録音する音楽の場合ではシンセサイザー奏者はほとんど鍵盤を演奏せずスタジオ・ミキサー、アレンジャー、シーケンサーに演奏データを入力するプログラマーとそれほど変らない創作作業になる場合もある。 録音する音楽については2000年以降になって、パーソナル・コンピュータにソフトウェアをインストールすることで録音スタジオの環境をコンピュータの中に仮想的に再現した本格的な"DTM(デスクトップ・ミュージック)"が登場し始めた。このDTMでもソフトウェア化されたシンセサイザーを演奏したり音色を調整したりできるが、DTMは主に作曲作業と作曲した音楽の再生に用いるためか、DTMを用いてライブ演奏したとしてもその演奏者を「DTM奏者」などと呼ぶことはされない。ライブ演奏の中でDTMにあらかじめ入力したデータを使いながらシンセサイザーを演奏する演奏者ならシンセサイザー奏者と呼ぶが、他方、DTMとシンセサイザーをライブ演奏の音楽の中でふんだんに使っているのにもかかわらずシンセサイザー奏者と呼ばれない演奏者もいる。 "DJ(ディージェイ)"と呼ばれる演奏者たちがそうだ。かつてレコード盤に記録された音楽を再生するために語りなどで曲間を繋いで進行していったDJと同じ意味である。つまりレコード盤からCD、DTMに媒体が変ったとはいえ、記録された音楽を再生することでは同じ面を持つと言える。しかしかつてのDJと違い今日のDJはシンセサイザーやサンプリング・マシン
DJ(ディージェイ)との違い
今日ではシンセサイザーを「楽器」として認識することが一般的であり、そのことを踏まえてシンセサイザーを縦横無尽に駆使して演奏する者を「シンセサイザー奏者」と呼ぶことが相応しいとする認識が一般的であると考えられる。 縦横無尽にシンセサイザーを駆使して演奏するシンセサイザー奏者は、シンセサイザーの音色をいくつも重ねて音を奏でるために楽曲全体を作曲するということも珍しくない。ここに作曲家と類似してくる面もあるが、シンセサイザー奏者が作曲家と異なるのは、作曲家はイメージした楽曲を譜面上に書き留めて記録し控えるのに対し、シンセサイザー奏者はイメージした楽曲をシンセサイザーを利用して音響的に具現化
作曲家との違い
作曲家は各楽器奏者や楽器ごとの演奏上の個性(楽器に特有の演奏法や演奏者ごとに表現される音の違い)を考慮して作曲するが、最初に楽曲を思い描いた通りの譜面に変更を迫られるなどして、必ずしも最初の楽曲のイメージと同じにはならない場合もある。使う楽器によって音域も限定されたり、譜面に記された演奏がどうしても無理な奏法になる場合があるからだ。シンセサイザー奏者が行う作曲では楽器の個性や演奏法の問題をめぐる作曲の変更はまず生じない。
ただし作曲する楽曲がシンセサイザー以外の楽器(例えばギターなど)の鳴り響きを克明に再現して演奏する目的が明確な場合には、作曲家が考慮するのと同じくその楽器特有の演奏法と表現される音を考慮して作曲し演奏する必要が生じる。 シンセサイザーが持つ機能の一部分を取り出してその部分を作業する人を「シンセサイザー奏者」とは呼ばない。シンセサイザーを使った演奏表現に重点を置いているのがシンセサイザー奏者である。それ以外の者、例えば演奏表現する立場から離れてシンセサイザーの音響的調整や音楽データの入力の作業を専門とする技術者は「シンセサイザー・プログラマー」と呼ばれ、シンセサイザーの音色創りを専門とする者は「サウンド・デザイナー」や「サウンド・プログラマー」と呼ばれる。彼らはハイテク時代の「楽器職人」や「調律士」とも言えるだろう。 シンセサイザー奏者が使う電子楽器は鍵盤部分が付属する電子楽器に留まらない。ドラムを演奏する「ドラムマシン」や鍵盤部分がない本体だけのシンセサイザーもある。ドラムマシンは本体パネルの上面にある平たいボタンの様な形状の「パッド」と呼ばれるスイッチを叩くことで様々な打楽器音を発音させる。MIDIと呼ばれる演奏用の信号を通じて鍵盤での操作でも打楽器音を発音させることができる。 鍵盤部分がない本体だけのシンセサイザーは、ラックと呼ばれる箱状のケースに入れて使うタイプのものや床やテーブル、キーボード・スタンドに本体を置いて使うタイプのものがある。これらは直接本体を触って音階を演奏するのではなく、外部のコンピュータやキーボード状のコントローラーなどとの間にMIDIケーブルをつないで演奏する様に設計されたシンセサイザーである。その他、音をあらかじめ録音して音程や音質を変えて発音させるサンプリング・マシンもある。 さらに以下に挙げるものは電子楽器ではないが楽曲創りをする上での作業を補佐するツールとして、残響音を加えるリバーブ、反射音を作り出すエコーマシン シンセサイザー、サンプリング・マシン、ドラムマシンのいずれも機種によってそれぞれ出力される音の厚みや音色にクセや特徴がある。電子楽器の世界でも際立った特徴を持つ、いわゆる「味」のある音が出せる機種は「名機
技術者との違い
シンセサイザー奏者が使う電子楽器の種類
例えばミニ・モーグ"MINIMOOG"の様に太い音が得意のシンセサイザーもあれば、"ヤマハ DX7"の様に澄んだ音が得意のシンセサイザーもある。ドラムマシンやサンプリング・マシンは黎明期の機材ではデジタル録音される音の品質(ビット)が低いために、発音される音がざらついて出てくるものもある。黎明期の機材が出力する品質の低い音も後の時代になってLo-Fiな特徴を持つ音として活用される事がある。また電子楽器では一度に発音する発音数が限られている場合もある。古い機種では1音しか出ない「モノフォック」と呼ばれるタイプのものも珍しくない。和音が演奏できる「ポリフォニック」と呼ばれるタイプのものでも4音、8音、16音など機種によってそれぞれ発音数に上限がある。
シンセサイザー奏者たちはそれら最新機種からビンテージ機種に至るまで、それぞれのシンセサイザーの特徴を知っているものであり、創作する楽曲に見合ったシンセサイザーを選び出す能力とそれらを使いこなす技能を持っている。
そうしたそれぞれの機種に内在する技術的な制限を悪材料と見るのではなく逆にうまく利用したり、制限の壁を乗り越える新たな方法を生み出すなどして豊かな音楽表現を果たすための知恵と工夫に富んでいるのがどのシンセサイザー奏者の能力にも共通する特徴と言える。
シンセサイザー奏者が行う音楽表現のための作業は多面的であるためにその定義はいまだ明確には定まっていないが、以上に述べたことから「シンセサイザー奏者」とは、(1)「楽曲や演奏を通した表現を重点に置いていること」、(2)「その表現媒体としてシンセサイザーを中心的に使っていること」、(3)「その上で設定や操作などの技術的な手法によって音響的(サウンド)表現を果たすことができること」がシンセサイザー奏者であるかどうかの分け目と見ることができ、それを「シンセサイザー奏者」の定義とすることができるだろう。
以下に挙げるアーティストは上に述べた技能・技術面から見ても「シンセサイザー奏者」と呼ぶに相応しいだろう。
主なシンセサイザー奏者
海外のアーティスト
カシーフ
リック・ライト(ピンク・フロイド)
エドガー・フローゼ(タンジェリン・ドリーム)
ブライアン・イーノ
トニー・バンクス(ジェネシス)
キース・エマーソン
ジョー・ザヴィヌル
マイク・オールドフィールド
ウェンディ・カーロス(ウォルター・カーロス)
ラルフ・ヒュッター&フローリアン・シュナイダー(クラフトワーク)
ヴァンゲリス
ジャン・ミッシェル・ジャール
クラウス・シュルツェ
ブライアン・トランソー
ツォーマス・ホロパイネン(ナイトウィッシュ)