同時代に匿名で発表された戯曲で、後年になってからシェイクスピアのものではないかという学説が唱えられることとなった作品もいくつか存在する。これらの説はいずれも根拠に乏しく、眉唾物であることには注意が必要である。シェイクスピアの失われた傑作を発見するということはシェイクスピア愛好家にとっては見果てぬ夢であるために提唱された説だが、こうした新説の多くが「この作品には“シェイクスピアの文体”が現れている」と主張しており、シェイクスピアの文体とはいかなるものであるかという議論の余地のある見解をもっぱらその根拠としているためである。それにもかかわらず、これらの異説の中にはそれなりの説得力があったため主流派の研究者にも(控え目ながら)受け入れられたものもある。
フェヴァーシャムのアーデン (Arden of Faversham)
この戯曲は1592年に匿名で出版され、1770年に再刊されたさいにシェイクスピアの名が冠された。しかし、その文体や主題はシェイクスピアの正典とはかけはなれているため、この見解を支持する学者が極めて少ない。一般にはトマス・キッド(Thomas Kyd