スイレン
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柱頭の外側には偽柱頭とよばれる突起があり、雄性期には内曲して柱頭を覆う[3][6] (下図4b)。子房は中位、心皮数の部屋に分かれている[3]。面生胎座であり、子房室の内面全体に多数の胚珠がつく[2][3] (下図4d)。果実は水中で熟し、液果状、不規則に裂開し、種子を放出する[3][2][6] (下図4e)。種子は球状から楕円形、仮種皮 (種衣) で覆われる[2][3][5][6]染色体の基本数は x = 14[5]4a. 最外輪に4枚の萼片がある (ニオイスイレン)4b. 外側の雄しべの花糸は葉状であり、柱頭は偽柱頭で覆われている (ニオイスイレン)4c. 花の中央に柱頭盤がある (Nymphaea colorata)4d. 子房室内に多数の若い種子がみられる (Nymphaea rudgeana)4e. 果実には雄しべがついていた跡がある (セイヨウスイレン)
分布・生態5. セイヨウスイレン (ドイツ)

世界中 (南北アメリカアフリカユーラシアオーストラリア) の熱帯から温帯域に分布し、湖沼や緩やかな河川などに生育している[2] (図5)。特異な環境として、Nymphaea thermarum はルワンダの温泉 (水温は約36℃) から報告されたが、自生地では土地開発によって2009年に絶滅した[2][8]

花は基本的に雌性先熟 (先に雌しべが成熟し、その後に雄しべが成熟することで自家受粉を避ける) であるが、自家受粉を行うものもいる[7]。開花時間は種によって異なり、昼間 (午前中、午後、午前から午後) に開花する種と夜間 (0時ごろまで、朝まで) に開花する種がいる[7]。花の匂いは、種によって無臭のものから強い匂いをもつものまである。特に夜間に開花する種は強い匂いを発し、主に甲虫によって花粉媒介される[7][9]。一方、昼間に開花する種は主にハチ目ハエ目に花粉媒介される[7]
人間との関わり6. クロード・モネ睡蓮フリースラントの旗(英語版)。スイレンの紋章(英語版)が使われている。

スイレンは美しい花をもつため、広く観賞用に栽培されており、またさまざまな栽培品種が作出されている[5]。スイレンは古代エジプトの昔から人間の関心を引き、装飾に用いられたり、信仰の対象ともなっていた。クロード・モネはスイレンの絵を数多く描いたことが知られている (図6)。
観賞用スイレン

観賞用のスイレンは、耐寒性の有無に基づいて温帯スイレンと熱帯スイレンに大別されることが多い[3][10][11]

温帯スイレン (温帯性スイレン[3], hardy water lilies) は耐寒性があり、地下茎が直立または横走[3][10]。葉は全縁、花は水面に浮かび、昼咲きである。主な原種としてセイヨウスイレン (Nymphaea alba) やニオイスイレン (Nymphaea odorata) があり、ヒツジグサもしばしば交配に用いられる[3]。以下に温帯スイレンの園芸品種の一部を示す[10][12]

'アーカンシェル' (Nymphaea 'Arc-En-Ciel') (下図7a)花弁は細く、淡いピンク色。開花2日目には花色がより薄くなる。葉に白やピンク色の斑が入る。

'ダーウィン' (Nymphaea 'Darwin')花弁はピンク色、基部ほど赤みが強く、枚数が多い。

'エスカボークル' (Nymphaea 'Escarboucle') (下図7b)花弁は鮮やかな赤。

'ジェイムズ・ブライドン' (Nymphaea 'James Brydon') (下図7c)花弁の幅が広く、濃いピンク色、枚数が多い。暑さにやや弱い。

'オドラータ・スルフレア' (Nymphaea 'Odorata Sulphurea') (下図7d)花弁は細長く、白色。

'ピーチ・グロウ' (Nymphaea 'Peach Glow') (下図7e)花弁はピンク色を帯びた淡いクリーム色、枚数が多い。真夏には花弁が傷みやすい。

'オールモスト・ブラック' (Nymphaea 'Almost Black')温帯スイレンと熱帯スイレンの交配種。黒いスイレンと呼ばれ、花の中心が赤黒い。
温帯スイレンの園芸品種7a. 'アーカンシェル'7b. 'エスカボークル'7c. 'ジェイムズ・ブライドン'7d. 'オドラータ・スルフレア7e. 'ピーチ・グロウ'

熱帯スイレン (熱帯性スイレン[3], tropical water lilies) は耐寒性がなく、地下茎は塊状で直立する[3][11]。葉は鋸歯があるものが多く、花は水面から抜き出て咲く。昼咲き (day blooming) の種と夜咲き (night blooming) の種がある。主な原種としてアカバナスイレン (Nymphaea rubra) や Nymphaea colorata がある[3][11]。生育に適した水温は25℃以上であり、15℃以下になると生育できないため、冬には加温するか休眠させる必要がある[11]。以下に熱帯スイレンの園芸品種の一部を示す[11][12]

'アルバート・グリーンバーグ' (Nymphaea 'Albert Greenberg') (下図8a)昼咲き性。花弁の基部がオレンジ色で、外に向かってピンク色が濃くなる。

'ミッドナイト' (Nymphaea 'Midnight') (下図8b)昼咲き性。花弁は細長く濃紫色。

'ペルシアンライラック' (Nymphaea 'Persian Lilac') (下図8c)昼咲き性。中輪、花弁はピンク色で数が多い。

'ピンク・パール' (Nymphaea 'Pink Pearl')昼咲き性。中輪、花弁は淡いピンク色。

'サザン・チャーム' (Nymphaea 'Southern Charm') (下図8d)昼咲き性。花弁は青色で基部が淡黄色。

'ティナ' (Nymphaea 'Tina')昼咲き性。花弁は明るい青紫色だが、条件によって色は変化しやすい。ムカゴができやすい。

'レッド・フレア' (Nymphaea 'Red Flare') (下図8e)夜咲き性。花弁は濃赤色。葉は濃いブロンズ色。
熱帯スイレンの園芸品種8a. 'アルバート・グリーンバーグ'8b. 'ミッドナイト'8c. 'ペルシアンライラック'8d. 'サザン・チャーム'8e. 'レッド・フレア'
日本での栽培史

スイレン属としてはヒツジグサのみが自生していた日本に、外国産スイレンの輸入が始まったのは明治時代である。アメリカ合衆国で園芸を学んだ河瀬春太郎が東京に開いた「妙華園」で30種以上を育てた。大正時代には同好会がつくられるほど愛好者が増えた。二子玉川園(東京)の一部だった「五島ローズガーデン」にもスイレン池があり、運営母体である東急電鉄鉄道駅にちなんで命名された品種(たまプラーザさぎぬま青葉台)も育成された。


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