サターンI_型ロケット
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報告書はまた 初期のヴァンガード (Vanguard) から始まり、 ジュノー、アトラスやタイタンなどの大陸間弾道弾、 サターンのようなクラスター式ロケット、そして究極的には F-1エンジンを組み合わせて600万ポンド(2,718トン)もの推力を発揮する機体へと続く、ロケットの開発に関する過去から将来への5つの世代の構想を描いていた。さらにそれらのロケットが使用可能になった段階で、1961年までに4人が滞在できる小型宇宙ステーションを建設し、 1965年から66年までにクラスター式ロケットを使用して人間を月面に到達させ、1967年までに50人が滞在できる大型宇宙ステーションを建設し、 1972年までに大型ロケットを使用してより大がかりな月面探査を実行し、1973年から74年にかけて、恒久的な月面基地を建設し、1977年までに有人惑星間宇宙船を発進させるという、今後の有人宇宙計画の概略も示していた。

12月には陸・海・空軍すべてのグループが出席して、おのおのの計画案について報告した。翌年1月6日に、NASAはその中から特にブラウン博士の案を強く推薦し、1月の終わりには開発計画の概略案を完成させた。その中では、ジュノー5やノヴァと同様、ヴェガ (Vega) ロケットとセントールロケットを上段に使用することが予定されていた。ヴェガはNASAがデザインしたものにおよそ匹敵する性能を持っていたが、後に上段ロケットのアジェナに関する秘密が漏洩したことにからんでキャンセルされた。
計画の危機

サターンの開発計画は順調に行なわれているように見えた。H-1ロケットが陸軍弾道ミサイル局に到着したのは1959年4月のことで、燃焼試験は5月に行なわれた。ケープカナベラル空軍基地第34発射台が建設されるのは、この年の6月のことであった。

1959年6月9日、国防総省調査技術局長官のハーバート・ヨークは、突如としてサターン計画の中止を表明した。誰も予期しないことであった。後に彼はその理由について、「この計画には、国防高等研究計画局が実際に計画を進行させるよりも多くの予算が使われているという懸念があり、また既存の大陸間弾道弾を改良したほうが、より短期間に要求される能力を持つロケットを開発できると考えられたからだ」

と説明している。これに対し陸軍弾道ミサイル局長官のジョン・B・メダリスは、

「この時私の鼻には、何か生臭いものが感じられてならなかった。私は猟犬を放つように、我々の身の回りで何が起きているのか、そして我々は誰と競合すべきなのかを慎重に見極めようとしていた。そして我々は、空軍が我々の知らないところで、サターンとは完全に異なる新型ロケットの提案をしていたことを知った。それはタイタンロケットのエンジンを、一段目ロケットが離陸するのに必要な推力が得られるまで性能を向上させ、複数組み合わせることにより、ダイナソア・ロケットのエンジンとして使用するというものであった。このロケットは、『スーパー・タイタン』あるいは『タイタンC』などと命名されていた。この計画は特に急がれていたものではなかったが、しかしながらこのタイタンCを二段あるいは三段ロケットにしてしまったほうが、我々がすでに何か月もかけて作業しているサターンよりも、よほど早く発射できるのではないかというクレームが寄せられた。この当時はコストよりも日程のほうがよほど重視されていて、そしてそれは悪く言えばプロパガンダとして利用されていたのだ」

と証言している。この突然のキャンセルに対し、国防総省と国防高等研究計画局のメンバーたちは独自に覚え書きを提出して対抗した。だがこの時、陸軍とNASAは新型ロケットに関するいかなる必要条件も持ってはいなかった。1959年9月16日から18日にかけて会合が持たれ、ヨークとドライデンはサターンの将来について再調査を行い、タイタンCとノヴァの役割についても議論した。結果は意外なもので、ヨークは中止を延期し、短期間ながら資金の援助を継続することに同意した。しかしながら同時にNASAは、陸軍弾道ミサイル局のメンバーを引き継ぎ、国防総省の援助なしに開発を継続することにも同意した。三軍の協力を得られなければ、開発計画そのものが危機に瀕してしまうのではないかというのがNASAの懸念であった。

会合は次の週にも継続して行われ、その結果新たな合意が引き出された。サターンの開発は、弾道ミサイル局のフォン・ブラウンのチームが主導して開発を継続することと、全体の機構はNASAの指揮下に置かれるということである。1960年3月15日には、弾道ミサイル局はマーシャル宇宙飛行センターと名称を改め、NASAの下部組織に位置づけられた。
上段ロケットの選択

1959年7月、国防高等研究計画局から上段ロケットに関する新たな要求が出された。二段目ロケットのエンジンに、液体酸素と液体水素を使用する推力2万ポンド(9トン)のより強力なエンジンを使用し、第三段ロケットのエンジンには、セントールロケットに使用されているより高性能化されたものを使用せよ、というものである。この変更について、メダリスは以下のように述べている。

「我々は財政に関わる四つの問題点を指摘し、そしてそれは受け入れられるところとなった。第二段を製作するに当たり、我々はそのロケットの直径を、タイタンの一段目と同じ120インチに合わせなければならない。ところでロケットのタンクなどの主要な構造物を組み立てる際、その作業をするための工場にかかる設備費は、多くの場合、ロケットの直径によって左右される。長さはそれほど問題にはならない。我々が指摘した四つの問題点とは、1) 燃料タンクを機体内部でどのように分割するのか、2) 内部構造をどのように補強するのか、3) 大推力のロケットエンジンを機体底部にどのようにして取りつけるのか、4) 直径の違うロケットをどのようにして接合させるのか、という点であったが、これらのことは、技術的にはさほど問題があるわけではなかった。それよりも問題なのは直径を変更するということで、それが設備・コスト・時間についての最も主要な問題になると考えられた。その後また突然、第二段に関する作業を一時中止せよとの指令が出た。青天の霹靂であった。この計画全体にかかる費用と時間を見直し、なおかつ第二段の直径を160インチに拡大せよというのである。この指令にはヨーク博士が関わっていたようで、彼は先に『タイタンの一段目と同じ120インチに合わせよ』という指示を出しておきながら、それとは全く矛盾する、ダイナソア・ロケットの将来的な需要を強調したそうである。彼はまた、サターンのデザインを空軍が計画するものに変更することが可能であるかどうかという質問まで提出してきた。我々は衝撃を受け、呆然としたが、こんなことは日常茶飯事だった」

12月には、NASA、空軍、国防高等研究計画局、陸軍弾道ミサイル局そして国防総省から出向してきたメンバーたちは、シルバースタイン委員会 (Silverstein Committee) の管轄下に置かれた。その中でフォン・ブラウン博士は「上段ロケットには液体酸素・液体水素を燃料とするロケットを使用するべきだ」と主張し、委員会は当初は不安視していたものの、やがてブラウン博士に説得されるところとなった。ひとたびこの変更がなされると、NASAの計画は、ようやく軍の干渉から完全に自由になった。

委員会はロケットの形態についていくつかの異なる案を提示し、研究者たちを大まかに三つのグループに分け、それぞれの案を担当させた。Aグループが担当したのは、以前に提出されたサターンのデザインと内容は同じで、最もリスクが低いものである。その中でさらに、「タイタンロケットを第一段、セントールロケットを第二段に使用するもの」をA-1、「第一段をタイタン以外のロケットのクラスター方式にするもの」をA-2と呼んだ。B-2のデザインは、前記のA-2で第一段に4機のH-1ロケットを使用するものである。最後に、上段ロケットのエンジンに液酸・液水ロケットを使用するC型ロケットの案が三種類あった。そのうちC-1のモデルは、既にあるS-I を第一段に使用し、第二段には推力15,000 - 20,000ポンド(6.8 - 9.0トン)のエンジンを4基搭載したS-IV、第三段にはセントールのエンジンを2基搭載した、今日ではS-Vという名で知られるロケットを乗せるというものである。C-2のモデルは、第一段に推力150,000 - 200,000ポンド(68 - 90トン)のエンジン2基を搭載した新型ロケットS-IIIを使用し、第二段にS-IVまたはS-Vを使用するものである。最後にC-3のモデルは、第一段にS-IIIと同じエンジン4基を搭載したS-IIロケットを使用し、第二段にはS-IIIまたはS-IVを使用するというものである。C案はAおよびB案に比べ、相互に交換が可能であるという点や、様々なペイロードに対する要求に応えることができるという点で、より優れていると考えられるようになった。
サターンの実現

皮肉にも、上記の多数のデザインの中でS-IVだけは委員会の報告に描かれてはいなかった。開発のスケジュールを合わせるために、第二段にはセントールのエンジンを6基搭載した「新」S-IVロケットが使用されることになった。性能的には、原案の出力を向上させたエンジンを4基搭載したものとほぼ同じであった。なおロケットというのは、小さいエンジンを多数搭載するよりも、大きいエンジンを少なく搭載したほうがより能率的で信頼性は高まるものである。


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