ゴキブリ
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油虫という名前は油ぎったような外見から、御器噛という名前は蓋付きの(御器[注釈 1])をかじる虫であることから由来し、他にも地域によってゴキクライムシやゴゼムシ、アマメ[注釈 2]などと呼ばれていた[9]。御器をかぶることから御器被りとも解される[12][13]

そして明治時代になってゴキブリという名前が現れる[9]。この名称はゴキカブリから訛ったものだとも説明されるが[14]昆虫学者小西正泰によると、「ゴキブリ」という名称は、1884年明治17年)に出版された日本の生物学辞典『生物学語彙』(岩川友太郎)に脱字があり、「ゴキカブリ」の「カ」の字が抜け落ちたまま拡散・定着したことに由来する[10]。なぜ欠落したのかは定かではないが、同書は漢字1文字あたり2文字までしか読みを振れない活字を使っており、これによって中央の文字が抜け落ちた可能性がある[10]

俳句では「油虫(アブラムシ)」は夏の季語である[15]など広く親しまれていた名称だが、生物学上では矢野宗幹は1906年(明治39年)、アリマキとの混同を避けるためにゴキブリを総称とするよう提唱した[16]。標準和名としての使用は松村松年が1898年(明治31年)にPeriplaneta americanaにこの名を与えたのを皮切りとする[17]。1903年(明治36年)に名和靖ヤマトゴキブリを指してゴキブリとし、1904年(明治37年)に出版された松村松年の日本千虫図鑑第1巻でもゴキブリ名義でヤマトゴキブリが図説されている[18]。しかし矢野は1906年、本草綱目啓蒙の記述からゴキブリはゴキブリ属の種の総称だと解すべきとして、特定の1種の和名とすることはできないと論じた[16]

漢字表記には漢名の「蜚?」という文字が当てられ、沖縄県琉球方言でゴキブリを指す「ヒーレー」「フィーレー」という語は漢名の音読み「ひれん」に由来する[19]

中国普通話国語の場合)では「?螂(zh?nglang[20])」や「蜚?(f?ilian[20])」、香港広東語の場合)では「??(gaat6 jaat2[21]/おうそう)」という区別で呼ばれることもある。後者は「?」も「?」も常用漢字ではないが、日本でも時折ゴキブリを表わす漢字として用いられることがある。

英名はcockroachで、これはスペイン語のcucarachaが英語化したもの[22]。ほか、甲虫類に似ていることからblack beetleと呼ばれることもある[23]
進化史

定説では、ゴキブリが出現したのは、今から約3億年前の古生代石炭紀で、「生きている化石」とも言われてきた[24]。しかし後の研究では約2億6000万年前にゴキブリ目とカマキリ目が分岐し、現生ゴキブリ目は約2億年前のペルム紀に出現し、その後白亜紀(1億5000万年 - 6600万年前)に現在の科が出揃ったことが分かっている[25]。日本における最古の昆虫化石は、山口県美祢市にある中生代三畳紀の地層から発見されたゴキブリの前翅である[24]

出現以来、繁殖力の強さ、弾力性ある体、発達した脚や感覚器官、雑食性、飢餓への耐性、殺虫剤への抵抗性発達など、種々の要因で現在に至るまで繁栄してきた[26]。「人類が滅びたらゴキブリの時代がくる」とさえ言われているが、安富和男はこれについて、休眠性を持たない熱帯原産種(チャバネゴキブリやワモンゴキブリなど)は耐寒性が低く死滅し、残り(ヤマトゴキブリなど)は森林や熱帯雨林へ回帰するだろうと推測している[26]
生活史

卵 → 幼虫 → 成虫という成長段階を踏む不完全変態の昆虫である[27]。卵は数十個が一つの卵鞘に包まれて産みつけられるが、チャバネゴキブリのようにメスが卵鞘を尾部にぶら下げて孵化するまで保護するものや[27]、マダガスカルゴキブリのようにいったん体外で形成した卵鞘を体内に引き込んで体内保護するものもいる[28][29]。また、孵化後腹部である程度成長させたあとに体外へ生み出す胎生の種もいる[28]。幼虫は翅がない以外は成虫とほぼ同じ形をしており[27][30]、種類や環境条件によるが6 - 15回程度の脱皮を経て成虫となる[29]クロゴキブリのような大型種は成虫になるのに1年半から2年程の歳月を要するものが多く、世代交代の速度は遅い[31]。体の脂肪体を栄養とすることで、ワモンゴキブリは水さえ摂取していない状態でも 30 - 40日 は生存する[32]
形態
卵・幼虫Pennsylvania wood cockroach (Parcoblatta pennsylvanica)の卵鞘

ゴキブリの卵は卵鞘というキチン質から成るカプセルに十数個以上含まれており、クロゴキブリなどの大型種はがま口型で黒ずんだ茶色ないし濃茶色、チャバネゴキブリなどの小型種は長方形で薄茶色をしている[33]。この中に細長い卵本体が2列に並んで入っており、卵数は両面に出来た浅い溝の数と同じである[34]。卵数と大きさは大型種が10数個から20数個で7ミリメートルから1センチメートル前後、小型種は5ミリメートル前後で、チャバネゴキブリの場合は卵数は30数個から40数個である[33]。いずれも全てが孵化することはあまりない[33]

卵本体はバナナのような形で白く、大きさは大型種で0.8 - 1.2 × 2.5 - 3.5ミリメートル、小型種で0.3 - 0.5 × 2.0 - 2.5ミリメートル[35]。コリオニンというタンパク質由来の弾力性に富む卵殻に覆われるが、卵殻は卵を保護するには薄すぎるので、卵鞘が乾燥などから卵を守る役割を担う[35][注釈 3]。卵鞘は卵巣の附属腺から分泌された粘液が卵を覆って乾燥したものである[35]卵胎生のマダガスカルゴキブリ (Gromphadorhina portentosa)マダガスカルゴキブリ (Gromphadorhina portentosa)の成育段階比較

孵化時、卵鞘のジャック側を破って出てきたばかりの幼虫は白く透明で柔らかく、次第に表皮クチクラ層が空気中の酸素に触れて固くなり、固有色を帯びていく[36]。そうして1 - 2時間後には活発に活動するようになる[36]。幼虫は翅を持たない以外は成虫に似ており、孵化した幼虫は脱皮を繰り返して成育していき、最後には羽化して成虫となる[30]


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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)
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