この変化には、日本における民族問題意識の希薄さ以外にも、サブカルチャーという概念の輸入が社会学者ではなく、ニュー・アカデミズムの流行に乗ったディレッタント(英、伊: dilettante。好事家。学者や専門家よりも気楽に素人として興味を持つ者)によって行われたことも関連している。研究者ではない当時の若者たちにとっては学術的な正確さよりも、サブカルチャーという言葉の持つ、差異化における「自分たちはその他大勢とは違う」というニュアンスこそが重要であったともいえる。 サブカルチャーに区分することが適切かについては議論があるが(岡田斗司夫などはサブカルチャーではないとしている[7])、日本独特のものとして、おたく文化がある。 1980年代になると、かつて吉本隆明が予言したように、ハイカルチャーとの上下関係が消失していく[13]。この頃のサブカルチャーは複数の要素を内包しつつも、ジャンル間に横の繋がりは希薄で、場合によっては複数の分野を掛け持ちすることはあったものの、基本的に愛好者たちは別々の集団を形成していた。しかし1990年代に入ると転機が訪れる。メディアミックスの名の下に漫画、アニメといったジャンルの統合が進んだのである。漫画がアニメ化され、アニメが小説化されるという現象によってこれらのジャンルは急速に接近し、俗に「おたく文化」と呼ばれる、その他サブカルチャーから突出した同質性を持つ集団を形成するようになる[14]。パソコン通信やインターネットの時代になると、おたく文化とサイバーカルチャー・アングラカルチャー・カウンターカルチャーが融合し、「アンダーグランドさ」と「内輪意識」が確立された[15]。 おたく業界は、特化した雑誌メディアが囲い込んだ特定のファンにのみ情報発信するので、巨額の宣伝費は要らず、同時にそうやって囲い込まれたファンは集中的かつ高価格の商品に対し極端な購入の仕方をするという、売る側からすれば大変効率の良いものであった[13]。しかし、かつてはおたく=秋葉原=ダサい、サブカル=渋谷=カッコいいという極論が唱えられ、おたく文化の地位はサブカルチャー内においても低いもので、おたく文化との同一視を嫌う人が「サブカル」の語を使用した[16]。また研究者[誰?]の側からすれば未知の分野であるおたく文化の形成等に興味が無く、漫画、アニメをサブカルチャーから切り離すこともあった[17]。 ようやく2000年代後半になり、アニメの海賊版などが動画サイトやSNSを通じて世界的に有名になり、これら文化とともに育った世代も成人を迎え、世界規模のOTAKU文化を生んでいる[15]。以降はおたく文化が、日本サブカルチャーの最大与党であり、サブカルチャーそのものという見方すらされている[注 3][注 4]。 その一方でインターネットの大衆的普及は「アンダーグランドさ」と「内輪」を薄めていき、2010年代にはSNSを通じた一般的で大衆的な商業コンテンツとなった。それがサブカルチャーといえるのかは異論も多いところで、松永天馬は「これ以上サブカルにこだわろうとすれば、それは懐古趣味になりかねない」と述べている[2]。 おたく文化とサブカルチャーの境界は曖昧である。上記の秋葉原・渋谷二元論など、サブカルチャー同士が対立した場合もある。そのため、同じサブカルチャーという言葉を用いているにもかかわらず、まったく別の事柄について論じている場合が多々見られる[注 5]。 日本ではサブカルチャーという言説が一人歩きしている。特にカルチュラル・スタディーズの専門家[誰?]からは1980年代サブカルチャーブームを、日本において独自進化を遂げたものとして、その意義を認めようとする動きが出ている[18]。しかし、それもストリート・カルチャーやテクノ、ヒップホップなど、カルチュラル・スタディーズにおけるサブカルチャー研究で既に経験済みであった要素までである。 1980年代サブカルチャーの側は、そもそもカルチュラル・スタディーズの概念に無関心である。もともと正規の学問の場を離れることを特徴の一つとしたニューアカデミズムの影響もあり、彼らのサブカルチャーは、起源を切り捨て独自進化を遂げたサブカルチャーの概念からメインカルチャーをも規定した[4]。文化・メディア研究に詳しい上野俊哉は宮台真司らによるメインカルチャーの定義は、むしろハイカルチャーの概念に近いものであることを指摘している[19]。
おたくの台頭
サブカルチャーとカルチュラル・スタディーズ
同義語/反対語
ポップカルチャー、オタク文化はときには同義語として使用されることもある。「オタク文化」とサブカルチャーが同一視される場合もあるが、両者の微妙な差異にこだわる向きもある(例: 「ユリイカ」2005年8月増刊号 オタクvsサブカル!)。また、オタク文化は、お坊ちゃん文化という面もある。
ハイカルチャーやメインカルチャーが反対語である。ただしサブカルチャーの台頭によりメインカルチャーとは何たるかが曖昧になっている。
関連出版社・メディア
ヴィレッジヴァンガード
太田出版
角川書店
講談社
光文社
コアマガジン
彩図社
集英社
小学館
新宿ロフトプラスワン
青林堂 - 月刊漫画ガロ
青林工藝舎 - 青林堂退社組が新たに設立
大洋図書
宝島社
関連概念・ジャンルなど
現代アート
ガロ系
鬼畜系
アキバ系
渋谷系
アキシブ系
原宿系
エログロナンセンス
ヘタウマ
書籍
マーティン A.リー、ブルース・シュレイン 越智道雄訳『アシッド・ドリームズ―CIA,LSD,ヒッピー革命』(第三書館)
宮沢章夫編著・「ニッポン戦後サブカルチャー史」制作班『NHKニッポン戦後サブカルチャー史』(NHK出版 2014年)
脚注[脚注の使い方]
注釈^ ハイカルチャーにはクラシック音楽やクラシック・バレエなどがある。
^ この用語としてはTheodore Roszakが1968年The Making of a Counter Cultureにおいて用いたのが早い用法である。
^ 例えば評論家の大塚英志は特に定義を明言はしないが、(彼の言葉でいえば「キャラクター小説」)などに対してサブカルチャーと用いている。