ヒトサイトメガロウイルス (human cytomegalovirus; HCMV) はDNAウイルスのヘルペスウイルス科に属し、ゲノムの大きさは、直径約180nm、230 kbpからなる2本鎖DNAウイルスである[1][8]。
HCMVはβヘルペスウイルス亜科サイトメガロウイルス (Cytomegalovirus) 属を代表するウイルスであり、ヒトヘルペスウイルス5型 (human herpesvirus-5; HHV-5) とも呼ばれるヒトに感染するヘルペスウイルスの一種である[1]。
HCMVは大型のDNAウイルスであるヘルペスウイルスの中でも最大級の大きさを持つ[8]。最外側 (coat) は脂質二重膜のエンベロープ (envelope) で覆われ、内部に4つの立体構造の異なるDNA isomerからなるゲノムを内包する正20面体のタンパク質の殻(カプシド:capsid)がある(ヌクレオカプシド:nucleocapsid、という)。エンベロープとヌクレオカプシドの間にテグメント (tegument) を含む[1]。ウイルス粒子(ビリオン:virion)は約70種類のウイルス蛋白で構成されるが、テグメント蛋白のpp65(UL83)が最も多く含まれ (15%)、好中球に取り込まれたpp65の検出はウイルス抗原血症(アンチゲネミア:antigenemia)の早期診断に有用である[1]。 HCMVはヒトにのみ感染し、広い臓器親和性(向汎性)を有する[8]。HCMV感染細胞における感染様式は、許容性感染・非許容性感染・潜伏感染に大別される[1]。HCMVに許容性を示す細胞は多数知られ、間葉系細胞(線維芽細胞・血管内皮細胞・平滑筋細胞)、上皮系細胞(網膜色素上皮細胞・胎盤栄養膜細胞・腎尿細管上皮細胞)、血球系細胞(樹状細胞・マクロファージ)、神経系細胞(神経前駆細胞・神経細胞・グリア細胞)などがある[15]。 サイトメガロウイルスによる感染症は、幼児期の初期感染と免疫抑制状態で再活性化することで様々な病態を起こす。通常は、幼児期に何の病態も示さない不顕感染で終わり潜伏感染のまま推移する。しかし、免疫系が正常であっても、肝炎、伝染性単核症様の症状、ごく希に胃腸炎[16]を呈する事がある[17]が、先天性感染以外では、聴覚神経、視覚神経への障害リスクは低い[14]。 主な感染経路は、
感染
体液、分泌物との接触。 - 非性的接触、性的接触。
胎内感染 - 新生児に先天性の感染症を生じる。
輸血、臓器移植 - 白血球内に感染したサイトメガロウイルスが感染し、2 - 4週間後に発熱、まれに肝炎を発症することもある[18]。また、免疫抑制療法中に生じた腸炎や大腸穿孔[19]が報告されている。
臨床像
分類
先天性感染
先天性サイトメガロウイルス (CMV) 感染症
感染歴を有しないCMV抗体が陰性の妊婦のうち、1% - 2%が妊娠中に初感染をし、感染妊婦の約40%が胎児感染に至る。胎児感染例の20%は症候性であるが、80%は無症候性の先天性感染である[14]。症候性の感染児は新生児の約0.1%とされ[14]、妊婦が妊娠初期にサイトメガロウイルスに初感染すると、胎児に移行感染し、流産、死産、新生児の死亡 (30%)[20]の原因となることがあるほか、難聴[21]、小頭症
後天性感染
主症状は、発熱、肝機能異常、頚部リンパ節腫脹、肝脾腫などで、急性熱性疾患としてはCMV肝炎、伝染性単核球増加症と似た非定型リンパ球増加症。
サイトメガロウイルス網膜炎
網膜出血等を生じる[23][24]。
サイトメガロウイルス肺炎
化学療法後や後天性免疫不全症候群などの免疫力が低下している状態に引き起こる[25]。後天性免疫不全症候群患者の主要死因である。
サイトメガロウイルス髄膜炎
化学療法後や後天性免疫不全症候群などの免疫力が低下している状態に引き起こる。
サイトメガロウイルス腸炎
潰瘍性大腸炎等のステロイド治療中に起こる[26]。