数値シミュレーションは天文学においては第三の手法と見なされている。天文現象というのは時の長さや空間的なスケールの大きさのせいで実験室で実験することが不可能なため、コンピュータシミュレーションが必要になる。天体物理学者はコンピュータのなかに宇宙を創り出しその中で天文現象を再現しその挙動を確かめる[50]。
太陽系の三体問題のコンピュータシミュレーション
連星から放出されるガスが周囲に引き起こすさざ波のシミュレーション
コンピュータの実機のシミュレーション(模倣)
コンピュータを使ったコンピュータのシミュレートというものもある。エミュレータと呼ばれるシミュレータも使われる(たとえば実機で走らせるのが困難な場合や面倒な場合や、制御されたテスト環境下でプログラムを実行して実害が出ない安全な状態で結果を事前に確認するためなどに使われる。)
仮想化というのもシミュレーションの一種である。たとえば、マイクロプログラムやアプリケーションプログラムを、実機に送り込む前にデバッグするのに使う。コンピュータの動作がシミュレートなので、コンピュータの動作の全ての情報をプログラマが直接的に利用でき、速度を変えたりステップ実行したりなど好きなようにできる。一方でいわゆる「ゲートレベル」の完全なエミュレーションは現実的でないことが多く、また普通はそこまで厳密にエミュレーションする必要はないことも多いが、例えばエミュレートしきれない部分の実機にバグがある場合のデバッグまではできない。プログラムによるシミュレーションでは速度的に不十分な必要な場合は、FPGAなどのプログラマブルなハードウェアによって、エミュレーションないしシミュレーションを行うこともある。VMware、VirtualBox、Hyper-Vなどを用いて、バーチャルにOSを構築し、さまざまな環境を設定してOSの挙動を安全な環境下で確かめる手法も一般化している。エミュレータ、命令セットシミュレータ、仮想化、仮想機械なども参照のこと。
通信プロトコルのシミュレーション
TCP/IP等の通信プロトコルの分野では日々新しい方式が提案されている。IEEEやITU、あるいは日本の電波産業会(ARIB)などで次世代の通信プロトコルの標準規格が議論されるが、このとき各提案者の案として提示されている規格が、さまざまな条件下でどのような特性を持っているのかを比較検討する必要がある。このような局面で通信プロトコルのシミュレーション が必須となっている。2層(データリンク層)以上の通信プロトコルの規格は状態遷移図で記載されることが多いが、記述された状態遷移等の処理、条件をコンピュータ上で疑似し、スループットやエラー処理などの評価を行う。
学術機関で用いられるシミュレータはns[51] 等のオープンソースソフトウェアが多いが、民間企業や民間研究所のような、資金に余裕があり応用に近い研究を行う組織では、大規模トポロジ構築などを容易に行えるツール群が整備され、より迅速に現実に即した解析が可能なQualnet[52][53]、OPNET Modeler[54][55] 等の商用のシミュレータを使用するケースが多い。
この分野のシミュレーションでは信号処理の部分をMATLAB/Simulink、[56]電波伝搬の部分をWirelessInSight, Winprop, Atoll等の他のシミュレータや計算ソフトと連携させたりする場合もある。また特に無線、移動体の分野では各通信機の動きも重要な要素となるためその部分に関して他のツールや実際の計測値などと連携させる試みもなされている。
Qualnet、OPNET Modeler[57]等の商用ツールでは実際のネットワーク上を流れる通信パケットをシミュレータと接続できるものもあり、仮想のネットワークを利用した時の動画品質も確認などにも使われている。
電子回路の設計・実験
コンピューター上で電子回路の設計や実験をするのに、SPICEやSPICEを起源とする電子回路シミュレーション・ソフトウェア等が使われている。電子回路を所定の書式でシミュレーターに入力(GUIによる入力が可能なものも多い)すると、各電子部品の電気的特性を元に回路の動作が計算され、回路の動作を調べることができる。[58]
マイクロプロセッサなど高度に複雑なディジタルLSIの論理設計も、実際に製造に入る前にシミュレータでテストされる。
アンテナのシミュレーション
無線工学においては、アンテナの設計をするのにアンテナ・シミュレーション・ソフトウェアが用いられる。アマチュア用途ではMMANAやMMANA-GAL等のフリーソフトがある。アンテナの物理的な形状を入力すると、自由空間や特定の地上高におけるアンテナ上の電圧分布、電流分布、共振周波数、給電点におけるインピーダンス特性、SWR特性などを計算により求めることができる。短縮型アンテナやマルチバンド・アンテナの設計のために、延長コイル、短縮コンデンサ、LCトラップ等を挿入した場合のリアクタンス値を求めることもできる。
電波伝播のシミュレーション
無線工学において、電波伝播(電波の伝わり方)をシミュレーションするのに電波伝播シミュレーション・ソフトウェアが用いられる。VHFやUHFのテレビ放送局や中継局のサービスエリアを調べるために、アメリカの研究者 A. G. Longley と P. L. Rice とが1968年にLongley-Rice Modelアルゴリズムを開発・発表した。このアルゴリズムは 20 MHz - 20 GHz の周波数に適用でき、これを基にした電波伝播シミュレーション・ソフトウェアが、日本のいくつかの電気通信コンサルタント会社により開発されている。[59]
シミュレーションするには、ソフトウェアに、大地の導電率と比誘電率、大気の屈折率、送信場所や受信場所の標高、周波数、電波の偏波面、アンテナの利得や地上高、送信機の出力、受信機の感度などの値を与える。また、シミュレーション対象地域のデジタル地形データ(たとえばNASAのFTPサイト[60] からダウンロードできる)を与える。すると、電波の大気による屈折、地形による反射や回折、電波が伝わるうえで受ける減衰等を計算し、電波の届く範囲をシミュレーションする。結果は、数値や、地図上に電波の強さごとにグラフィカルに色分けして示される。[59]
フリーソフトとしてはカナダのアマチュア無線家 Roger Coude(VE2DBE)が1988年に開発した Radio Mobile[61] がある。