サブプライム住宅ローン危機
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政策立案者は投資銀行ヘッジファンドといった金融機関(いわゆるシャドーバンキングシステム(en))が果たすようになった役割の重要さを認識していなかった。一部の専門家はこれらの機関は米国経済への信用供与という点から見て商業(貯蓄)銀行にも匹敵する重要さを持つに至ったと信じているが、商業銀行のような法規制下にはない[13]。これらの投資銀行やヘッジファンド等、および一部の正規の銀行は、上述したようなローンの原資とするために自らも莫大な資金を借り入れており、発生した大量の債務不履行や不動産担保証券による損失を吸収できるほどの財務的な余力が無かった[14]。これらの損失は金融機関の融資能力を直撃し、経済活動を鈍化させた。中核的な金融機関の安定性が疑われたことから中央銀行も対応を迫られ、融資の促進と企業の重要な資金調達源であるコマーシャルペーパー市場の信頼回復のために資金を供与した。各国政府はまた更なる財政的な介入として中核的な金融機関に公的資金注入をも行った。

住宅市場の落ち込みとそれに続いた金融市場の危機によって経済全般がリスクに晒され、これは世界中の中央銀行による政策金利の引き下げや政府による景気刺激策の発動を呼んだ主たる要因となった。この危機が世界の証券市場に及ぼした影響は劇的である。2008年1月1日から10月11日にかけて、米国企業の株主は8兆ドルの損失を蒙り、時価総額は20兆ドルから12兆ドルに減少した。他国での損失は平均約40%である[15]。証券市場における損失と住宅価格の下落は、経済の牽引役である消費を一層押し下げる圧力となる[16]先進国発展途上国の指導者は、この危機への対抗戦略を見出すために2008年11月と2009年3月に会合を持った[17]。危機を生んだ根本原因の多くは未だ解決されていない。様々な解決策(en)が政府、中央銀行経済学者、および実業家から提案されてきた[18][19][20]
住宅ローン市場米国で差し押さえ対象となった住宅の四半期当り件数(2007年?2009年)

サブプライム層の借り手は典型的には信用履歴と弁済能力に問題がある。サブプライムローンはプライム層顧客へのローンに比べて債務不履行に陥るリスクが高い[21]。もし借り手が期限までに弁済を履行できなければ、貸し手(銀行その他の金融企業)は物件の所有権を得ることができ、この手続きを差し押さえと呼ぶ。

米国におけるサブプライム住宅ローンの残高は、2007年3月現在、1兆3千億ドルだったと推計されており[22]、抵当物件数で750万件を超えるサブプライム住宅ローンが組まれていた[23]。2004年から2006年ではサブプライム住宅ローンが全体に占めるシェアは18%?21%であり、対して2001年から2003年と2007年では10%未満だった[24][25]。2007年の第3四半期では、サブプライム層向け変動金利型住宅ローンは米国の住宅ローン中で6.8%を占めるに過ぎなかったが、この四半期中に生じた差し押さえ件数では43%を占めた[26]。2007年10月において、サブプライム層向け変動金利型住宅ローンのおおよそ16%は弁済が90日以上滞納されているかまたは差し押さえ手続きが始まっており、これは2005年における同比率のおおむね3倍に相当した[27]。2008年1月には、この滞納比率は21%に上昇しており[28]、2008年5月には25%だった[29]

米国の世帯が負った4人家族向けまでの住宅購入用ローンの総額は、2006年末には9兆9千億ドルであり、2008年半ばでは10兆6千億ドルだった[30]。2007年において、貸し手は130万件近い物件について差し押さえ手続きを開始したが、これは2006年に比べて79%増だった[31]。これは2008年には230万件すなわち対2007年比で77%増に及び[32]、更に2009年には280万件、対2008年比で21%増になった[33]

2008年8月現在、米国の住宅ローン全てのうち9.2%が滞納または差し押さえ状態にあった[34]。2009年9月現在、この比率は14.4%に上昇していた[35]。2007年8月から2008年10月の間に、米国全体で936,439件の住宅が差し押さえ手続きを完了した[36]。差し押さえは件数と申請比率の両方で一部の州に集中している[37]。2008年に発生した差し押さえ申請件数の74%が10州に集中しており、上位2州(カリフォルニアフロリダ)だけで41%を構成した。9つの州は全米世帯の平均差し押さえ比率1.84%を上回った[38]
原因

危機の原因は住宅市場と金融市場の両方に浸透していた様々な要因に帰せられる。これらの要因は長い年月の間に形成されてきたものである。原因として挙げられている中には次のようなものがある。主に変動金利型ローンの金利変更のため借り手が弁済不能に陥ったこと、限度を超えた借り過ぎ、略奪的な貸し付け、ブーム期間中の投機と過度の住宅建築、リスクの高い住宅ローン商品、個人と企業の債務水準の高さ、住宅ローンが債務不履行になるリスクを分散し恐らく隠蔽した金融商品、財政政策、国際的貿易不均衡、政府の規制(または規制の欠如)[39][40][41]。サブプライム危機を呼んだ重要な触媒を三つ挙げれば、民間部門からの資金流入、銀行が住宅ローン債権市場に参入したこと、および住宅ローンの貸し手による略奪的な貸付手法である。貸付手法の点では取り分け変動金利型住宅ローンである2/28ローン(初めの2年間は固定金利で、続く28年間は変動金利となるもの)があり、これは貸し手が直接またはブローカーを通して間接に販売した[5][42]ウォール街と金融業界では、これらの原因の多くの核心にはモラル・ハザードが存在した[43]

2008年11月15日付「金融市場と世界経済に関するサミットの声明」において、G20の指導者たちは以下の原因を挙げた。.mw-parser-output .templatequote{overflow:hidden;margin:1em 0;padding:0 40px}.mw-parser-output .templatequote .templatequotecite{line-height:1.5em;text-align:left;padding-left:1.6em;margin-top:0}世界経済の強い成長、資本の流れの増加、及びここ10年間の前半に長く続いた安定期、こうした期間を通じて市場参加者は十分なリスク把握を欠いたままより高い利回りを追求し、然るべきデューディリジェンスを怠った。これと同時に、融資条件の緩さ、不健全なリスク管理、複雑さと不透明さを増すばかりの金融商品、そして結果として生じた過大なレバレッジが合わさってシステムに脆弱性を作り込んだ。一部先進国の政策立案者、規制当局および監督当局は、金融市場で形成されつつあるリスクを適切に把握し対処することができなかったし、金融革新に追随できず、また国内の規制措置の体系的な細分化を考慮に入れることもなかった[44]

2010年5月、ウォーレン・バフェットポール・ボルカーはそれぞれ独立に米国の金融および経済システムに内在する疑わしい仮定や判断を指摘した。そうした仮定には次のようなものがある。
住宅価格が劇的に下がることはない[45]

洗練された金融工学に支えられた自由で開かれた金融市場は、資金を最も利益が大きくかつ最も生産的な用途に振り向けて、市場の効率性と安定性を最も効果的に支える


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