ジェレミー・コービン
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イヴェット・クーパーなどライバル候補が軒並み保守党の緊縮財政政策を暗黙に支持しており、候補者の中ではコービンだけが明確に緊縮財政に反対していたからである。

それだけではなく労働党の主流派議員が保守党の緊縮財政政策に追随していたのである。クルーグマンはこの現象を労働党の知的倫理的崩壊だとし、労働党の主流派を批判する[14]
労働党の路線

労働党が支持者を失望させたのはミリバンドが初めてではない。1990年代後半に労働党の党首トニー・ブレアが首相になって以来、労働党の党員は激減した。党員は1997年には405000人いたが、ブレアが首相を退任する2007年には177000人まで落ち込んだ[15]。10年で党員が半分未満になったのである(その後若干回復し、2013年には19万人である)。ブレアの時代に労働党の政策は欧州大陸寄りであった。金融政策に関してもドイツと同じ為替レートにすれば英国経済が打撃をうけることはポンド危機で十分示されたにもかかわらず、ブレアの立ち位置は親ユーロだった。

それでは労働党が親EUかというとそうではない。元々は労働党は欧州懐疑主義政党だった。コービンも欧州懐疑派であった。[15]。「欧州連合は企業側の利益を優先しすぎる。それはTTIP交渉が秘密裏に行われていることからもわかる。TTIPは我々の環境・消費者安全基準や労働者の権利にとって大きな脅威となるだろう。」とコービンは述べた[15]

コービンは1975年の国民投票でもEEC残留に反対票を投じた。そして近年のギリシャ危機についても、「もし欧州全体がギリシャ国民をねじ伏せたようなやり方で各EU加盟国を扱うような残酷な機関となるようなら、欧州は人々からの多くのサポートを失うだろうと思う。」とコービンは述べている[16]
EU離脱の是非を問う国民投票

コービンは2016年6月に行われる英国のEU離脱の是非を問う国民投票ではEU残留のキャンペーンを張った[17]。労働党所属の国会議員の多数がEU残留を望んでいる党内事情に配慮しているからだと思われる。

だが欧州懐疑論者であるコービンの本心はEU残留ではないとされる。1975年のEEC残留を問う国民投票でもEEC離脱に票を投じた。1993年のマーストリヒト条約発効に先立ち、国家経済から独立したECBの採る政策は物価の安定だけであり、労働党が実現させたい社会的な目標を下げ、そしてEUは「銀行家達の欧州」となりアメリカ合衆国のような民主的な方向には行かないだろうと予言していた[18]

とはいえコービンはEU離脱でもなければ残留でもなく、ただEUに関心を持っていないだけだとも言われている[17]。トニー・ブレアの大量移民政策によって東欧から移民が職・住居・教育を求めて英国に流入し、英国の低所得者層がそれら移民との競争を強いられたことや、そして移民の流入で非熟練労働者の賃金に低下圧力がかかり暮らし向きが悪くなり、長年の労働党支持者が労働党を離れたことをコービンはよく理解している。よって、もしコービンが彼自身の信念を貫き労働者階級を代弁するなら、今すぐにEU離脱のキャンペーンを張っているだろうからである[17]

それでもコービンの言動は有権者に影響を与えている。Ipsos MORIの調査でも回答者のうち約27%がコービンが有権者の投票行動に影響を与える主要人物としており、首相デーヴィッド・キャメロンの44%やロンドン市長ボリス・ジョンソンの32%、財務大臣ジョージ・オズボーンの28%には及ばないが、野党内では最大の影響力である[19]

そのキャメロンとオズボーンは共にEU残留派であり、彼らは離脱による経済的なリスクを強調する[20]。そのオズボーンによる緊縮財政とりわけ障害者の公的手当ての削減は与野党から激しい反発を招いており、閣僚であるイアン・ダンカン・スミスが抗議のために辞任した。コービンをはじめ労働党もオズボーンを激しく非難している。(EU残留には実質的に関心が無いかあるいは暗黙のEU離脱派である)コービンがEU残留側のリーダー格を攻撃することで、コービンは意図せずしてEU離脱側に掩護射撃をしているのではないかとする推測もある[20]

2019年2月22日、コービンは労働党が政権を奪取した場合に関して、EU離脱協定案の再交渉・国民投票の再実施を党内で検討していると発言した。これ以前に、党ナンバー2のジョン・マクドネル影の財務相は、労働党が国民投票再実施に向け動いていること、再実施が現実のものとなった場合自身は残留に投票するつもりであることを明らかにしていた[21]。更に、7月10日にはEU離脱に関して再度の国民投票を要求し、国民投票に際しては残留を主張すると表明した。

労働党は党内に残留派と離脱派の双方を抱えており、そのことが原因で5月の英地方選や欧州議会選挙でEU離脱に対して明確な姿勢を示さなかった。そのため、EU残留を支持する緑の党自民党に票が流れてしまっていた。しかも、労働党の支持母体である労働組合が再度の国民投票実施に賛成を表明したため(これまで労働党の支持者には離脱派が多いとみられていた)、コービンは方針を転換し国民投票の再実施とEU残留を受け入れたとみられる[22][23][24][25]


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