スズメバチ
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成虫は幼虫からの口移しにより、栄養分を摂取する。

オオスズメバチは、捕獲する昆虫が減少し、また大量の雄蜂と新女王蜂を養育しなければならない秋口には攻撃性が非常に高まり、スズメバチ類としては例外的に、集団でミツバチやキイロスズメバチといった巨大なコロニーを形成する社会性の蜂の巣を襲撃する。

オオスズメバチがニホンミツバチ (Apis cerana) の巣を襲撃した場合、集団攻撃前に蜂球によって撃退されなければ、巣を占拠出来る。この種に対抗する術をほとんど持たないセイヨウミツバチ (A. mellifera) の場合は攻防の関係は一方的で、養蜂家による庇護がなければ必ずといっていいほど全滅を余儀なくされる(数十匹ほどのオオスズメバチがいれば4万匹のセイヨウミツバチを2時間ほどで全滅させられる[13])。このことが、飼育群からの分蜂による野生化が毎年あちこちで発生しているにもかかわらず、セイヨウミツバチが日本で勢力拡大するのを防ぐ要因になっている。実際、オオスズメバチの生息しない小笠原諸島ではセイヨウミツバチの野生化群が増加し、在来のハナバチ類を圧迫して減少させていることが確認されており、これらのハナバチ類と共進化して受粉を依存している固有植物への悪影響が懸念されている。

キイロスズメバチもオオスズメバチと同様にニホンミツバチなどの巣を襲撃する。主に帰巣する個体や集団から偶然離れた個体を狙って巣の周囲を滞空飛行していることが多い。このような巣では、ニホンミツバチが巣口周辺に多数集まって警戒態勢をとり、キイロスズメバチがおよそ15cm以内に近づくと、最も近くの個体を始点として、腹部をそり上げながら翅を震わすウェーブが起こり、集団全体がブーン、ブーンという断続的な羽音をたてる。このような大集団のすぐ近くでの狩りは、キイロスズメバチにとっても大変危険なものであるため、必要以上に集団に近づかないよう非常に注意深く行動するのが観察される[要出典]。首尾よく働き蜂を捕獲出来ると、次の瞬間には獲物を抱えたまま非常な速さでその場を飛び去り、高い木の枝など、集団から十分に離れた場所まで運んでから改めて噛み砕く。逆に、ほんのわずかでも捕獲に手間取った場合には、それに気付いたニホンミツバチの集団に一斉に襲いかかられ、蜂球の内部で蒸し殺されてしまうことも多い。

クロスズメバチは生きた昆虫だけでなく、カエルやヘビ、さらには人間が食べる焼魚やゆで卵も巣に持ち帰ることが知られている[5]:160。

ニホンミツバチの巣を襲うキイロスズメバチと、防衛するニホンミツバチ

(1) 巣口周辺を飛び回るキイロスズメバチと腹部を反り上げ翅を震わせるニホンミツバチ。

(2) ニホンミツバチによる蜂球。中では2匹のキイロスズメバチが蒸されている。

(3) 約1時間後の(2)と同じ場所。蜂球は解体され、蒸し殺されたキイロスズメバチの遺骸が見えている。

天敵、捕食者および競合者

スズメバチの天敵は捕食者として人間の他に猛禽類[14]が挙げられる。またスズメバチを捕食する昆虫にオオカマキリクモ等があるが、これらの昆虫との関係については、捕食/被食双方の記録が存在する。

ただし、スズメバチが捕食されるケースは少なく、自然下においてその場面を目撃する例は稀である[注釈 2]

スズメバチが樹液に集まる際には、捕食関係ではないものの、小型の甲虫(カナブン、コクワガタ等)に対しては攻撃を行う一方で、大型の甲虫(クワガタムシ、カブトムシ、カミキリムシ等)に対しては、反撃を受け殺傷される危険もあり、スズメバチの側から接近する例は少ない。とくにカブトムシの活動が全盛となる7月?8月には、餌場を追い立てられ、好位置を独占される場面が見られた。昼間はカブトムシの脚をスズメバチが狙ってくるために、カブトムシは夜に活動を強いられたと分析された。また、大型甲虫以外にスズメバチを追い払う昆虫にオオムラサキがある。オオムラサキは樹液に集まるため、スズメバチ類と餌場争いをするが、気性の激しいオスは羽を広げてスズメバチを追い立てることが知られている。

本種に寄生する生物として菌類線虫[注釈 3]などがある。生活史を通してみると、捕食寄生者が多い昆虫には珍しい寄生虫であるネジレバネ(スズメバチネジレバネ)等がある。ネジレバネに寄生された働きバチはやや長生きして冬を越すようになり、むしろネジレバネに合わせた生活史をとるようになる[14]

幼虫の寄生者としてはカギバラバチ科のハチが挙げられる。カギバラバチは葉に卵を産み、それを蛾などの幼虫が食べ、さらにそれがスズメバチの巣に持ち帰られて幼虫のエサとなり、寄生が始まる[14]。オオハナノミ科の甲虫にもこの習性がある。

スズメバチ類の巣にはしばしばベッコウハナアブ類の幼虫が寄生し、営巣盛期には排泄物や巣の下部に廃棄された成虫や幼虫の死体を摂食している。アリもまた天敵であり、特に営巣初期で働きバチの個体数が少ないときに襲われると巣を放棄することもある。そのため、数匹の女王バチが共同で営巣を始めることもある[14]:58。

メイガの仲間(メイガ科シマメイガ亜科)のうち,ギンモンシマメイガ Pyralis regalis とモモイロシマメイガ Hypsopygia mauritialis がスズメバチの巣に寄生する。

の一種であるハチクマは、スズメバチの巣を攻撃し、巣盤を持ち帰り、幼虫とさなぎをひな鳥の餌としている[14]。ハチクマの攻撃を受けたスズメバチは、クモの子を散らすように逃げ惑い、毒針を用いた防御行動を起こさないという(ハチクマの羽毛越しには針が届かず、攻撃が効かない)。

ヒトは、スズメバチを巣ごと駆除したり、食用として幼虫やさなぎや成虫を採集する。

また、同じスズメバチ類の中でも捕食―被食の関係がある。オオスズメバチは生殖個体である雄蜂や、養育期には他のスズメバチの巣を頻繁に攻撃する。また、チャイロスズメバチはキイロスズメバチ等の初期段階のコロニーを襲撃して乗っ取る社会寄生を行う。
スズメバチの天敵
巣の外で成虫を捕食する
オオカマキリクモなど

成虫に寄生するネジレバネセンチュウなど

巣の中で幼虫や蛹に寄生したりするカギバラバチ、ベッコウハナアブ、メイガなど

生活史

性別や女王蜂、働き蜂の決定は基本的にはミツバチと同じようなものである。ハチ目の共通の性質として未受精卵はオス蜂に、受精卵はメス蜂になる。従って、女王蜂が精嚢から精子を取り出す、もしくは取り出さないによって性別を決定している。働きバチはすべて雌である。

また、女王蜂になる卵と働き蜂になる卵は同じで、幼虫時代に食べさせられた餌によって地位が決定される。

女王蜂は8-12月頃に羽化すると(種により差がある[5]:54)、終齢幼虫から栄養液を十分摂取した後に巣を離れる。雄蜂と交尾した後は一切摂食せず、朽木などに越冬室を掘り、その中で冬眠に入る。

翌年の春、冬眠から覚めた女王蜂は営巣を開始する。巣材収集や幼虫の餌の狩猟は主に働き蜂の役割であるが、働き蜂が誕生するまでは女王蜂が単独で行い、また働き蜂誕生後もある程度の規模に巣が大きくなるまでは、働き蜂らと共に巣の維持や狩猟をこなす。

働き蜂は7月頃から羽化を始め、9月から10月にかけて集団の個体数が最大になる。種や気候によっても異なるが、例えばオオスズメバチでは一つの巣で数百匹規模にまで増える。働き蜂の個体数が最大になる少し前から、次世代女王蜂候補の育成が始まる[14]:36。なお、巣の女王蜂が死ぬと働き蜂が代わりに産卵するようになるが、働き蜂は未受精なのでオスしか生まれず、オスは働き蜂にならないためコロニーは遠からず滅びる[5]:196。次世代女王蜂候補は結婚のため巣を離れるまで働かないのが基本だが、働き蜂が減少すると、働き蜂として働き始める。この場合、女王として蓄えた脂肪を消費してしまうため、オスが交尾しようとしなくなり、女王となることはなくなる[5]:208。

雄蜂は次世代女王蜂候補より少し早い9-11月頃に生まれる。雄蜂は子孫を残すためだけの存在であり、全く働かない。ただし、同じスズメバチ上科のアシナガバチの仲間では幼虫に餌を運ぶ等の行動が痕跡的にだが見られることがある。

繁殖期になると若い女王蜂候補が巣から飛び立ち、雄蜂も交尾のために一斉にその後を追う。大半は捕食されるか力尽き、交尾に成功するのはこの中のごく一部である。無事に交尾に成功したオスも間もなく死亡し短い生涯を終える。

元の女王蜂はほとんどの場合女王蜂候補の巣立ち前に死に、働き蜂と雄蜂は基本的には越冬しない。つまり、越冬するのは女王蜂候補のみである。女王蜂候補は朽木の中などで越冬する[5]:42。例外としてネジレバネの寄生した働き蜂は、労務に加担せず、越冬も行う。
巣の構造民家の梁に営巣するキイロスズメバチ雨ざらしの砂防ダム壁面に営巣した変わった例コガタスズメバチの初期巣蜂の巣と幼虫巨大化した2層建のスズメバチの巣(空き巣)

スズメバチの巣は、基本的にはアシナガバチのそれに似たものである。材料は枯れ木からかじり取った木の繊維を唾液のタンパク質などで固めたもので、一種ののようなものである。この材料を使って管を作ったものが巣の構成単位で、その中に卵を産み、幼虫が孵化し成長するにつれ部屋を拡大延長する。幼虫がさなぎになると蓋をされ、羽化して成虫が脱出すると巣の役目は終了する。

このような巣を平面的に外側へ追加して、円盤状になったものを柄をもって木の枝などからぶら下げたものがアシナガバチの巣であるが、スズメバチの場合、この巣の周りを同じ材質でできた外被と呼ばれるもので覆う[5]:52。外被は保温材としての働きの他、アリなどを防ぐ防壁としての機能がある。外被を作らないアシナガバチでは、巣の柄の部分にアリが避ける物質を塗りこれを防ぐ。このように外被のある構造なので、スズメバチの巣は出入り口が一つであり、巣の形からも他のハチと見分けることが可能である。

女王蜂が最初に作る巣には、働き蜂が誕生して大きく成長した巣には見られない特徴が見られることがしばしばある。例えばコガタスズメバチの初期巣はトックリを逆さにぶら下げたような形をしており、口の部分が出入り口になっていたり、クロスズメバチ類などでは巣の基質への付着部がねじれた三角形の板になっていて弾力で衝撃を吸収するようになっている。


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