サバイバル
[Wikipedia|▼Menu]
□記事を途中から表示しています
[最初から表示]

その量は「(ラフトの)定員ひとりあたり3リットル[5]」である。したがって、普段の感覚で水を飲んでしまうと、ラフトの水はわずか3日(あるいは不用心な飲み方をすると、わずか1.5日程度)で尽きてしまう。したがって、海難事故でラフトに逃げ込んだ場合は、用心して水は少なめに飲んだほうがよいということになる。

なお、たとえ真水が切れたたとしても、海水は飲んではならない。飲むと、身体は塩分を尿として体外に排泄しようとし、飲んだ海水の量よりも更に多くの水を必要とするためである。かえって強烈な「渇き」に襲われる。体内の塩分濃度が高まると露骨に「気持ちが悪く」なる。「水分を摂取しなければ必ず死に至る」と主観的には思えるような極限状況でもまた「1日数百ミリリットルに限ってなら海水を飲んで良い、と言って欲しい」と言っても、飲んで数十分もすると体内の塩分濃度が増し、本人もすぐに自覚できるほど異常な体調になり、結局、死を早めてしまう。大洋での海洋遭難でラフトに逃げ込んだ時のサバイバルは、「水」についても、本当に過酷なものとなる。眼の前に大海原が広がっていて、つまり大量の水が触れられる位置にあり、無限にあるかのように感じられるのに、その水をまったく飲むことができないからである[6]。精神的に非常にキツいのである。なお、ヨットレースで仲間とともに遭難しラフトで仲間が次々と死んでゆく状態を記録した佐野三治の『たった一人の生還』(当記事の末尾でも紹介)にもそのあたりの過酷さは書かれている。

なお飲料水が無くなってしまった状態では、雨は「命を救ってくれるもの」であり、ラフトの屋根(テント部分)に降った雨を(容器などに)集めて飲むことができる。雨水は飲むことができるのである[7]

なお尿血液も海水同様に塩分濃度が高いので、生き延びようと思うなら飲んではならない[8]
乾燥地帯の場合

(日本国外の話だが)たとえば乾燥地帯の広大な土地で(たとえば独りで冒険をしていて)、携行している水が尽きた場合に水を見つける方法についても解説する。

まず周囲の数キロメートル程度の地形をよく観察し、比較的高い場所(たとえば岡や山の状態になっている場所)と、反対に比較的低い場所(たとえば窪地や谷状になっている場所)を見分ける。それができたら低い場所へ移動し、「水が流れた痕跡」を探す。たとえ乾燥地帯であっても、まれに雨が降る時期には地表を雨が流れるからである。もし「水が流れた痕跡」があったら、その痕跡を、低い方向へとたどる。

低い場所にたどり着いたら、そこから先はいくつかのパターンがあるが、ひとつは小動物が生息している地帯なら(乾燥地帯でもしばしば動物が生息している)、地面をじっくりと観察し、動物の「足跡」が見えた場合は、それを低いほうへと辿ってゆくと動物の「水場」になっている場所が見つかることがある。もし運良く動物の水場を見つけられたら、その水をコップでもペットボトルでもよいので汲んで(もし金属製コップやコッヘルがあればそれに入れ、火も起こして)一度沸騰させてから飲む(動物の水場の水をもらう場合は、感染症には気をつける必要があり、基本的に煮沸してから飲む。もし湯をわかす道具が無い場合でやむをえずそのまま飲む場合には、感染症になるかならないかは一種の「賭け」になってしまうのでリスクがあることは自覚しなければならない)。動物の足跡が全く無い地帯であっても、一番低い場所にたどり着くと、小さな「水溜り」が見つかることもある。見つかったら、もし念のため沸騰させたければ沸騰させてから飲めばよい。

もうひとつのパターンは、「水の流れた痕跡」を辿って最も低いだろうと思われる場所までたどりついても、「動物の水場」も「水溜り」も見つからないパターンである。その場合は、その低い場所の地面の色を注意深くじっくりと観察する。土地(地面)にはわずかに水が含まれており、水の割合で地面の色が微妙に、かすかに異なっており、水分が比較的多い地面は色が比較的濃いことが多い。土に含まれる水分が比較的多そうな場所が色で判別したら、そこで地面を掘る。もし小さなスコップを持参していればそれで掘ればよいが通常はそういうものは持っていないものであるので、もし金属製コップ(やコッヘル)があればそれで掘る。コップ類も無ければ、素手で掘る。かなり大変な作業ではあるが、頑張って50?60センチほど掘ると、明らかに土の色が濃く、黒っぽくなってくる。これは土が含む水分が増えている証拠である。掘る作業を続けていると、(深さは決まっておらず、運が良いと60センチほどかも知れず、運が悪いと1メートルや1.5メートルほどになってしまうかも知れないが)やがて掘った穴の中に、直径数センチほどの大きさの、とても小さな「水溜り」が出現するようになる。そうなったら布類(たとえば自分のシャツのすそ、端でよい)を掘った穴の底のわずかな水にひたし、濡れた布を「しゃぶる」。「布を水にひたして、しゃぶる」を何度も何度も繰り返すと水分が補給できる。掘った穴の水の場合は、通常比較的きれいなので、沸騰させずに飲んで良い。

なお、蒸留という手法、一種の「装置」を組立てる高度なテクニックだが、浅い穴を掘って、中央に水を蓄えるコップなどの小さな容器を置き、その周囲に海水や泥水等の飲用に適さない水を入れ、穴に光を通す薄いビニールで覆ってしまい、そのビニールシートの中心(コップの真上)に小石を置いて、中心部が最も低くなるようにしておく、という方法もある。穴の中は太陽熱などで水が蒸発して湿度が高くなり、ビニールの表面で大気によって冷やされ、水滴となってコップに溜まる。この方法で、草木の汁や朝露などを蒸留する事も一応は可能である。

動物の水場の例。

動物の水場の例。

乾燥した地域でも、低い土地へと移動してから地面に穴を掘れば水が出てくる可能性が高い。

自作する蒸留装置の構造図



他の一般的な考慮点

体温が上昇すると、発が起き、大量の水を必要とするので、直射日光を避け日陰に退避したり、身体を動かす量を減らすということも、必要な水の量を減らす効果がある。また食物を取ると消化のために水分を必要とするため、食事の量を抑えると水の消費量も減る。水が乏しい場合には、食事の量にも注意する。
食料

人間はいくら水が豊富に飲めても、それ以外の食物を何も口にしていないと、概ね3週間 - 1ヶ月で死ぬ。
山岳遭難の場合

山岳遭難の場合、いくつかのパターンがあるが、たとえば山中で荒天になり、下山を目指して歩き続けたり、あるいはあらかじめ場所が分かっている(特に予約を入れてある)山小屋にたどり着くために歩き続けたりする場合は、持参した携行食(キャンディー、チョコレート、おにぎりなど)を随時食べて、歩き続けるためのエネルギーを補給する。歩き続けるためには糖質炭水化物)が望ましい。(特に尾根を歩いていて強風に吹かれている状態では体温も低下しがちなので、低体温症を防止し体温をあげるためにも糖質を補給する。)

たとえば滑落などで脚を骨折して歩けなくなり周囲に人もいない場合、さらにいくつかのパターンに分かれる。もしたまたま電波が届く場所で携帯・スマホなどで自力で「救助要請」をできた場合は、自分の現在地を自分で説明できるので、2日?数日程度で救助隊が自分を見つけてくれる可能性は高いので、食料が無いことで死んでしまうことはまず無いが、この場合は、より高い確率で生き延びられ、かつ救助を待つ間、空腹感で悩まされないように工夫する。まず携行食の残量をよく確認する。他に調理して食べる予定だった食料(米・麺類・レトルト食品・缶詰など)がリュックに入っていれば、その残量も確認する。そして、もし3?4日のうちに自分を救助隊に発見してもらえそうなら、食料をその日数で割り、1日あたり食べて良い量を計算する。ただし近づきにくい地形だったり樹木が多かったりすると救助隊が自分をうまく発見できない場合も多いし、天候悪化で救助活動が一時延期になる場合もあるので、発見されるのがさらに数日伸びる可能性も考えたほうがよい。食料の残量が十分にあればあまり問題はなく、残量が少ない場合はよくよく考える必要がある。たとえば手元に残っているのが「キャンディー5個だけ」という状態なら、まずは1日あたりキャンディー1個だけで我慢しておいたほうがよい。もし「おにぎり1個、および、キャンディー5個」ならば、傷みやすいおにぎりのほうを1日目に食べ、2日目以降にキャンディーを1日あたり1個づつ舐める。そして3日目でも救助が来ないようなら、念の為にさらに食料の消費量も減らす。たとえばこの例なら「2日あたりでキャンディー1個」(1日あたりでキャンディー半個)に減らす。(実際、山で遭難してサバイバルに成功した人は、『キャンディーを舐める場合も、1個まるまるは舐めず、少し舐めて口から取り出しビニール包装に戻して、翌日以降も「取り出して、少し舐めて、包装に戻し」を繰り返してしのいだ』というようなケースもある。)

特に食料が問題になる場合は、電波が届かない場所で歩けなくなり、携帯が通じず救助要請が出せなかった場合である。長期戦を覚悟しなければならないからである。(なぜかというと、家族・友人・同僚などがいる人ならば、数日後に遭難の可能性に気づいてくれて捜索願いを出してくれることを期待しつつじっと待つわけだが、たとえ家族・友人・同僚が捜索願いを出してくれても、登山口で「入山届け」を提出しておらずさらに自分が入る山を誰にも伝えていないとそもそもいつまでたっても発見してもらえない可能性が高いのでほぼ間違いなく長期戦になるし、たまたま入山した山を特定してもらえた場合でも登山ルートを推定してもらうのは困難で、運良く実際に自分が辿ったルートを推定してもらえた場合でも、その次に、実際に捜索が開始されるまでにまた日数がかかり、ルートも断定できず具体的な場所が分からないまま捜索隊が山に入っても見つけることは非常に困難なので、発見までに数週間?1ヶ月ほどかかってしまうことはザラにあるからである。)つまり自力で救助要請を出せなかった場合は、相当の長期戦を覚悟しなければならず、この場合に食料の問題がかなり深刻になってくる。できるだけ1日あたりの消費量を抑え、長く生き延びられるようにし、発見してもらえる可能性を残す。
海洋遭難の場合

海洋遭難の場合、イパーブ[9]のスイッチを入れるか、(あるいは自動起動タイプなら)海中に投げ込むことで救援要請をする。救命いかだ(ラフト)に逃げ込むわけだが、ラフトの中にある「緊急時のボックス(箱)」の中に若干の食料も入っている。なお食料を失ってはいけないので、荒天でラフトに逃げ込む時は、うっかりこの箱を波にさらわれないようにすることが重要である。

避難時に、イパーブのスイッチを入れることができ、それがきちんと作動していれば、数日程度で救助が来てくれる可能性は高い。とりあえず数日間はボックスに入っている非常食でしのぐことになる。安全を考慮するなら発見されるまで日数が伸びるような、悪いほうの事態も想定しておいて(たとえば1週間程度を想定してみて)、食料の量を確認し、ラフトに逃げ込んだ人の人数およびその日数で割り算をして、一日一人あたり食べて良い量を算出すればよい。

イパーブのスイッチをうまく入れられなかった場合は深刻な事態となる。救援が来ない状態で漂流しつづけなければならない。

数日?1週間もすると、ラフトの緊急ボックスの中の非常食は尽きてしまう。そこからが大変なことになる。

ほとんどの人は、1週間もタンパク質をとっていないと「自分の体に明らかにタンパク質が不足している」という感覚に漠然と苦しめられるようになる。(タンパク質やアミノ酸は人体を構成する必須要素であり、(緊急時に3?4日タンパク質が無いことくらいは一応大丈夫なように身体はできているが)基本的には摂取しつづけないと細胞レベルで支障を生じ、細胞レベルで脳に対して「メッセージ物質」(タンパク質をとれ!と脳に指令を出す物質)を放出するようになるからである。栄養学的には「毎日、手のひら(の真ん中部分)程度の大きさの肉(タンパク質)は食べるべきです」とされてる。普段は簡単にできるのに遭難時にはそれができないので人々は苦しむことになる。)

緊急ボックスの中には一般に、そういう事態も想定して「釣り針と釣り糸」(および、簡易的な、短い釣竿)も備えられているので、それを用いて魚を釣ろうと試みることになる。だが魚というのは、磯場や陸に近い海では比較的容易に釣れるが、大洋では短い釣り糸を垂らした程度では意外に釣れない。大洋のまっただ中では、意外に、面積あたりの魚が少ないのである。それでも根気よく毎日釣り糸を垂らしてを垂らしていると、運良く釣れることがある。魚が釣れたら、まず食べられる魚か判断する。自分が良く知っている魚なら安心して食べられる。ボックス備え付けのナイフでさばき、魚肉を食べる。寄生虫類がいないか、眼を皿にして観察し、もしいたら必ずナイフの先で取り除いてから食べる。

脂質は重量あたりのカロリーは高い。飽和脂質非常時にはよいカロリー源である。ただし魚の脂肪でも消化できるものと、できない種類のものがあるので注意する。市販されているような広く知られている魚種の脂ならば基本的に大丈夫だが、一部には消化できない脂の魚種もいるので、それには注意する。また連食するとケトーシスになり、肝臓に負担をかけるのでそれも避ける。

また魚の脊髄周辺には、比較的塩分の少ない体液が蓄えられているので、丸ごと食べるか脊髄周辺の体液をすする事で水分を補給できる。

(当記事の末尾でも紹介している)『たった一人の生還』の実話では、長い漂流の期間中、何度かラフトの屋根に海鳥(アホウドリの類)が降りてきた時があったので、(何度も捕らえようとしたが最初は失敗つづきだったが)ついに脚をつかんで捕えることに成功し、さばいて食べた、という記録も残されている。


次ページ
記事の検索
おまかせリスト
▼オプションを表示
ブックマーク登録
mixiチェック!
Twitterに投稿
オプション/リンク一覧
話題のニュース
列車運行情報
暇つぶしWikipedia

Size:84 KB
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
担当:undef