コーポラティストの共同体や社会的相互作用の視点では、キリスト教やイスラム教、ヒンドゥー教、仏教、儒教などの宗教が、主要世界では一般的である[16]。そしてなによりも、コーポラティズムは政治的スペクトルをまたがった多くのイデオロギーを使用してきており、それには絶対主義や資本主義、保守主義、ファシズム、自由主義、進歩主義、反動主義、社会民主主義、社会主義、サンディカリスムなどが含まれる[17]。 コーポラティズム的な着想は、19世紀後半以降の非常に多種多様な思想の中に垣間見ることができる。具体的には、
思想としてのコーポラティズム
身分制議会を主張したオーストリアのオトマール・シュパン
イギリスのギルド社会主義
レオ13世の回勅「レールム・ノヴァールム」(1891年)
ピウス11世の回勅「クアドラジェジモ・アンノ」(1931年)
などが挙げられる。また、ヴァイマル憲法における経済議会はコーポラティズムの制度化とも考えられる。 国家コーポラティズムの典型例としては、イタリアのファシズムにおける「コーポラティスト国家」が挙げられる。ポルトガルのエスタド・ノヴォなど、戦後のイベリア半島やラテンアメリカの権威主義諸国も国家コーポラティズムの性格を有していた。 ただし、フィリップ・シュミッターは、思想としてのコーポラティズムも、政治システムとしての国家コーポラティズムも、検討が十分ではないと指摘している[18]。 戦後のヨーロッパの小国(北欧諸国やオーストリアなど)では、集権的な利益集団システムや、政府・労働組合・経営者団体の協調に基づく政策過程が観察された。シュミッターやゲルハルト・レームブルッフ 特に1970年代に先進諸国がスタグフレーションに喘ぐ中で、ネオ・コーポラティズム体制を構築していた開放経済の諸国は比較的良好な経済パフォーマンス(低失業率、低インフレ率)を維持していた。ネオ・コーポラティズムは、このことを説明する政治的要因としても着目された。 ネオ・コーポラティズムは主に賃金政策やマクロ経済政策の分析に使用される概念である。これを例にとって定義すると以下のとおりである。ネオ・コーポラティズムと多元主義OECD各国の労働組合加入率(従業員に占める割合%) ネオ・コーポラティズムは、最も狭義には集権的な利益集団システムを指す。たとえば労働組合の場合、集権性の度合いは、 などの指標によって測られる。このように利益集団システムの集権性の度合いが強いほど、その国のコーポラティズム度は高く位置づけられる。 団体交渉が、工場レベル・企業レベル・産業レベル・国レベルなど、どのレベルで行われるかは国によって、また年代によって異なる。労使交渉が国レベルなどのハイレベルで行われ、かつ、労使の上位組織による交渉結果がそれぞれの下位組織を強く拘束する場合、コーポラティズム度は高く位置づけられる。「団体交渉#種別」も参照 労使の利益集団システムが高度に集権化されている場合、政府は、それぞれ頂上団体にそれぞれのセクターの利害を包括的・独占的に代表させ、利害調整のパートナーとして政策決定過程に組み込むことがある(利益表出)。また、政策決定における独占的な地位と引き換えに、政労使の利害調整を経て決定された政策について、労使の頂上団体が円滑な政策実施に対して責任を負う。そして、頂上団体は、当該政策が自分たちの利益に適うことを下位組織に説明し、その受容を強要する(利益媒介)。さらに、行政機関に代わって労使の利益集団が政策実施の一部を担うこともある[注釈 1]。このように、利益集団が政策過程に組み込まれる度合いが高いほど、コーポラティズム度は高く位置づけられる。 利益集団システムのとしてのネオ・コーポラティズムに対して対極に位置づけられるのが多元主義である。すなわち、 という状態である。多元主義の特徴が強い国としてはアメリカが挙げられる。 先進諸国のコーポラティズム度[19]シュミッターによる順位[20]キャメロンによる指標[21] ネオ・コーポラティズム論において、インフレ率などの経済指標と労働組合の強さの関係について、通説と異説の見解に分かれる[注釈 2]。 通説的理解では、労働組合が強さや集権性に反比例してインフレ率が低くなる傾向が主張される。その理由としては、 などと説明される。 これに対して異説では、労働組合の力や集権性が弱い場合と強い場合の両極端でインフレ率が低くなり、その中間でインフレ率が高くなる傾向が主張される。
国家コーポラティズム
ネオ・コーポラティズム
背景
定義
利益集団システム
労働組合の組織率が高い。
国内の労働組合が単一の全国組織(頂上団体
各労働組合にとって上位組織への加入が強制的である。
組合費の配分について頂上団体への比率が相対的に多い。
下位組織のストライキなどに際して頂上団体が財政支援を行う。
頂上団体が多数の専属スタッフを抱えている。
頂上団体の決定から逸脱する下位組織に対して、頂上団体が有効な制裁措置を執りうる。
団体交渉
政策過程
多元主義との相違点
利益集団が分立・割拠しており、セクターの利害を独占的に代表する頂上団体が存在しない。
政策決定に対して影響力を行使するために同じセクターの利益集団どうしが競争している。
集権度独占度順位集権度独占度組織率指標
オーストリア1.03.01.00.81.05090.0
ノルウェー5.01.52.00.70.86597.5
スウェーデン5.04.54.00.70.870105.0
フィンランド5.04.54.00.60.84765.8
デンマーク8.01.54.00.40.85464.8
オランダ2.08.56.00.60.62833.6
ベルギー3.08.57.00.60.65566.0
ドイツ9.06.08.00.20.83232.0
スイス7.013.09.00.40.62424.0
カナダ12.58.510.50.00.42710.8
アメリカ合衆国12.58.510.50.00.4218.4
フランス10.013.012.00.00.2244.8
イギリス12.511.013.00.30.44531.5
イタリア12.513.014.00.20.24116.4
オーストラリア---0.30.44028.0
日本---0.10.2164.8
特徴
マクロ経済への影響
労働組合が集権的に組織されている場合、政府が社会保障政策を充実させることと引き換えに、労働組合が賃上げ要求を抑制する。
労働組合の交渉力が経営者にとって無視しがたいほど強力である場合、労働組合の経営参加が制度的に保障されるため、企業経営やマクロ経済を圧迫するほどの賃上げ要求を控えるようになる。
労働組合が集権的に組織されていない場合は「賃金交渉における集合行為問題」[注釈 3]が生じてしまう。その一方で、労働組合が集権的に組織されている場合、労組の全国組織は、全国レベルでの賃金交渉でマクロ経済全体を考慮した水準に抑制し、その交渉結果を傘下労組に強要するため、「賃金交渉における集合行為問題」が回避される。
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出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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