ゴーストライター
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モーテンソンは慈善活動にいっそう力をいれることで償うと謝罪したが、レーリンは批判キャンペーンが展開された翌年の2012年に、罪悪感やライターとしての将来への悲観から49歳で自殺した[15]

日本では、1973年に出版された糸山英太郎議員の自伝・『太陽への挑戦』(双葉社)について、ゴーストライターの豊田行二が翌年に『小説・糸山英太郎 太陽への挑戦者』を『オール読物』(文藝春秋)に発表して代筆を暴露するという事件があった。元の本は一年半で50万部を売り上げるベストセラーであり、双葉社の怒りは相当なものであった。中堅幹部は、次のように語っている。「『太陽への挑戦』は糸山・豊田・双葉社の三者共犯から生まれた“鬼っ子”なんだからね、三者とも恥ずかしい行為をしているわけなんだよ。だから、それは公けにすべきではなく、棺桶の中まで持って入る“秘密”でなくちゃいけない」[16]

出版界では長らく暗黙の了解の存在だったゴーストライターという仕事を、広く公然化したのはKKベストセラーズの創業者・岩瀬順三である[17][18][19][20]1982年11月17日NHK教育テレビで放送された『NHK教養セミナー』「現代社会の構図ー出版界最前線」第2回〈ベストセラーを狙え〉[17]に出演した岩瀬が、当時同社から出版されてベストセラー第2位だった江本孟紀の『プロ野球を10倍楽しく見る方法[21][22]に関して、アナウンサーが「この本も、原稿をまとめたのは、実は出版社だという話です」と言うと、岩瀬は「書いたか書かないかでなく、誰の本.....山口百恵の本、江本の本ということが重要だ」と前置きをして「ゴーストライターによってつくろうとも、なまじ本人が書いて拙い文章の本をつくるより、言わんとすることを正確に、より読みやすく面白く書いてもらったほうがいい。江本孟紀の書いた本を売っているのではなく、“江本の本”を出しているのだと判断してもらいたい」と発言した[2][18][19]。これは、当時のゴーストライターに対する強い批判に岩瀬が回答し、ゴーストライター必要論を強調したものであった[2]。『プロ野球を10倍楽しく見る方法』は、220万部という記録的な売れ行きとなり、以降のゴーストライターブームをつくったと言われた[18]。その後、この手のタイトルと本作りのスタイルは他社にそっくり真似られ、20世紀末にはすっかり定着している。こうした手法を編み出したのは岩瀬ではなく、光文社カッパ・ブックスの創始者・神吉晴夫といわれる[23]。それまでは、著者が書いたものをそのまま本にするというのが一般的な傾向であったが、神吉が「編集者と著者の共同作業」という出版メソッド・すなわち、編集者がテーマを設定して、企画力を発揮し、編集者が徹底的に注文を付けて書かせるという「創作出版」・著者と共に共同製作を行う「出版プロデューサー的出版社」を編み出し[19][24]、岩瀬の手法はこれを進化させたものであった。

ビジネス書や実用書ではゴーストライターの起用が当然となっている出版業界であるが、近年は小説などの分野においてもゴーストライターを使う例が見られる。例として、元・ライブドア経営者の堀江貴文による小説、『拝金』と『成金』があげられる。小説におけるゴーストライターの起用は、出版業界でもグレーゾーンにあたるらしく、普段はゴーストライターの起用を隠さない堀江もこれに関しては、口を閉ざしてコメントを拒んだ。有名人やタレントの名を借りた本が売れる現状の中で、出版業界のなりふり構わぬマーケティング手法には疑問が呈されている[25]

他人の手を借りて制作するという例でいえば、ノンフィクション作品や推理小説では取材や事実確認といった、いわば下調べ作業はデータマンの手に任せ、ライターはアンカーマンとして作品を書くだけといった分業体制を取っているケースは多い。例として、松本清張猪瀬直樹の名前が挙げられる。本人が書いている場合は、ゴーストライターとは言いきれない[26]。また本多勝一は、口述筆記を使用していることを公言している[27]翻訳出版の分野においては、下訳というかたちで下積みの翻訳家が先におおまかな翻訳をつくることがよく行われている。特に翻訳者として名前が出るのが、作家やタレントなどの著名人である場合には、下訳の重要性が増す。

漫画の分野では、漫画原作者シナリオライターなどが何らかの理由により、表には名前を出さずにストーリーを手掛け、作品自体は漫画家のみの名義で出される・あるいはストーリー作りへの低評価が原因で中位辺りで伸び悩む作品へのテコ入れ策として編集部がシナリオライターを途中参加させるなどの形で、多くはストーリーの構成の面においてゴーストライターの存在が噂されることがある。編集部サイドや担当編集者の強い主導により作品企画が進められるスタイルの雑誌の場合は、キャラクター設定や物語の概要のみならず、ストーリー制作の実権をも編集部や編集者が握ってしまうこともある。このような場合、編集部の内部でストーリーを考案している雑誌スタッフや編集者が、実質的なストーリー担当者となる。そういう場合であっても、編集部・編集者が原作者や脚本担当としてクレジットされる例は実際にはあまりなく、多くはゴーストライターと同様の形態になる。ただし、編集者も漫画家も自分がストーリーを考えたと思っているケースもあり、どちらが『原作者』であるかという判断は外部からは難しい。両者の言い分が反する場合には、原稿を描いている漫画家の言い分に理があるといえる。また、漫画の場合はアシスタントを使って人物以外の背景やメカなどを描かせるといった分業体制による作画は日常的に行われているが、これらに携わるアシスタントらの名前も通常はクレジットされない。


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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