スタン・リーによると、マーベル・メソッドは1961年にすでに一人の作画家によって確立されていた。リーは2009年に、かつて作画家スティーヴ・ディッコとともに多数制作した「5ページの短い穴埋めコミック・ストリップ」について語っている。リーはそれらが「わが社のコミックブックでページが余ったものがあれば何にでも載った」という。掲載誌は主に『アメイジング・ファンタジー』だったが、スーパーヒーロー物の隆盛以前には、『アメイジング・アドベンチャー』をはじめとするSF/ファンタジーのアンソロジー誌にも載っていた。「そのころはよくオー・ヘンリー風に結末をひねった変な空想話を思いついた。そのプロットをスティーヴに一言で説明すれば、あとは全部やってくれた。私が伝えた大ざっぱな骨格から優れた芸術作品を生みだしてくれる。私なんかが考えていたよりはるかに出来のいいものを」[12]。
コミック制作者や業界関係者の言葉によれば、マーベル・メソッドにはフルスクリプトと比べて次のような利点がある。(1) 作画家はどちらかというと視覚的に思考するので、シーンをどのように絵に落とし込むかについてはライターよりも優れていることが多い、(2) 作画家が自由に描ける[13][14]、(3) ライターにとって負担が少ない[13]。逆に欠点としては、(1) 優秀な作画家がライターとしても優秀だとは限らず、プロット作りやストーリー展開のような部分に悩む者もいる[13][15]、(2) 作画家が実質的にライターの仕事を分担しているのに、その分の報酬を得られない不公平性[15]、(3) 作画家が膨らませた部分がライターの作風と衝突する可能性などが挙げられている。
作画家とライターの役割の境界があいまいであるマーベル・メソッドは、両者の間に軋轢を生む原因にもなってきた。スタン・リーと多数の共作を行ったジャック・カービーとスティーヴ・ディッコの二人は、当時のマスコミがリーをコミックブームの立役者としてもてはやす一方で自分の貢献に十分な認知と報酬が得られていないと感じ、相次いでマーベルを去った[16]。カービーは共作におけるリーの役割が実際には小さいものだったと主張している。晩年のインタビューで1950年代末のモンスター作品について尋ねられたカービーは、プロットの構想からペンシル画原稿の作成までを独力で行い、ストーリーの説明や台詞を付けてマーベルに納入していたと語った[17]。 プロットスクリプトの変種として、ハーヴェイ・カーツマンに端を発するスタイルがある。ライターがストーリーをラフ原稿もしくはラフスケッチに起こし、そこにキャプションや台詞を書き入れておく方法である。作画家(この場合ライターを兼ねることが多い)はラフ画に肉付けしたものを原稿用紙に描き出していく。ライター兼作画家のフランク・ミラーやジェフ・スミス ECコミックスの発行者でカーツマンの著作を出していたウィリアム・ゲインズに由来するECスタイルは、カーツマン・スタイルと似ているが、ライターが詳細に書き込んだプロットを作画家に渡し、作画家が原稿上にコマ割りを行うというものである。ライターはキャプションと台詞を作り、原稿に貼り付ける。その後に作画家は貼られた文章と合うようにストーリーを絵にしていく。このように手間のかかる制約の多い方法なので、現在では一般的ではない。ECスタイルに近い方法を取っていた最後の作画家は故ジム・アパロであった[1]。
カーツマン・スタイル
ECスタイル
関連項目
絵コンテ
漫画原作者
ネーム (漫画)
脚注
注釈^ comics writer 。ほかの呼び方には comics scripter, comic book writer, comics author,[2] comic book author,[3] graphic novel writer,[4] graphic novel author[5], graphic novelist[6][7] がある。
出典^ a b c Jones, Steven Philip. "On Writing Comics,"