ジャッカルの日
[Wikipedia|▼Menu]
イスラエルイツハク・ラビン首相を1995年に暗殺したイガール・アミル、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領を2005年グルジアで暗殺しようとしたウラジミール・アルチュニアンらもこの小説を愛読していた。
あらすじ

1954年に始まったアルジェリア戦争は泥沼状態に陥った。「フランスのアルジェリア」を信じて戦う現地駐留軍やフランス人入植者の末裔(コロン、またはピエ・ノワール)らは、フランスの栄光を願う右派世論を味方に付けてアルジェリア民族解放戦線(FLN)やアルジェリア人の村落を殲滅するが、当時のフランス本国は第二次世界大戦の傷も癒えぬまま第一次インドシナ戦争にも敗退した惨状にあり、また相次ぐFLNの爆弾テロや残虐になる一方の戦争で厭戦世論も広がり世論は分裂した。1958年、本国政府の弱腰に業を煮やした現地駐留軍の決起によって第四共和政は崩壊し、フランスの栄光を体現するシャルル・ド・ゴール(以下、ド・ゴール)が大統領に就任したことにより第五共和政が開始された。アルジェリアの軍人やコロンたちは、ド・ゴールが「フランス固有の国土」のための戦争に一層力を入れてくれるものと期待したが、ド・ゴールは戦費拡大による破綻寸前の財政などに鑑み9月にアルジェリアの民族自決の支持を発表した。1961年の国民投票の過半数もそれを支持し、1962年に戦争は終結してしまった。

現地軍人やコロンらは大混乱のうちにフランスに引き揚げた。彼らは戦争中に秘密軍事組織(OAS)を結成してアルジェリアでテロ活動を続けており、フランスでも政府転覆を狙ってド・ゴールへのテロ活動を行ったが、ジャン・バスティアン=ティリー(英語版)など現役のエリート軍人らによる暗殺計画はことごとく失敗し、組織の優秀な軍人達は逮捕され銃殺刑に処せられた。彼らは自分たちを愛国者であると信じ、処刑の場で兵士が自分に銃を向けることはないと自信たっぷりの態度を示したが、実際には兵士たちは迷わず命令に従って発砲し、その思惑は外れた。

フランス政府は警察や情報機関(SDECE)だけでなくコルシカマフィア(ユニオン・コルス(英語版))の協力まで取り付けてなりふり構わずOASに対抗したため、OASには政府側のスパイが浸透し、秘密だった筈のメンバーや活動もほとんど判明してしまった。フランス国外で活動していたOAS幹部のアントワーヌ・アルグーがフランス警察によって拉致・逮捕された結果、アルグーが指揮していた表の政治組織「レジスタンス全国評議会」の主要メンバーもOASの主要メンバーも相次いで国外逃亡し、残る地下組織も官憲の実行部隊により次々に壊滅させられるなど、OASの衰勢が顕著になり、支援者だった企業オーナーらもOASから離れて行った。

以後、OASの主要メンバーたちは国外で雌伏と屈辱の日々を送ることとなる。後に1968年五月革命の際、軍部がド・ゴールに協力する代償として彼らへの恩赦を取り付けた。

ここまでは史実であり、舞台背景を説明する冒頭部分に当たる。

1963年、バスティアン=ティリー中佐の処刑の報を聞いたOAS幹部たちの一部は、オーストリアの潜伏先で、今後の方向性を検討する。組織はもはや壊滅状態となり、OAS内部の動きは全て察知されてしまうため、組織外からプロの暗殺者を雇うことを決め、目的遂行に最適の人物として一人のイギリス人男性を選ぶ。その男は本名や年齢は不詳だが若々しく、狙撃の腕は超一流で、要人暗殺の依頼もビジネスとして請け負い、実績を積んでいた。OAS幹部たちと面会した彼は「ジャッカル」というコードネームで呼ばれることを望み、ド・ゴール暗殺が成功すれば治安機関にマークされて暗殺稼業を続けられなくなると主張し、当時としては法外な報酬50万ドル(前金25万ドル、成功後25万ドル)を要求した。

OASが組織を挙げてフランス各地で銀行などを襲い資金を集める間、ジャッカルは図書館でド・ゴールの資料を徹底的に調査し、一年のうちに一度だけ、ド・ゴールが絶対に群衆の前に姿を見せる日があることを発見してそれを暗殺決行日と決めた。ジャッカルはパリのいくつかの候補地から決行地点を選び、全ヨーロッパを移動しながら必要な特注の狙撃銃、偽造の身分、偽のパスポート、衣装や小道具、入出国経路などを抜かりなく用意する。

一方でOASの連続銀行襲撃や、ローマに移動し籠城して動きを全く見せないOAS幹部たちに不審な気配を感じたフランス官憲は、実行部隊を使いローマからOAS幹部のボディガードを拉致拷問に掛け、OASがド・ゴールを暗殺するために外部の殺し屋を雇ったらしいこと、その殺し屋が「ジャッカル」と呼ばれているらしいことを知る。内務大臣をはじめとするフランス各治安組織の官僚のトップ達が対策会議を開き、捜査はパリ地域圏司法警察局のルベル警視に一任された。経験豊富なルベル警視は与えられる限りの権限を与えられたが、治安組織の官僚たちに定期的な捜査報告を行うことを求められ、権力者達の政治的思惑の波をかぶりつつも、ジャッカルを追い始める。

ルベル警視は個人的な伝手も用いてジャッカルの正体を洗うべく世界中の警察に問い合わせを行ったところ、不審なイギリス人男性のチャールズ・カルスロップが捜査線に浮上する。カルスロップはどこかに出掛けていて行方が掴めないものの、イギリス警察の捜査でその容貌や暮らしぶり、使用する可能性のある偽名パスポートや盗難パスポートの名義などが判明する。イギリスからの情報を元にルベル警視はフランス全土の警察・憲兵らを指揮して不審者の入国を水際で阻止しようとするが、ジャッカルはイタリアで調達したレンタカーアルファロメオ・ジュリエッタ・スパイダーの床下シャーシ隙間に分解した銃を隠し、偽名のパスポートを用いて既に南仏から国内に侵入していた。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:29 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef