ゴーストライター
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また、ゴーストとして担当した本であとがきを執筆する際に、自らと編集者の名前を出して謝辞を代筆してしまうが、編集者に削除されることもあると述べている[11]。ゴーストライターをするときの「著者」への取材時間は、一般的に10?20時間とされている。中には5時間で書くケースもあれば、何カ月もかけて密着取材をするケースもある[12]

ブロガーイケダハヤトは、世の中にある多くの本と同様に「自分の本は編集者の手が入っており、作品によっては半分近く編集者が書いている」、と開示している。その際に「エンドロールでずらずらと関係者の名前が並ぶ映画やゲーム」のように、「他人の手を借りて制作した場合は、そのことを開示する」というルールを提唱しており、実際に「電子書籍『ブログエイジ』は共著者として編集者」をクレジットしたものの、「紙の本」の業界においては「文化の壁があるようで、実現には至っていません」と述べている[13]

アメリカの出版業界では、スポーツ選手や企業人などの文章の素人が出版する際にはライターやジャーナリストとの共著として発表されることが多い。この場合の共著者とは、クレジットされたゴーストライターであり、文章執筆のすべてを請け負っている[14]。しかし、クレジットされるからと言って問題がまったくないというわけではない。アメリカで2006年に出版された『スリー・カップス・オブ・ティー』は、登山家から慈善活動家に転身したグレッグ・モーテンソンの自伝として売り出された。この本は、発売後4年(220週)もの間、「ニューヨーク・タイムス」紙のベストセラー(ノンフィクション部門)ランキングに載り続けたベストセラーであり、世界39カ国で翻訳、販売され、総計400万部以上を売り上げた。続編もベストセラーとなった。この2冊の共著者はデビッド・オリバー・レーリンというジャーナリストで、執筆にあたってモーテンソンの協力がなかなか得られなかったために想像によって自伝のエピソードを大きく補ったという。本がベストセラーになって注目を浴びたために、モーテンソンの慈善事業に集まった寄付金のうち7?23億円が行方不明になっていることや、内容に虚偽のエピソードが含まれていることに対して批判が巻き起こった。モーテンソンは慈善活動にいっそう力をいれることで償うと謝罪したが、レーリンは批判キャンペーンが展開された翌年の2012年に、罪悪感やライターとしての将来への悲観から49歳で自殺した[15]

日本では、1973年に出版された糸山英太郎議員の自伝・『太陽への挑戦』(双葉社)について、ゴーストライターの豊田行二が翌年に『小説・糸山英太郎 太陽への挑戦者』を『オール読物』(文藝春秋)に発表して代筆を暴露するという事件があった。元の本は一年半で50万部を売り上げるベストセラーであり、双葉社の怒りは相当なものであった。中堅幹部は、次のように語っている。「『太陽への挑戦』は糸山・豊田・双葉社の三者共犯から生まれた“鬼っ子”なんだからね、三者とも恥ずかしい行為をしているわけなんだよ。だから、それは公けにすべきではなく、棺桶の中まで持って入る“秘密”でなくちゃいけない」[16]

出版界では長らく暗黙の了解の存在だったゴーストライターという仕事を、広く公然化したのはKKベストセラーズの創業者・岩瀬順三である[17][18][19][20]1982年11月17日NHK教育テレビで放送された『NHK教養セミナー』「現代社会の構図ー出版界最前線」第2回〈ベストセラーを狙え〉[17]に出演した岩瀬が、当時同社から出版されてベストセラー第2位だった江本孟紀の『プロ野球を10倍楽しく見る方法[21][22]に関して、アナウンサーが「この本も、原稿をまとめたのは、実は出版社だという話です」と言うと、岩瀬は「書いたか書かないかでなく、誰の本.....山口百恵の本、江本の本ということが重要だ」と前置きをして「ゴーストライターによってつくろうとも、なまじ本人が書いて拙い文章の本をつくるより、言わんとすることを正確に、より読みやすく面白く書いてもらったほうがいい。江本孟紀の書いた本を売っているのではなく、“江本の本”を出しているのだと判断してもらいたい」と発言した[2][18][19]。これは、当時のゴーストライターに対する強い批判に岩瀬が回答し、ゴーストライター必要論を強調したものであった[2]。『プロ野球を10倍楽しく見る方法』は、220万部という記録的な売れ行きとなり、以降のゴーストライターブームをつくったと言われた[18]。その後、この手のタイトルと本作りのスタイルは他社にそっくり真似られ、20世紀末にはすっかり定着している。こうした手法を編み出したのは岩瀬ではなく、光文社カッパ・ブックスの創始者・神吉晴夫といわれる[23]。それまでは、著者が書いたものをそのまま本にするというのが一般的な傾向であったが、神吉が「編集者と著者の共同作業」という出版メソッド・すなわち、編集者がテーマを設定して、企画力を発揮し、編集者が徹底的に注文を付けて書かせるという「創作出版」・著者と共に共同製作を行う「出版プロデューサー的出版社」を編み出し[19][24]、岩瀬の手法はこれを進化させたものであった。

ビジネス書や実用書ではゴーストライターの起用が当然となっている出版業界であるが、近年は小説などの分野においてもゴーストライターを使う例が見られる。例として、元・ライブドア経営者の堀江貴文による小説、『拝金』と『成金』があげられる。小説におけるゴーストライターの起用は、出版業界でもグレーゾーンにあたるらしく、普段はゴーストライターの起用を隠さない堀江もこれに関しては、口を閉ざしてコメントを拒んだ。有名人やタレントの名を借りた本が売れる現状の中で、出版業界のなりふり構わぬマーケティング手法には疑問が呈されている[25]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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