ステンレス鋼
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

1950年から2019年までの統計によれば、ステンレス鋼の全世界生産量は平均 5.8 % で増加を続けてきた[29]。近年でも、製造法の改良や開発、耐食性・強度・加工性を改良あるいは兼備した鋼種の開発、省エネや省資源化を目指した鋼種の開発などが続けられている[30]
基本金属組織と合金元素の関係

ステンレス鋼に添加される合金元素は、定義のようにクロムを必須とする。さらに、各種特性向上のためにニッケルモリブデンケイ素窒素アルミニウムなどの他の元素も添加される[31]。また、リン硫黄は場合によっては有効な含有物だが、基本的に有害な不純物元素であり、普通はこれらは製造上できるだけ取り除かれる[32]炭素は、ステンレス鋼の耐食性を落とす不純物であるが、一方で、強度向上に寄与する有用な元素でもある[33][34]。一部の種類を除いて、ステンレス鋼は0.01桁%–0.001桁%といった低い炭素含有量となるよう製造されている[35]フェライト(α)とオーステナイト(γ)の結晶格子の様子。マルテンサイト(α′)の結晶格子は α とほぼ同じで、わずかに立方体から直方体となる[36]

ステンレス鋼の金属組織をミクロに観察すると、金属組織を主に占めているの種類には、体心立方構造フェライト、体心正方構造のマルテンサイト面心立方構造オーステナイトの3つが存在する[37]。こういった合金の金属組織は、含有する化学成分の種類と濃度(組成)、加熱・冷却・一定温度保持などの材料が受けた熱履歴、および加工履歴などによって決まる[38]。フェライト、マルテンサイト、オーステナイトは結晶構造がそれぞれ異なっており、結晶構造の違いがステンレス鋼の材料特性の違いとなって現れる[39][40]。特に物理的性質と機械的性質が、金属組織の種類によって変化する[41]

フェライト、マルテンサイト、オーステナイトという3つの相は全般で存在する相だが、炭素の2つから成る単純な鋼では、オーステナイトは高温のみで現れる相であり、常温で組織がオーステナイトになることは普通はない[42][43]。常温でオーステナイトを主要な相とする鋼種があることは、ステンレス鋼の特徴の一つといえる[44]鉄・クロム系2元状態図。縦軸が温度、横軸がクロム濃度で、図中には静的に変化させたときのその温度とクロム濃度における相を示している。αがフェライト、γがオーステナイトを意味しており、左端の閉じた γ の存在領域が γ ループ。

ステンレス鋼の基礎となるのが、クロム系の状態図である[45]。2成分系合金の状態図とは、縦軸に温度を取り、横軸に2つの元素の質量比を取り、温度と質量比によって決まる熱力学的平衡状態の金属組織を示す図である[46]。鉄・クロム系2元状態図によると、クロム濃度 0 % のとき約 900–1400 °C の範囲で組織はオーステナイトとなる[47]。クロム濃度を 0 % から増やすと、オーステナイトが存在する温度域は狭くなっていき、ついにはオーステナイトは存在しなくなり、組織は融点までフェライト単相となる[47]。このように、濃度を増やすとフェライトが生成する方に寄与する元素を「フェライト生成元素」「フェライト形成元素」「フェライト安定化元素」などと呼ぶ[48]。クロムの他にも、フェライト形成元素にはモリブデンチタンニオブケイ素などがある[49]

一方、鉄・クロム系2元状態図上では、高温でクロム濃度が低い範囲まではオーステナイトが存在する。この高温域にあるオーステナイト(γ)の存在領域を「γ ループ」などと呼ぶ[50]。鉄・クロム系に炭素もわずかに加わったような場合を想定すると、γ ループより低い温度では、オーステナイトは共析反応でフェライトと炭化物へと分解される[51]。しかし、γ ループから組織を急冷した場合、組織はマルテンサイトに変わる[52]


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:623 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef