そこでフーリエが提案したのは「アソシアシオン」の創造(フーリエの用語で言えば「ファランジュ」)であった。その協同体は国家の支配を受けず、土地や生産手段は共有とした上で、1800人程度を単位として数百家族がひとつの協同体で共同生活をする。基本的に生活に必要なものは自給自足とする。また、労働活動を集約することで労働時間を短縮する。といった提案であった。このようなファランジュの中心には、その建物だけでも自生自立しうる「ファランステール(英語版)」という集合機能と集住機能をもったパビリオンが設定された。そこまでは後の社会主義・共産主義思想に類型が認められるが、フーリエ独自の観点としてさらに「自然的欲望の肯定」と女性の権利の尊重[7]が認められる。 カール・マルクス、あるいはその継承者によって「空想的社会主義」と片付けられ歴史の記憶に忘れ去られようとしていたところで、フランスのシュールレアリスム系の文学者や、20世紀以降の哲学者、思想家によって再発見・再評価された。例を挙げると、思想家ではロラン・バルト、ヴァルター・ベンヤミン(パサージュ論)、ピエール・クロソウスキー、ジル・ドゥルーズ、文学者ではアンドレ・ブルトン、オクタビオ・パスなどがフーリエの文章と思想から影響を受け、あるいは賞賛した。 ちなみに、フリードリヒ・エンゲルスは自らの著作などでフーリエを「偉大な批評家」として大きく評価しており、「科学的社会主義」を標榜したマルクス・エンゲルスによってフーリエの思想が「空想的社会主義として片付けられた」という意見は、一部誤解を含むことになる。 膨大な著作のうち、現在、日本において邦訳出版されているシャルル・フーリエの著作は以下の作品である。
評価
邦訳著作
『産業の新世界』、福島知己訳、作品社、2022年
『愛の新世界』、福島知己訳、作品社、2006年、増補新版2013年。
『四運動の理論〈上〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、古典文庫、2002年。
『四運動の理論〈下〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、古典文庫、2002年。
「産業的協同社会的新世界」、田中正人訳、『世界の名著 <続8>』、中央公論社、1975年。
参考文献
シモーヌ・ドゥブー、『フーリエのユートピア』、今村仁司監訳、平凡社、1993年。
ジョナサン・ビーチャー、『シャルル・フーリエ伝―幻視者とその世界』、福島知己訳、作品社、2001年。
H・ベッカー、『フーリエとブルトン―ドイツにおけるシュルレアリスム研究序説』、酒井昌美訳、啓文社、1993年。
石井洋二郎、『科学から空想へ』、藤原書店、2009年。
ジャン・ルフラン、『十九世紀フランス哲学』、川口茂雄監訳、長谷川琢哉・根無一行訳、白水社文庫クセジュ、2014年。
カール・J. ガーネリ、『共同体主義―フーリエ主義とアメリカ』、宇賀博訳、恒星社厚生閣、1989年。
ロラン・バルト、『サド、フーリエ、ロヨラ』、篠田浩一郎訳、みすず書房、1990年、新版2002年。
脚注^ シャルル・フーリエ、『四運動の理論〈上〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、古典文庫、2002年、11頁。
^ 同上、同頁
^ シャルル・フーリエ、『四運動の理論〈下〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、古典文庫、2002年、155頁。
^ シャルル・フーリエ、『四運動の理論〈上〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、2002年、62頁。
^ シャルル・フーリエ、『四運動の理論〈上〉』、巖谷國士訳、現代思潮新社、古典文庫、2002年、13頁。
^ 同上、同頁。
^ シャルル・フーリエ、『愛の新世界』、なおフーリエは「フェミニスム」という言葉を史上初めて用いた人物とされている。