シャチ
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しかし、第二次世界大戦の終了後から1960年代にかけて日本列島の各地[注釈 27][33][34][35][36]で1,600頭以上が捕獲されたため、現在の生息数と分布はこれらの捕獲以前よりは大きく制限されていると思われる[5]知床半島では、白変個体の記録もふくめてホエールウォッチングが可能なレベルにまで急増しているが、この背景には個体数の回復が一因として考えられる[37]
生態ブリーチングするシャチ

シャチは、魚類全般、サメだけでなく、自分の倍以上の大きさであるヒゲクジラ亜目のうち最大のシロナガスクジラを含むクジラなどを群れで襲って食べる。寿命が長く、年長のメスを中心とする母系社会を形成する社会性を持つ動物[38]

非常に活発な動物であり、ブリーチング[注釈 28]、スパイホッピング[注釈 29]など、多彩な行動が水上でも観察されている。また泳ぐ速さは時速50q以上に及び、バンドウイルカと並んで、最も速く泳ぐことができる哺乳類の一つである。餌を求めて1日に100キロメートル以上も移動することが知られている。また、好奇心も旺盛で、興味を持ったものには近寄って確かめる習性もある。

他のハクジラと同様、2つの種類の音を使い分けていることが知られている。1つはコールと呼ばれ、群れのメンバー同士のコミュニケーションに使用される。もう1つはクリック音と呼ばれ、噴気孔の奥にある溝から、メロンと呼ばれる脂肪で凝縮して発射する音波である。この音波は物質に当たるまで水中を移動するため、シャチはその反響音を下顎の骨から感じ取ることで、前方に何があるか判断することができる。この能力をエコーロケーション(反響定位)と呼ぶ。クリック音の性能は高く、わずか数ミリメートルしか離れていない2本の糸を認識したり、反響音の波形の違いから物質の成分、果ては内容物まで認識したりすることが可能だという。

オスの平均寿命は30歳、最高寿命は約50歳で、メスの平均寿命は50歳、最高寿命は80歳あまりである。世界最高齢のシャチ「グラニー」は105歳まで生存したとされている。

野生のシャチの死因についての調査が少ないが、幼い個体は感染症と栄養不良、若いものや成体の場合は細菌感染症を含む病気、鈍的外傷が報告されている[39][40]。この報告では、全年齢での最大の死因は、人間が関係するものが多く、釣り針の飲み込み、漁網に絡む、漁船との衝突などであった。
食性骨格標本

肉食性で、知能が非常に高い。海洋系での食物連鎖の頂点に立つ。武器を使うヒトを例外にすると自然界での天敵は存在しない。ただし弱った個体や体の小さな個体がサメや他の大型のクジラに攻撃されたり、シャチの体内から別のシャチが発見されたりしたこともある(共食い)。利益にならない戦闘は避ける傾向もあり、特に人間を襲うことは少ないと考えられている。一方で、遊び目的で虐殺するなどの行為も見られることもあり、アザラシオタリアを襲うとき、海面上に放り投げ必要以上の苦痛を与えることがある。目的ははっきりしたことは未だわかっていない。

各タイプのメインの獲物だけでなく、小さいものでは魚、イカ海鳥ペンギン、比較的大きなものではオタリア、アザラシ、イルカホッキョクグマ、時にはクジラやサメなど、捕食する動物は多岐にわたるとされる。一部を別種とする学説すらあることからわかるように、1頭のシャチが様々な種類の動物を捕食するというより、個体ごとに様々な好みを持った生物であると理解した方が現実に近い。個体ごとに見れば、どちらかといえば偏食な動物である。ヒゲクジラ類では、比較的小さいミンククジラコククジラの幼獣をよく狙い、まれに未成熟のザトウクジラシロナガスクジラなども狙う。ヒゲクジラ類はシャチよりも体が遥かに大きく、幼獣には大抵は母クジラが側にいて守ろうとするため、シャチにとっても手強い獲物となる[41]。また、マッコウクジラヒゲクジラ類の成獣は身体が大きく力も強いため、シャチ自身が致命傷を負いかねない[42]こともあり襲撃の頻度は大きく下がる。2023年には、合計30頭のシャチが2頭の成熟したコククジラを約6時間にわたって攻撃しつづけたが、結局は捕食に失敗した観察例が記録されている[43]。他にも鯨種が対抗手段を見せる事例もあり、ザトウクジラがシャチを攻撃して他の種類の鯨類や鰭脚類マンボウなどを助けたり[44][45][46]、シャチの群れに襲撃されたマッコウクジラの雌と子供の群れを近くにいた未成熟の雄のマッコウクジラが襲撃場面に乱入・救助して共に脱出したり[47]ミナミセミクジラやマッコウクジラによる(シャチへの対策として)集団で円陣を組む行動が確認されたり[48]ヒレナガゴンドウコビレゴンドウはシャチの声を察知すると集団でシャチの群れを追跡して追い回し、シャチの群れがその海域から退散する[49][50]

氷の下からの奇襲、群れでの協力、挟み撃ちなど、高度な狩りの技術を持つ。前述のクリック音を通常より凝縮させて獲物に当てて麻痺させ、捕食しやすくする行動も知られている。また、アルゼンチンのバルデス半島においては、海中から浜辺へ突進し這い上がり、浜辺にいるアシカやオタリアなどを捕食する「オルカアタック」と呼ばれる行動がみられる。水面下を遊泳していた3メートルほどのサメを真下から攻撃して一撃で仕留めた例を、海洋学者のジャック=イヴ・クストーの海洋探査船が報告している。サメやエイを捕食する場合、獲物の身体をひっくり返し擬死状態にすることで抵抗出来なくしてから食べる[51]軟骨魚類特有の性質を用いた有効な狩猟方法だが、エイの尾にある猛毒によって致命傷を負うこともある。口に入れた魚を吐き出してカモメをおびき寄せ、集まってきたカモメを食した例も報告されている。また、氷上にいたアザラシに対し、群れで氷の下を何度も通過し、大きな波を起こして海中に落としてから捕食した事例も報告されている。クジラの幼獣を襲う際は、幼獣の上から繰り返し圧し掛かって呼吸を妨害し、窒息させて仕留めることが多い。だがその際、前述の通り母クジラが幼獣を守ろうとするため、場合によっては仕留めるのに何時間もかかるうえ、失敗することも多い。好物はクジラの舌、口付近であり、他の多くの部分は放置されるが、しばしばシャチがクジラの死体のある場所に訪れて死体を食べることがある[52]
人への危害「ティリクム (シャチ)」も参照

シャチは高い知能を持つ動物であり、確実にとは言えないが無駄な狩りを行わないので、好奇心があり、じゃれようとした際にけがをさせたという例が多い。

シャチが、仲間に危害を加えた人間に報復したと見られるケースは報告されている。また、サーファーが足を噛まれた例があるが、これもじゃれたり、シャチ特有の好奇心の強さによるアプローチだったりとされ、捕食目的とは違うと見られる。ただし、もしシャチが現実に人間を捕食目的で襲ったとすれば、歯と顎の大きさからひとたまりもなく捕食される。また、水族館で飼育されているシャチがステージ上にいた飼育員を水中に引きずり込み溺死させる事件も起こっている[53]。この事例の個体は過去にも飼育員と客を死なせており、三人目の犠牲者であった[54]

これまでにシャチが意図的に人を食い殺したというはっきりした事例は知られていないが、その巨体ゆえにじゃれる程度でも場合によっては被害に遭う可能性もあり、安全とは言いがたい部分もあるので、触れる場合にも細心の注意をするに越したことはない。これはシャチに限らず、大型の動物類すべてに言えることでもある。

また、経済面では漁業被害も発生しており、日本の北海道では漁獲対象の魚を食べられたり、漁網を破られたりした事例が報告されている[55]道東釧路町では、シャチが漁網ごと魚を食いちぎる動画を地元漁業者が撮影し、被害の深刻さを訴えている。これも動物が生活をして行く上では欠かせない食事という行為であり、人間のルールを野生の動物に適応させるのはほとんど無理であるため、難しい問題である。

捕鯨が広く行われていた時代には、仕留めたクジラ(鯨)を食いにやって来たシャチによる食害もあり、ノルウェーなどの日本以外の捕鯨国では、シャチ撃退用にライフルマンを雇っていたこともあったほどであった。
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