サブプライムローン
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3月20日までに連邦倒産法第11章に基づく資産保全を申請した会社は4社、業務停止は20社以上となった。その後、ニュー・センチュリーは4月2日に連邦倒産法第11章の適用を申請した。

サブプライムローンは金融工学を活用してリスクを分散させるために、貸付債権として証券化・分割され、複数の金融商品に組み入れられた。サブプライムローンは高率の返済利息に裏づけられた高利率を期待できる貸付債権であった。一方で、本質的に高いリスクを内包するサブプライムローンを証券化、細分化して、他の安全な証券と組み合わせて金融商品を構成することで、リスクを制御・抑制することが出来ると考えられた。そもそもハイリスク・ハイリターン金融商品には高い利回りがつくが、サブプライム証券の場合はローリスク・ハイリターンのように見せかけている。

さらに金融商品については、必ずしも構成要素にサブプライムローンが含まれていることを明示していないものがあった。また、サブプライムローンを組み入れているものであっても、大数の法則・担保の提供によりリスクが軽減されていると考えられた。しかし、実際にサブプライムローンの延滞率が上昇してくると、全ての物件が同じような価格動向を示す等、従前の想定と異なる状況を呈して、必ずしも当初の目論見どおりにリスクがヘッジされなくなった。その結果、金融商品自体が想定された利回りを下回ったり、元本自体の返済が不能となったりする例が浮上してきている。

こうして、サブプライムローンの信用リスクの顕在化は、この債権を組み込んだ金融商品そのものの信用リスクに波及した。更には、ある金融商品にサブプライムローン債権が組み込まれているかどうかが必ずしも明白でなかったことから、「リスク分散」の題目とは裏腹に、現実はサブプライムローンとは直接には無関係の金融全体の信用不安を引き起こすというリスク拡散として機能してしまった。

2007年6月22日には、米大手証券ベアスターンズ傘下のヘッジファンドが、サブプライムローンに関連した運用に失敗したことが明らかになり、問題は金融市場全体に拡大した。ファンドの中には、資金繰りが悪化して資金の引出を停止したり、解散を決めたりするものが相次いだ。ファンドは大手金融機関から多額の融資を受けており、問題の拡大が懸念された。ヘッジファンドは、高い利回りを求めて、住宅ローン担保証券の中でもリスクの高いエクイティ債や、エクイティ債を組み込んだ債務担保証券に好んで投資してきた。それらの債務担保証券には格付け機関が信用保証をしていたために、世界の金融機関もそれらの証券を購入していた。

しかし、7月10日には米格付け機関ムーディーズが、サブプライムローンを組み込んだ住宅ローン担保証券RMBSの大量格下げを発表した。この結果、投資家がリスクマネーの供給に慎重になるなど、心理的影響の波及も懸念されている。さらに、この格下げのタイミングが後手に回ったとして、格付け機関自体の信用度を疑問視して規制しようとする意見も出ている。

また、サブプライムローンに関する問題は、いわゆる優良な顧客としての、通常の債務者を対象とする住宅ローンなどの貸付に関する貸付の縮小の動きにも繋がっていることから、限定された債務者に対する貸付の問題のみならず、より広く融資・信用供与のシステム全体における動揺をもたらしかねないとする懸念が起こっている。
個人向け貸し付けへの影響

住宅ローンの返済遅延等の増加や、住宅価格の低下により、キャッシングの利用増加及び、貸し倒れが増加している。詳細は消費者金融のサブプライム問題の影響を参照。

また、高金利のペイデイローンの利用者が増加している。
金融政策的対応

サブプライムローンに関する信用への問題が顕在化するにつれて、それを要因に含んだものとされる各国の株式市場の株価の下落や、為替におけるドル安の動きなどが見られた。アメリカ合衆国の政府はじめ金融当局は、サブプライムローン問題の直接の金融システムないしは信用システムに対する危機的悪影響を否定しているが、アメリカ連邦準備制度理事会や各国の中央銀行は、市場に対する資金の供給量を増すなど、本問題を契機とする信用問題に対して一定の対策を取りはじめている。

8月、事態を重く見たジョージ・W・ブッシュ大統領はサブプライム問題の被害者への救済に乗りだすことを表明した。
資本市場への影響、及び問題の本質

サブプライム問題の背景として論じられる幾つかの要素は、必ずしも本現象の直接的な要因とは言えないものもある。例えば変動金利型ローンは、銀行等の住宅ローン債権者にとって元来管理が難しかった金利変動リスクを、デュレーション(債権キャッシュフローの平均回収期間)の短期化を通じてより効率的に管理する有効なツールであり、サブプライム・ビジネス固有の金融商品ではない。また、サブプライム層に対する融資も、(強制的な貸付け等、一部に指摘されている様な倫理的に問題のあるケースを除き)借り手の信用力がローン金利の高低等によって適切に調整・吸収されている限りは問題ない。問題となるのは、あくまで債権者側が従来見積もっていた様な債務不履行確率(及びそれに基づく貸付金利の設定)以上に実際の債務不履行事象が発生する等の場合であり、また、その様なアウトライヤーイベント(想定外の事象)の発生するリスクはサブプライムローンに限らず、より信用力の高い貸し手に対するローン・ビジネス、或いは金融以外の様々な経済取引においても同様に起こり得ることである。

ベアー・スターンズBNPパリバ等のヘッジファンドのニュースにしても、本質的には一部の金融機関が一部の金融取引でのアウトライヤーイベントの発生によって想定外の損失を被った、ということでしかない。ただし、2007年7月から同年8月にかけて、サブプライム問題を材料に世界中で株価の急落や信用市場の混乱、果ては連邦準備制度理事会による公定歩合の緊急引き下げといった事態にまで発展した最大の要因は、幾層もの証券化を通じて住宅ローン債権の本来のリスク特性が見えなくなっていた中で、市場参加者の多くがパニック的に極端なリスク回避行動に出たことにあると言える(2008年現在進行中の事象であり、解釈には注意が必要)。そもそもサブプライムローン証券市場自体が新興市場でありマーケットに厚みがないため、本来あるべき価格よりも当初は高価格で取引されていたが、その後買い手が引っ込んでしまい値段がつかない程暴落したというサブプライムローン証券市場の流動性の低さにも原因がある。サブプライムローン証券に手を出していた米国金融機関は時価会計が徹底していたため見かけ上の財務体質が悪化して株が叩き売られてしまった。リーマンブラザーズの破綻やAIG保険の公的資金投入など、2008年9月にアメリカ金融危機が発生。これにより、金融業界の大規模再編が進行中である。

しかし、市場参加者の中にはサブプライム問題を材料にした、極端な円高や住宅担保証券の下落で大きく利益を上げた者も多い。インスティチューショナル・インベスターズ・アルファ[注 5] 誌の調査によると、2007年のヘッジファンド業界の報酬トップはポールソン・アンド・カンパニー(英語版)の創業者、ジョン・ポールソンの37億ドル(約3800億円)だった。ポールソンのヘッジファンドは住宅担保証券の下落で大きな利益を上げた。ポールソンは元ベアー・スターンズのマネージングディレクターである。
脚注・出典
脚注^ カリフォルニアで年収12000ドルの違法滞在メキシコ労働者が手付金も担保も無しに75万ドルの家を購入した一例では、この家が不動産担保債権に組み込まれ、100倍のレバレッジをかけられ7500万ドルの投資対象となっていた。これは、年収12000ドルの違法滞在労働者の労働力を7500万ドルの価値があるとみなしたことになる。レバレッジの幅が10倍から100倍へ引き上げられたのは、ビル・クリントン政権のときである[1]
^ ファイコ、個人の信用格付け専門会社である、Fair Isac Co.の略称。
^ FICO Scoreともいう。
^ 参考:“返済額の試算”. 住宅保証機構株式会社. 2022年7月24日閲覧。借入額を3000万、返済方法は元利均等、返済期間を30年間、金利タイプは固定金利かつ当初金利を6%に指定(他は空欄)すると、毎月返済額が179,865円と算出される。
^ 『インスティチューショナル・インベスター(英語版)』の姉妹誌

出典^ ベンジャミン・フルフォード『アメリカが日本にひた隠す日米同盟の真実』青春出版、2014年2月、97頁。.mw-parser-output cite.citation{font-style:inherit;word-wrap:break-word}.mw-parser-output .citation q{quotes:"\"""\"""'""'"}.mw-parser-output .citation.cs-ja1 q,.mw-parser-output .citation.cs-ja2 q{quotes:"「""」""『""』"}.mw-parser-output .citation:target{background-color:rgba(0,127,255,0.133)}.mw-parser-output .id-lock-free a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-free a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/65/Lock-green.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-limited a,.mw-parser-output .id-lock-registration a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-limited a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-registration a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d6/Lock-gray-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .id-lock-subscription a,.mw-parser-output .citation .cs1-lock-subscription a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/a/aa/Lock-red-alt-2.svg")right 0.1em center/9px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-ws-icon a{background:url("//upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/4/4c/Wikisource-logo.svg")right 0.1em center/12px no-repeat}.mw-parser-output .cs1-code{color:inherit;background:inherit;border:none;padding:inherit}.mw-parser-output .cs1-hidden-error{display:none;color:#d33}.mw-parser-output .cs1-visible-error{color:#d33}.mw-parser-output .cs1-maint{display:none;color:#3a3;margin-left:0.3em}.mw-parser-output .cs1-format{font-size:95%}.mw-parser-output .cs1-kern-left{padding-left:0.2em}.mw-parser-output .cs1-kern-right{padding-right:0.2em}.mw-parser-output .citation .mw-selflink{font-weight:inherit}ISBN 978-4413039093。 
^ Steverman, Ben; Bogoslaw, David (2008-10-18), ⇒The Financial Crisis Blame Game, Bloomberg.com, ⇒http://www.businessweek.com/investor/content/oct2008/pi20081017_950382_page_2.htm 2010年10月22日閲覧。 
^ あすへの話題 銀行の行動と背景 津田廣喜 日本経済新聞 2011年11月27日
^ 日本経済新聞2007年3月19日による。


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