学アカデミーに発表された[21]。23人のプロ演奏家が、20台のヴァイオリンから「音色」「音の伝達性」「演奏しやすさ」「演奏への反応性」の4点について評価を行い、上位の4台を選出するテストだった[24]。テストの度に、最も悪いと感じた楽器にはマイナスポイントが与えられた[21]。しかし実際に用意されたのは新作楽器3台と2台のストラディバリウスと1台のグァルネリの合計6台で、同じ楽器を違う楽器と偽って複数回演奏させることで判断の精度を高める工夫がされた[21][24]。演奏者は溶接用のサングラスをかけて何を演奏しているか視覚的に判断できないように二重盲検査試験で実施された[21][24]。楽器の違いも感じ取れないように顎当ての下に僅かな臭いがする物体を取り付けた[21]。各楽器は貸し出されたままの状態で、一般的な弦が使用された楽器であった[21]


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