コンパクト空間
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なぜなら点列概念は添字が可算である事が原因となり、点列で閉集合を特徴づけるには位相空間の方にも何らかの可算性を要求する必要が生じてしまうからである。詳細は列型空間を参照。
定義

定義 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラス性によるコンパクトの定義) ― 位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} が以下の性質を満たすとき、 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} はコンパクトであるという[4]

(有向点族に対するボルツァーノ・ワイエルシュトラス性) X上の任意の有向点族 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} に対し、 ( x λ ) λ ∈ Λ {\displaystyle (x_{\lambda })_{\lambda \in \Lambda }} のある部分有向点族 ( x λ γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} とx∈Xが存在し、 ( x λ γ ) γ ∈ Γ {\displaystyle (x_{\lambda _{\gamma }})_{\gamma \in \Gamma }} はx∈Xに収束する

上記の定義は、 R n {\displaystyle \mathbf {R} ^{n}} 上の有界閉集合に関するボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理の結論部分を有向点族に自然に拡張したものである:

定理 (ボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理) ―  X ⊂ R n {\displaystyle X\subset \mathbf {R} ^{n}} が有界閉集合であるとき、X上の任意の点列は収束する部分列を持つ。

なお、コンパクトの定義において、元々のボルツァーノ・ワイエルシュトラスの定理と同様、有向点族ではなく点列に対してのみ収束部分列を要求したものを点列コンパクト性と呼ぶが、点列コンパクト性は距離空間においてはコンパクト性と同値(より一般的に擬距離空間でも同値)であるものの、無条件にはこの同値性は成立しない。点列コンパクト性に関する詳細は後述する。
ハイネ・ボレル性によるコンパクト性の定義

次にコンパクトの概念を全く違う角度から特徴づける。この特徴付けの基盤となるのは R n {\displaystyle \mathbf {R} ^{n}} の有界閉集合に対するハイネ・ボレルの被覆定理である。そこでまず、この定理の記述に必要な概念を定義する。

定義 (開被覆) ―  ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} をXの部分集合の集合とする。 ∪ O ∈ S O = X {\displaystyle \cup _{O\in {\mathcal {S}}}O=X}

が成立するとき、 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} はXを被覆するといい、特に S {\displaystyle {\mathcal {S}}} の元が全て開集合であるとき、 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} をXの開被覆(: open cover)という。
定義

コンパクト性の概念は以下のように特徴づける事ができる:

定義 (ハイネ・ボレル性によるコンパクトの定義) ― 位相空間 ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} が以下の性質を満たすとき ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} はコンパクトであるという[4]

(ハイネ・ボレル性) Xの任意の開被覆 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} に対し、 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} のある有限部分集合 T {\displaystyle {\mathcal {T}}} が存在し、 T {\displaystyle {\mathcal {T}}} はXを被覆する[4]

定理 (2つの定義が同値であること) ― ハイネ・ボレル性によるコンパクトの定義はボルツァーノ・ワイエルシュトラス性によるコンパクトの定義と同値である[4]

上述の定義における T {\displaystyle {\mathcal {T}}} の事を S {\displaystyle {\mathcal {S}}} の有限部分被覆という。

もともとのハイネ・ボレルの定理は以下のように記述できる:

定理 (ハイネ・ボレルの被覆定理) ―  R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} の部分集合Xが有界閉集合であれば、( R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} から誘導される部分位相に関して)ハイネ・ボレル性によるコンパクトの定義を満たす。

後述するように、実は逆向きも成立する事が知られているので、 R n {\displaystyle \mathbb {R} ^{n}} においてはコンパクト性は有界閉集合である事と同値である。なお、一般の距離空間では「コンパクト部分集合⇒有界閉集合」は言えるが逆向きは成立するとは限らない。
有限交差性

ハイネ・ボレル性による定義における「開集合」の補集合を取って「閉集合」とし、さらに対偶を取る事で、コンパクト性の以下の特徴づけが得られる:

定義 ―  ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} を位相空間とし、Xの閉集合の任意の集合 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} が以下の性質を満たすとき、 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} は有限交差性を満たすという:

F {\displaystyle {\mathcal {F}}} の任意の有限部分集合 F ′ {\displaystyle {\mathcal {F}}'} が、 ∩ F ∈ F ′ F ≠ ∅ {\displaystyle \cap _{F\in {\mathcal {F}}'}F\neq \emptyset } を満たす。

定理 (有限交差性によるコンパクトの特徴づけ) ―  ( X , O ) {\displaystyle (X,{\mathcal {O}})} がコンパクトである必要十分条件は以下の性質が成立する事である[4]

Xの閉集合の任意の集合 F {\displaystyle {\mathcal {F}}} が有限交差性を満たせば ∩ F ∈ F F ≠ ∅ {\displaystyle \cap _{F\in {\mathcal {F}}}F\neq \emptyset } が成立する。

この条件は区間縮小法の一般化になっているとみなすことができ、位相空間における存在証明に重要な役割を果たす。
利用例

ハイネ・ボレル性は定理の証明などでXの各点xの近傍 O x {\displaystyle O_{x}} 上で局所的に示されている性質をX全体に広げる際に用いられる。この場合、ハイネ・ボレル性でいう開被覆 S {\displaystyle {\mathcal {S}}} は典型的には各点の近傍の集合 S = { O x ∣ x ∈ X } {\displaystyle {\mathcal {S}}=\{O_{x}\mid x\in X\}} であり、ハイネ・ボレル性はこの無限個の開集合からなる開被覆から有限部分被覆 T {\displaystyle {\mathcal {T}}} を抽出して、無限に伴う証明の困難さを回避する事を可能にする。

具体的には以下の定理の証明をもとに、ハイネ・ボレル性の使い方を説明する:

定理 (ハイネ・カントールの定理) ― 距離空間X、Yに対し、Xがコンパクトであれば、X上定義された任意の連続関数 f   :   X → Y {\displaystyle f~:~X\to Y} は一様連続である

この定理は、ハイネ・ボレル性を利用して以下のように証明する。まずfの連続性により、任意にε>0を固定するとき、Xの各点xの、あるδx-近傍が f ( B δ x ( x ) ) ⊂ B ε ( f ( x ) ) {\displaystyle f(B_{\delta _{x}}(x))\subset B_{\varepsilon }(f(x))} を満たす。ここで B ε ( y ) {\displaystyle B_{\varepsilon }(y)} は点yのε-近傍を表す。

この δ x {\displaystyle \delta _{x}} はxに依存しているが、もしも正数 ε {\displaystyle \varepsilon } を与えたときに f ( B δ ( x ) ) ⊂ B ε ( f ( x ) ) {\displaystyle f(B_{\delta }(x))\subset B_{\varepsilon }(f(x))} を満たす正数δが点xに依らずに選べるのであれば f {\displaystyle f} の X {\displaystyle X} における一様連続性が言える。


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