スチームパンク
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ウィリアム・ギブスンブルース・スターリングの1990年の小説『ディファレンス・エンジン』は、スチームパンクを広く知らしめた作品としてよく引き合いに出される[9][15]。この小説はギブスンとスターリングのサイバーパンクの作法を歴史改変的ヴィクトリア朝に適用したもので、エイダ・ラブレスチャールズ・バベッジが考えた階差機関(ディファレンス・エンジン)と呼ぶ蒸気機関駆動のコンピュータ[16]が実際に作られ、現実よりも1世紀以上早く情報化時代が到来した世界を描いている。ただし多くのスチームパンク作品が楽天的でユートピア的なのに対して、この作品は暗く懐疑的である。日本語訳書のアオリから引くならば「サイバーパンクの教祖と煽動者が紡ぐ記念碑的傑作」とされ、著者の一方であるスターリングは同作について「きわめてサイバーパンク的でもある」と明言している[17]。このため当初は「サイバーパンク側からのスチームパンクに対する一種の返答(カウンター)的な作品」と受け止められた。現在では「現代科学を参照した蒸気ガジェットや世界観に溢れるスチームパンク」として、スチームパンクの主要な作品と扱われることもある[18]。SF評論家の巽孝之は同作に寄せた解説[19]で「サイバーパンク史上にもスチームパンク史上にも残る」としている。

フォックスが1993年から1994年に放送したテレビドラマ The Adventures of Brisco County, Jr は1890年代を舞台とし、登場人物であるウィックワイア教授が様々なものを発明する[20]アラン・ムーアとケヴィン・オニールのグラフィックノベルシリーズ『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』(1999) (および2003年製作の映画版)もスチームパンクを広めることに大きく貢献した[21]

Nick Gevers の2008年のアンソロジー Extraordinary Engines は、このジャンルの優秀な作家や他のSF作家、ファンタジー作家がネオ・ヴィクトリア朝を舞台として書いた新たなスチームパンク作品を集めている。その序文でスチームパンクの先駆けとして、マイケル・ムアコックの The Dancer at the End of Time と A Nomad of the Time Streems、ブライアン・オールディスの Frankenstein Unbound、ハワード・ウォルドロップとスティーヴン・アトリーによる Custer's Last Jump と Black as the Pitが挙げられている[22]。同年、ジェフ・ヴァンダーミア(英語版)らによるその名もずばり Steampunk と題したアンソロジーも出版された。この両方に作品が収録されているジェイ・レイク(英語版)の代表作 Mainspring は「クロックパンク」と呼ばれることもある[23]。後者のアンソロジーには他に、スチームパンク作家とされているジェイムズ・P・ブレイロックの作品、先述したマイケル・ムアコックの作品、『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』への注釈で知られているジェス・ネヴィンズ(英語版)の作品なども収録されている。

初期のスチームパンクは歴史上の設定があることが多かったが、その後スチームパンクの要素をファンタジー世界に持ち込んだ、どの時代かも定かでない作品が見られるようになる。前者の歴史的スチームパンクは歴史改変SF的要素があり、歴史上の実在の場所や人物が登場しつつ、架空のテクノロジーが登場する。ファンタジー的スチームパンクとしては、チャイナ・ミエヴィルの『ペルディード・ストリート・ステーション』、アラン・キャンベル(英語版)の Scar Night などがあり、さらに完全なファンタジー世界で伝説のモンスターなどと蒸気機関時代などの時代錯誤的テクノロジーが共存している作品もある。

自ら "far-fetched fiction"(ありそうもないフィクション)作家を名乗るロバート・ランキン(英語版)は、スチームパンク要素を作品に取り入れるようになっている。2009年にはヴィクトリアン・スチームパンク協会のフェローに選ばれた[24]
歴史的スチームパンクスチームパンク的なバックパック2012年にドイツで開かれたスチームパンク展 "Aethercircus"トム・バンウェル(Tom Banwell)作成のスチームパンク的なマスク

一般に、歴史上のある時代を舞台とする場合、このカテゴリに含まれる。主に、産業革命が既に始まっているが電力がまだ広く普及しておらず、蒸気機関ぜんまいばねなどを駆動力とするガジェットが多く見られる。最もよくある時代設定はヴィクトリア朝エドワード朝だが、産業革命の始まったころまで「ヴィクトリアン・スチームパンク」に含むこともある。

例としては、小説『ディファレンス・エンジン』[25]、コミックの『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』、ディズニーアニメ『アトランティス 失われた帝国』、ロールプレイングゲームの Space: 1889 [6]などがある。コミックシリーズの Girl Geniusはヴィクトリア朝風の時代設定が感じられるが、独自の時代と場所を設定している[6]

カレル・ゼマンの映画『悪魔の発明』(1958年)は最初期のスチームパンク映画と言われている。ジュール・ヴェルヌの小説に基づいており、小説に描かれた(真実ではない)過去の世界を描いている[26]。日本では宮崎駿のアニメ映画『天空の城ラピュタ』(1986年)、『ハウルの動く城』(2004年)や大友克洋の『スチームボーイ』(2004年)、塚原重義の「甲鉄傳紀シリーズ」(2002年?2005年)、スクウェアのテレビゲーム『ファイナルファンタジーVI』、セガのテレビゲーム『サクラ大戦』などが代表的なスチームパンク作品とされる[2][27][28]。どの作品もスチームパンクを構成する時代錯誤的ガジェットが登場する[29][30]

歴史的スチームパンクは一般にファンタジーよりもSF的傾向が強いが、魔法などの要素を取り入れたものもある。例えばK・W・ジーターの Morlock Night では、未来からやってきたモーロックの侵略からイギリスを救うために魔法使いマーリンアーサー王を蘇らせようとする[9]ティム・パワーズの『アヌビスの門』には、19世紀初頭のロンドンの地下に住む乞食や盗人たちに混じっている魔法使いの一団が登場する。

Paul Guinan は19世紀末に作られたという架空の設定のロボット Boilerplate を作り、ウェブサイトで公開していたが、それを実在のものだと勘違いする人が続出し、世界的に報道されるに至った[31]。このサイトの内容をまとめたハードカバー Boilerplate: History’s Mechanical Marvel が2009年10月に出版された[32]


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