シナ・チベット語族
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したがって、ベネディクトによる音節頭子音の再構は以下のようになる[31]

TBチベット語チンポー語ビルマ語ガロ語ミゾ語スゴ・カレン語上古中国語[注釈 3]
*kk(h)k(h) ~ gk(h)k(h) ~ gk(h)k(h) ~ h*k(h)
*ggg ~ k(h)kg ~ k(h)kk(h) ~ h*gh
*??????y*?
*tt(h)t(h) ~ dt(h)t(h) ~ dt(h)t(h)*t(h)
*ddd ~ t(h)td ~ t(h)td*dh
*nnnnnnn*n ~ *?
*pp(h)p(h) ~ bp(h)p(h) ~ bp(h)p(h)*p(h)
*bbb ~ p(h)pb ~ p(h)pb*bh
*mmmmmmm*m
*tsts(h)ts ~ dzts(h)s ~ t?(h)ss(h)*ts(h)
*dzdzdz ~ ts ~ ?tst?(h)fs(h)?
*ssssththθ*s
*zzz ~ ?ssfθ?
*rrrrrrγ*l
*lllllll*l
*hh?h?hh*x
*w?wwwww*gjw
*yyyyt? ~ d?zy*dj ~ *zj

同系語の音節頭子音は同一の調音位置調音方法を持つ傾向があるが、無声・有声および無気・帯気の別はしばしば予想できない[32]。この不規則性はロイ・アンドリュー・ミラーの攻撃するところになった[33]。一方ベネディクト説の支持者はこの問題を接頭辞が脱落したことに求めた[34]。この問題は現在にいたるも解決していない[32]。現在もシナ・チベット語族の存在を認めない数少ない学者のひとりであるクリストファー・ベックウィズは、この問題と、共通シナ・チベット語の形態論が再構できないこと、多くの共通語彙が中国語からチベット・ビルマ語族への借用語であることを論拠としてあげている[35][36]
文献の研究竹簡に書かれた古代中国語の文書

上古中国語はシナ・チベット語の中でとびぬけて古い記録を持つ言語である。甲骨文は紀元前1200年にさかのぼり、紀元前1千年紀に書かれた大量の文献が残っているが、漢字は音素文字ではない。学者は中古音や漢字の声符、詩の押韻などから上古音を再構しようとしている。ベネディクトとシェーファーは最初期の再構であるベルンハルド・カールグレンの『Grammata Serica Recensa』の音を使用している。しかしカールグレンの上古音は多くの音が不揃いな分布をなしており、扱いづらい[37]。最近の学者は他の根拠を利用してカールグレンの上古音を改訂している。それらの提案のいくつかはシナ・チベット語族の同系語にもとづいているが、あるものは中国語内部に支持する根拠が存在する[38]。たとえば最近の上古音の再構ではカールグレンの15の母音から6母音体系に変更している。この体系ははじめニコラス・ボドマンがチベット語との比較をもとに考案したものである[39]。同様に、カールグレンの *l は *r に変更され、別な子音が *l と解釈されるようになった。これはチベット・ビルマ語との同系語のほかに外国語の借音表記からも支持される[40]。中国語が本来非声調言語であり、中古音の声調は音節末子音から発達したという考えを支持する学者が増えつつある。そのような音節末子音のうち、去声の来源となった *-s の一部は、シナ・チベット祖語から継承された接尾辞と考えられている[41]。上古音 *-s の機能は多岐に渡り、

・名詞化 (例: 中古音「高」kaw "高い" > kawH "高さ", チベット語 za "食べる" > zas "食べ物")

使役 (例: 中古音「買」m?X >「賣」m?H, リンブー語 ha?p "泣く" > ha?ps "泣かせる")

適用態 (例: 中古音「渇」khat >「?」khajH, リンブー語 ha?pt "?のために泣く")

...などが挙げられる[42]トゥルファン出土の古代チベット語文書

チベット語は、7世紀なかばの吐蕃時代以来広く文字に書かれている。ビルマ語の初期の記録(12世紀のミャゼディ碑文など)はより限定的であるが、後には広く文献が発達した。チベット語とビルマ語はともに古代インドのブラーフミー文字に由来する音素文字で記録されている。比較の作業はこれらの言語の保守的な文語を利用して行われる。チベット語についてはハインリヒ・アウグスト・イェシュケの辞書、ビルマ語についてはアドニラム・ジャドソンの辞書が使われる。ただしどちらの辞書も異なる時代の語彙を含む[43]

西夏(1038-1227)の言語である西夏語も多くの文献が残っている。西夏語は漢字に着想を得た表語文字で記されており、多言語辞書が存在するものの、その解釈にはさまざまな困難がある[44]

?煌城は古代中国語、チベット語、ビルマ語、西夏語を比較してその音対応規則を確立しようとした[29][45]。?はチベット語やビルマ語の /a/ が古代中国語の *a と *? の2つの母音に対応することを見出した[46]。このことは中国語がチベット・ビルマ語とは異なる語派に属する証拠と考えられてきたが、Hill (2014a) はビルマ語でも *-aj (> -ay) と *-?j (> -i) が区別されることを発見し、したがって *? > *a の変化はチベット語とビルマ語で独立に起きたと考えるべきだと主張している[47]
フィールドワーク

シェーファーとベネディクトが使用した無文字言語の記述は、多くが宣教師や植民地政府の統治者によって記録されたものであり、言語学的にみた正確さに問題がある[48][49]。小さなシナ・チベット語族の言語の大部分は近づきがたい山間地で話されており、その多くは政治的・軍事的に敏感な地域であって、調査が禁じられている。1980年代まで、もっともよく調査されていた地域はネパールと北部タイであった[50]。1980年代から1990年代にかけて、ヒマラヤと中国南西部の新しい調査が公刊された。中でも特に興味深いのは、この時期以降、数多くの文献が出版されるようになったチアン語群四川省などで話される)の「発見」である[51][52]
系統

シナ・チベット語族とされる言語グループの系統は、諸説あるが、下記の通り列挙する。
シナ語派

シナ語派 (Sinitic)

中国諸語

官話 (Mandarin)

東北官話

北京官話(北京語)

標準中国語

普通話

台湾国語


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